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まったく、その気にならなくて  作者: あけの星
第一章

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遮断の石3

 

 おじさんは、わたしの方をちらりと振り返ってたずねた。

 

「こっちの方か? なんという村だ? わからない? 変な奴だな。何か目印はないか? 覚えているものは?」


 わたしは首を横に振った。


「仕方ねえな、このまま真っすぐ行ってみるから、見覚えのある所に来たら言うんだぞ」


 わたしはうなずいて、おじさんの背に顔を寄せた。汗と土の匂いがしていた。


 しばらく背負われて山道を行くと、見覚えのある大きな石が見えてきたので、おじさんの肩をつついた。

「ここか? 町へ行く分かれ道だぞ。大丈夫か?」

 わたしはうなずく。

 おじさんは、わたしを降ろした。


「気をつけて帰れよ」

 そう言うと、片手を上げ、元来た道を帰って行った。



 翌日、わたしはおじさんと会った川へ向かった。

 すると、やはり川で砂金を採っていた。


 おじさんは、わたしを見ると、肩をすくめて、仕方ねえな、と言った。


 その日以来、わたしはおじさんが、この地を去るまで、毎日おじさんについて回ったのだった。


 砂金取りに飽きると、山肌を見て歩く。その都度、わたしが何をしているのかと聞くものだから、最初はあきれていたが、さほど嫌がりもせず教えてくれた。どういうところに有用な鉱脈があるとか、この石は何だとか、それをわたしは興味深く聞いていた。


 いつもの川縁で、腰を下ろして話をしていたときのこと。


「おじさんの仕事は、金を探すことなの?」

 わたしが聞くと、少し間があってから答えが返ってきた。


「まあ、そうだな。それが見つかるのは最高だがな、それ以外にも役に立つものがあるのさ」

「どんなもの?」

「うーん、おまえにわかるかなあ。魔法に使う石だよ」


「わかるよ。魔法使えるもん。ほら」

 わたしが、手に小さな火花を起こして見せると(まだこのころは、炎はできなかった)、おじさんは、目を見開いた。


 それまで、本当にわたしを見ていなかったのではないか、と思うくらい、じっとわたしの顔を見た。

「わかった。やめなさい」

 おじさんは、わたしの手の上に自分の手を置いて、火花を消した。


 そして急に人が変わったみたいに真剣な口調で言った。

「気をつけるのだ、あまり魔法が使えることを知られないように。それがお前の身のためだ」

「なぜ?」

 そのとき、おじさんはいきなり腰の短剣を抜いて、わたしの後ろに投げた。何やら呪文らしきものを唱えて。


 振り返ると、短剣は炎に包まれて大きな蛇に刺さっていた。いつのまに?

 後ろの緩やかな崖から降りてきたのだろうか。

 わたしは声を上げて、おじさんにすがりついた。


「もう大丈夫だ」

 わたしは後ろの方をこわごわ見た。 

 そこに蛇の姿はなく、短剣だけが残っていた。


 おじさんは、すがりついていたわたしの背中を軽く叩いて、そっと離すと、その短剣を引き抜いた。

 短剣は炎で焼いてから、また腰に戻した。


「あれは幻影魔法さ。しつこいやつらだ。しかし……まずいな、そろそろここを離れないと。おい、明日からここに来ても、おれはいないからな。そうだ、これを教えておいてやろう」


 おじさんは、腰の袋から石を出して見せてくれた。黒い結晶の石だった。


「遮断の石だ。おれは、これを遮断石と呼んでいる。誰かに魔法をかけられたときに、それを遮断できる。覚えておくといい」

 わたしは、その石を目にしっかり焼き付けたのだった。

 

 おじさんは立ち去り際に、少し考えていたが、一人うなずくと、腰の荷袋から小ぶりな短剣を取り出して、鞘ごとわたしに差し出した。


「これは、おれが昔、使っていたものだ。おまえにやる。持っておけ。ああ、そうだ、まだおまえの名を聞いてなかったな、なんて名だ?」

「みんなは、ルーアって」

 この頃、わたしはたいてい愛称で呼ばれていた。

「そうか」

「おじさんは?」

「おれは――名無しだ」

「ふうん、ナナシ?」

 わたしはいぶかしげに彼を見上げた。


「じゃあな。あ、それと、おれはまだおじさんじゃない、お兄さんだ」

 おじさんはニヤリと口角を上げてそう言った。


「ありがとう、ナナシおじさん、忘れないよ」


 彼は肩をすくめると去っていった。


 わたしは後姿が見えなくなるまで見送っていたーー



 ――そして今、わたしはその短剣を使おうとしている。


 鞘から抜いた短剣を目の前にかざす、そして火の魔法を付与する。

 どのくらいいけるか、ものは試しだ。


 わたしは短剣に魔力を込め、黒い結晶に振り下ろした。

 



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