遮断の石3
おじさんは、わたしの方をちらりと振り返ってたずねた。
「こっちの方か? なんという村だ? わからない? 変な奴だな。何か目印はないか? 覚えているものは?」
わたしは首を横に振った。
「仕方ねえな、このまま真っすぐ行ってみるから、見覚えのある所に来たら言うんだぞ」
わたしはうなずいて、おじさんの背に顔を寄せた。汗と土の匂いがしていた。
しばらく背負われて山道を行くと、見覚えのある大きな石が見えてきたので、おじさんの肩をつついた。
「ここか? 町へ行く分かれ道だぞ。大丈夫か?」
わたしはうなずく。
おじさんは、わたしを降ろした。
「気をつけて帰れよ」
そう言うと、片手を上げ、元来た道を帰って行った。
翌日、わたしはおじさんと会った川へ向かった。
すると、やはり川で砂金を採っていた。
おじさんは、わたしを見ると、肩をすくめて、仕方ねえな、と言った。
その日以来、わたしはおじさんが、この地を去るまで、毎日おじさんについて回ったのだった。
砂金取りに飽きると、山肌を見て歩く。その都度、わたしが何をしているのかと聞くものだから、最初はあきれていたが、さほど嫌がりもせず教えてくれた。どういうところに有用な鉱脈があるとか、この石は何だとか、それをわたしは興味深く聞いていた。
いつもの川縁で、腰を下ろして話をしていたときのこと。
「おじさんの仕事は、金を探すことなの?」
わたしが聞くと、少し間があってから答えが返ってきた。
「まあ、そうだな。それが見つかるのは最高だがな、それ以外にも役に立つものがあるのさ」
「どんなもの?」
「うーん、おまえにわかるかなあ。魔法に使う石だよ」
「わかるよ。魔法使えるもん。ほら」
わたしが、手に小さな火花を起こして見せると(まだこのころは、炎はできなかった)、おじさんは、目を見開いた。
それまで、本当にわたしを見ていなかったのではないか、と思うくらい、じっとわたしの顔を見た。
「わかった。やめなさい」
おじさんは、わたしの手の上に自分の手を置いて、火花を消した。
そして急に人が変わったみたいに真剣な口調で言った。
「気をつけるのだ、あまり魔法が使えることを知られないように。それがお前の身のためだ」
「なぜ?」
そのとき、おじさんはいきなり腰の短剣を抜いて、わたしの後ろに投げた。何やら呪文らしきものを唱えて。
振り返ると、短剣は炎に包まれて大きな蛇に刺さっていた。いつのまに?
後ろの緩やかな崖から降りてきたのだろうか。
わたしは声を上げて、おじさんにすがりついた。
「もう大丈夫だ」
わたしは後ろの方をこわごわ見た。
そこに蛇の姿はなく、短剣だけが残っていた。
おじさんは、すがりついていたわたしの背中を軽く叩いて、そっと離すと、その短剣を引き抜いた。
短剣は炎で焼いてから、また腰に戻した。
「あれは幻影魔法さ。しつこいやつらだ。しかし……まずいな、そろそろここを離れないと。おい、明日からここに来ても、おれはいないからな。そうだ、これを教えておいてやろう」
おじさんは、腰の袋から石を出して見せてくれた。黒い結晶の石だった。
「遮断の石だ。おれは、これを遮断石と呼んでいる。誰かに魔法をかけられたときに、それを遮断できる。覚えておくといい」
わたしは、その石を目にしっかり焼き付けたのだった。
おじさんは立ち去り際に、少し考えていたが、一人うなずくと、腰の荷袋から小ぶりな短剣を取り出して、鞘ごとわたしに差し出した。
「これは、おれが昔、使っていたものだ。おまえにやる。持っておけ。ああ、そうだ、まだおまえの名を聞いてなかったな、なんて名だ?」
「みんなは、ルーアって」
この頃、わたしはたいてい愛称で呼ばれていた。
「そうか」
「おじさんは?」
「おれは――名無しだ」
「ふうん、ナナシ?」
わたしはいぶかしげに彼を見上げた。
「じゃあな。あ、それと、おれはまだおじさんじゃない、お兄さんだ」
おじさんはニヤリと口角を上げてそう言った。
「ありがとう、ナナシおじさん、忘れないよ」
彼は肩をすくめると去っていった。
わたしは後姿が見えなくなるまで見送っていたーー
――そして今、わたしはその短剣を使おうとしている。
鞘から抜いた短剣を目の前にかざす、そして火の魔法を付与する。
どのくらいいけるか、ものは試しだ。
わたしは短剣に魔力を込め、黒い結晶に振り下ろした。




