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まったく、その気にならなくて  作者: あけの星
第二章 追っかけ弟子編

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一つ目の課題


 ――ああ、心地よい優しい音色……


 わたしは、どこからか流れてくる竪琴の音で、目を覚ました。

 美しい音には、軽い魔法の気配があった。

 瞬きしてあたりを見る。


 ここは……そうだった、山小屋のベッドに寝ていたんだったわ。

 

 竪琴の音はまだ響いている。


 ジンクが弾いているのかしら?


 わたしはベッドから降りて、小屋の中を見回した。ジンクの姿は見えなかった。

 まだ地下にいるのかもしれない。地下へ降りる入り口は、閉まっていた。

 竪琴の音はそこから響いてくるようだった。

 

 ジンクが竪琴を弾くとは知らなかったけれど、エルフは音楽が好きで、よく楽器を演奏するということは、聞いた覚えがあった。


 そうだとしたら彼も弾けないはずはないわね。


 竪琴を弾く彼の姿を見てみたくなった。

 それに地下はどうなっているのかも気になった。


 後で見せてもらおう。とりあえず弟子の仕事を始めなくちゃ。


 入口の戸を開けて、外へ出た。まだ日は登っていないが、空は朝焼けが始まる前の明るみを帯びている。


 わたしは裏庭の流れ落ちる清水で、顔を洗い、部屋に戻った。


 小さな風を起こして窓と戸口から埃を掃き出す。濡らした布を固く絞り、家具や床を拭く。

 一通り終わると小屋の外に出て、また小さな風を起こして、ゴミや落ち葉をかき集め、火の魔法で燃やした。


 小屋に入って行くと、ジンクがソファの横の床に座って瞑想していた。

 

 わたしも、少し離れて彼の隣に座り、呼吸を整える。

 瞑想するのは、魔法学院でもいつものことだったから、とくに力みもせず半眼に目を閉じた。


 やがて軽い手を打つ音がして、瞑想の雲間から戻ってきたときには、すっかり日は登り切っていた。まだ昼には早く、朝食には遅い時間だった。


「さあ、食事にしよう」


 わたしは弟子らしく、さっと立ち上がる。

 暖炉に火を起こし、鍋を温めておいてから、昨夜の残りのパンと食器をテーブルに並べた。

 温まったスープを、木のスープ皿に入れ、彼の前に置いた。 


 これで完璧よね。


 そう思ったとき、それまで何も言わず、わたしの様子を見ていたジンクが言った。

「おまえの分はどうした」

「え、弟子は一緒に食べないものでしょ?」


 ジンクは苦笑しながら言う。

「そういうことは気にするな。おれたちには当てはまらない。食事は一緒でいい」

「わかった。一緒に食べる」


 わたしは、自分の皿にスープを入れた。


「よく眠れたか?」

 彼はわたしの顔を見ながら言う。


「おかげさまで。よく眠れたわ。さっきの竪琴は、ジンクが弾いていたの?」

「ああ。ちゃんと聞こえたようだな」

「とてもきれいな音だったわ」

「これから毎朝、弾いてやる。目覚ましだ」


「わたしを起こすために弾いていたの?」

「まあな」

「目覚ましだけじゃなくて、ちゃんと聴きたいわ」


「そうか……そうだな、弾いてもいい。よし、一つ課題を出すから、それが達成できたら褒美ということにしよう」

「えっ、課題?」


「この山小屋に張っている結界の一ヶ所だけ、少し薄くしてある。

 魔力は今以上出さずに破ってみろ。そこだけでも破れたら合格だ」


「はいっ」

 わたしは威勢よく返事した。

 

 やった、ジンクの結界を破るチャンスだわ!


 朝食を食べ終えたあと、急いで片付ける。ジンクはもう手伝ってはくれなかった。


 いよいよ本当の修行開始ね。


 わたしは気を引き締めた。


 勇んで外へ出ようとするわたしに向かって、彼は声をかけてきた。

「あまり、気負うな。自然体でやれ。毎日、夕食の支度をする前までやっていい」


「はい、師匠」

「師匠は、やめてくれ」

「じゃあ、先生!」

「ダメだ、もっと居心地が悪い。ジンクでいい」

「はい、ジンク」

「よし、行っていいぞ」


 わたしは小走りに外へ飛び出した。

 いつもの結界が張られている場所まで来て、触りながら薄い場所を探して行く。

 まもなく、いくらか薄い感じのする部分を見つけた。


 毎日、やっていいって、言ってたけど、そんなに時間かからないわよね。たぶん。


 わたしは魔力を制限し、呼吸を整える。瞬時に火炎の魔法陣を描いて、薄い部分に火炎を投げた。

 が、結界はびくともせず、火炎はくすぶって消えた。


 今度は、雷の剣で試したが、結果は同じだった。


「これも駄目か……」


 わたしは唸った。どうしたものか。それで今度は二種類組み合わせでやってみた。それも、いくらかましな程度で、破れそうにない。


 あれこれ考えて試しながら、やっているうちに、気がつくともう陽が傾き始めていた。


 いけない、夕食の支度をしないと。

 弟子って、結構大変なのね…… 


 もう、かなり疲れ果てていた。

 これから戻ってまた一仕事だ。


 邸だと自分のことさえしていればよかった。

 マダーや侍女、料理人たちがやってくれていたことの、ありがたみをつくづく思った。

 これが、人に仕えるということなのだ。


 だけど、自分で決めたことなのだもの、頑張らないと……


 わたしは自分を励まして、小屋の戸を押し開けたときだった、目の前が揺れた気がした。


 

 












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