追跡者たち
主人公名と、国名の一部を変更しました。
ルナリア→ルナーリア プリシア国→プレシア国
ここまでお読みいただいていた皆様、ほんとうに申し訳ございませんm(__)m
どうぞ広い心で、これからも主人公たちを見守ってやってくださいませ。
よろしくお願い致します✨
先ほどからテールベルトは地図を見ていた。
自室の机の上に広げ、腕組みをしたまま考えを巡らせる。
肩までかかる金髪が一筋、胸の前に落ちた。
地図に描かれている国は、プレシア国を含めて五ケ国だが、必ずしもこれらの国にルナーリアがいるとは限らない。地図はまだ描かれていない未踏の国々があることを示していた。
王子の後ろには、側近の近衛兵が一人、その隣に魔法師のジンクが立っている。
テールベルトは、憂いのこもったブルーグレイの目を側近の近衛兵に向けて、席を外すよう言った。
彼が出て行くと、ジンクをそばへ呼び寄せて問う。
「まだ、あれは動いていないか?」
ジンクは灰色の髪を一つにまとめ、長いローブを着ていた。さすがにフードは被っていないが、年齢不詳の歴戦の名残をとどめた陰のある顔、漆黒の瞳には、知恵と魔力がこもっていた。
「動いておりませぬ。しかしながら、魔力の痕跡は認められますゆえ、生きているのは間違いないかと。ルナーリア様は魔力が大きいので、その痕跡もかなりなものです」
「そうか。ならば、まだこの地図の国々のうちに居るということだな」
「左様でございますな。おそらくはテルナン国内ではないかと」
「ふむ。国王は、父上は動かぬか?」
「はい。静観しておいでのようで」
「父上はアリザの方がよいと思っておられるのだろうか」
テールベルトは、二番手の聖魔女候補の少女、アリザの華やかな顔を思い浮かべた。
赤茶色の巻き毛に、大きな緑の目をした侯爵家の二女。彼女のことは、よく見聞きしていた。悪くはないが、父親の侯爵は、あまり好きになれなかった。
「さて、そこはなんとも……ただ、殿下の後ろ盾になるお方としては、申し分ないとお思いかもしれませぬ」
「うむ、それはわかるが、それもまた問題があるだろう?」
「宮廷で力が偏ることは、避けた方が無難でございますが……殿下は、アリザ様よりルナーリア様をお望みなのですか?」
「いや、よくわからぬのだ。だいたい、あれとは、ほとんど会ったことも、見たこともないのだ。とび抜けた魔力があるという話だけしか知らぬ。ただ、私と婚約するのが嫌だと言って逃げた、というのは聞いている。それが、私としては悔しく思う。それだけだ」
「左様でございましたか、殿下のお心が傷つかれたのですな……」
「そうはっきり、言うな、よけい傷つく」
テールベルトは、額に手を置いて上を見上げた。
「失礼いたしました、お許しを……」
ジンクは頭を下げる。
「もうよい、事実だからな。ルナーリアには一度、会って話してみたいのだ。それからだ、すべては。だから、何としても見つけ出すのだ」
「では、まず、テルナン国に使者を送りましょう。公式に官吏を派遣することは叶いませぬが、かの国と所縁を持つものを探し、使者とするのです。諸侯の地に手配書を配ります。草の根を分けても探し出せるように。賞金をかけてもよろしいかと。配下の者たちも潜入させます。いかがでしょう?」
「ふむ、よし、その作戦で行ってみよう。神官長の手の者より早く見つけ出したいものだ」
「おまかせを」
ジンクは礼をとって、瞬間移動魔法で姿を消した。
テールベルトは、側近の近衛兵を呼び、お茶の用意をするように言った。
*
「お嬢様、このようなドレスはいかがでしょう?」
侯爵邸の一室で、王都でも一、二を争う人気の洋装店のマダムとお針子が、アリザに新しいドレスのデザイン画を見せていた。
「あら、素敵。こういうドレスも一つくらいあってもいいわね」
「きっと、お似合いになりますわ。アリザ様はお美しくていらっしゃいますから、シンプルなドレスも、皆様方の目を奪うに違いありませんわ。来月には仕上がりますから、お楽しみになさってくださいませね」
足どり軽くマダムとお針子は屋敷を出て行った。
アリザは東屋に紅茶を運ばせると、一息つきながらティータイムを楽しんでいた。新しいドレスは、次の夜会に着て行こう。王子殿下にお会いして、お話ができるかもしれない。そう思うと、口元がゆるむ。おそらく、次の聖魔女は自分になるだろうと思っていた。
もう一人の聖魔女候補のコーラルは、平民で魔力も少し自分より弱いと踏んでいた。何を考えているかわからない寡黙な少女だった。
侍女が、頭を下げたので、目を上げると父の侯爵が立っていた。
「あら、お父様――」
アリザは父の顔を見て、侍女に侯爵の好きな紅茶の茶葉を取りに行かせた。
侯爵はアリザの向かいに腰を下ろした。
「何かありまして?」
「ルナーリアが、生きているらしい」
ぼそっと侯爵が言った。
「え、ほんとうに?」
「ああ。捜索の手を増やしたようだ」
「そうですか……」
「まあ、心配することはない。見つかったとしても無理やり聖魔女にはできないだろう」
「そうですわね」
「そういうことだ。我が配下の者も捜索に出す。誰よりも早く見つけ出して、遠き国へ逃してあげようではないか。どうだね」
侯爵は軽く笑った。
アリザも薄く笑った。




