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まったく、その気にならなくて  作者: あけの星
第二章 追っかけ弟子編

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弟子の仕事


 水が跳ねた。

 

「今だ!」

 ジンクが声をかけた。


 わたしは魔力を極力抑えて、小さなつむじ風を標的の魚に投げた。

 すると、つむじ風に巻き上げられた魚が二匹、銀色の腹を見せて川岸に落ちてきた。

 

 それを持ってきていた籠に入れる。


 弟子の約束をした後すぐ、ジンクは仕事だといって、近くの川へ魚取りにきたのだった。魚は今日の夕食だ。


 本当は、食事もエルフの食事に準じたものを作って食べるところを、慣れていないわたしのために、魚を採ろうと言い出したのだ。


 わたしの甘い考えは、どうやらお見通しだったみたい。食事作りは一から教えてくれるらしい。


 天界の境界にある森のエルフは、あまり肉を食べない。美しく長命である彼らの主食は、森のウィタと呼ばれる木の実を粉にして、焼いたパンなのだという。それは魔力の実のようなエネルギーのこもった実なのだと彼は話してくれた。


「おれは、どちらでも食べられるが、食べて心地よいのはやはりウィタの実のパンの方だな。おまえも、少しずつエルフ食を覚えるといい。魔力にも違いが出る」


 わたしはそれを聞いたとき、アジューが持ってきてくれた魔力の実を思い出した。あれほどでないにしても、かなりの影響はあるかもしれないと思った。


「そうするわ。作り方と食材をどうするか、教えてね」

「ああ。食材は、この小屋の台所にまだ当分あるからな。明日から教えるよ。とりあえず今日は、魚にしよう」


 ジンクは、わたしを連れて結界を通り抜け、近くの川原へと連れてきてくれたのだった。


「さあ、帰って料理するか」


 彼は魚の入った籠を持って、小屋の方へ歩き出した。

 わたしも、彼の後について歩く。

 くっついてないと小屋の結界に入れない。


 無事に結界を通り抜け、小屋の入口まで来ると、彼は小屋の裏へ足を向けた。

 わたしは雛が親鳥の後をついて行くように彼の後を追いかける。


 ジンクが足をとめた。

 すぐそばに、青々とした草が生えている。

 彼はそれを数本採って、匂いを嗅ぎ、わたしにも嗅がせた。

 よく料理に使われている匂いがした。


「覚えておけ、香草だ。これを使う」


 わたしがうなずいたのを見て、裏山から流れ落ちる清水で魚を洗った。

 それからそばに生えていた木から大きめの葉を採って、魚を載せた。

 その上に香草をおき、葉で包む。


 小屋の入口に近い裏手に薪置き場があるのを指さして、持ってくるよう言った。

「どのくらい?」

「一抱えかな」

「はい」

 素直に動く。

 自分としてはめずらしい。


 急いで薪を抱えて戻る。


 その間に、ジンクは地面に石を並べていた。


「この中に置くんだ」

 わたしは言われた通り、円形に並べられた石の中に薪を置いた。


「おまえは、火の魔法が得意だったな。この薪を燃やして灰にしてみろ。熱は消すな」

 

 たしかに、わたしの一番得意なのは火の魔法、二番目が雷。後のものは、普通の魔法師程度だ。魔力を全開にすれば、かなり違うとは思うけど。


 燃やす火の魔法陣を一瞬で描き、発動する。

 薪はパッと燃え上がり、消えると同時に灰が積もっていた。


「よし、この中に入れるぞ」

 先ほど包んだ魚を灰の中に入れる。

「蒸し焼きにするのだ。できるまで放っておけばいい。さあ、次の仕事だ」

 背中をポンと叩いて、小屋へ移動する。わたしもついて行く。


 台所の戸棚から、大きな袋を取り出して言う。

「これが、ウィタの実の粉だ」

 

 木のマグカップで粉を無造作に掬うと、木のボールの中に移した。

 袋をしまってから、水瓶から水差しへ水を入れ、水差しから少しずつ粉の上に垂らしながら、こねる。


 耳たぶほどの軟らかさになったのを、触らせてくれた。

「このくらいだな。わかったら、そこのかまどに火を入れてくれ」


 かまどに入っていた薪に火をつける。かまどの上には平板な石の板が載せられていた。

 

 石の板が熱くなってきたところへ平らに伸ばしたこねた粉を置いた。


「さあ、これで焼けたらパンの出来上がりさ。簡単な焼き方だが。焼けた匂いがして来たら裏返してくれ」

 そう言って柄の長いフォークをわたしに渡した。


 わたしが、慎重に焼け具合を確かめている間に、ジンクは鉄鍋に水を入れ、ナイフで野菜を切っていた。

 それを暖炉に持って行き、火を起こして吊り金具に掛けた。

 蕪のスープらしかった。



 *



 その日の夕食は、ちょっとしたご馳走だった。


 ソファの前のテーブルには、魚の蒸し焼きとウィタのパン、蕪のスープ。それと温かい紅茶、陶器の小さなワイングラスに入れた花蜜酒。


「まあ、ささやかだが、歓迎会だ」

 ジンクは穏やかに微笑んで、グラスを掲げた。


 めずらしい! ジンクが微笑むのなんて見るの初めてだわ!


 わたしもうれしくなって、微笑んだ。


「乾杯ね! これから、よろしくお願いします、師匠!」

 わたしもグラスを掲げる。


 ジンクが一口で飲み干したのを見て、わたしはグラスに口をつけた。

 花の香りがする。少し舐めるほどに飲んでみた。

 甘くて美味しい。

「これは、何? お酒?」

「まあ、ワインみたいなものかな。そのくらいなら、飲んでも大丈夫だ」


「そうなのね」

 そうは言ってみたものの、この前の魔力の実のこともあるので、慎重に少しずつ、味わうことにした。


 ウィタのパンも、蒸し焼きの魚も、蕪のスープも意外に美味しかった。


「ジンクって、お料理上手なのね」

 感心して言う。


「そうかな? 美味いものは好きだし、生きる源だ。それに料理は魔法の練習になる。思い描いたとおりに出来上がるかどうか、だ」


「なるほど……」


「明日からは遊べないぞ。朝一通り掃除をしたら、瞑想に入る。その後夕食の残りで朝食。その後魔法の訓練だ。しっかり食べたら、今日は早く休みなさい」


 なんだか、ちょっと変。魔法学院の先生のような言い方になってるわ。 

 

 くすりと笑ったのを見て、彼は片眉を上げた。


「なにか、おかしなことを言ったか?」

 わたしは首を横に振る。

 ジンクは花蜜酒を自分のグラスに注いで、少し飲んだ。


「しかし、よかったのか? 本当にここへ来て。見合いの話が、あったのではないのか?」

 わたしを見ないで言う。


「え、なぜ知ってるの?」


 思わず驚きの声を上げた。



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