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まったく、その気にならなくて  作者: あけの星
第二章 追っかけ弟子編

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山小屋はどこに3


「もしかして……あなたはジンクのお母様ですか?」

 わたしは、緊張しながらたずねた。


 ヘルーネは軽く笑ってから、濃い紫の瞳でじっとわたしを見た。

 瞳に宿る光は彼のものと似ていた。


「いいえ、私は、あの子の祖母なのですよ。もうずいぶん前に、会ったきりで……旅に出たと、あの子の母親から聞いてはいますが……」


「え、お祖母様(ばあさま)?」


 ヘルーネはうなずいた。


「ええっ!」

 わたしは驚きの声を上げた。


 ジンクって、エルフだったの!?


「お孫さん? では、彼もエルフだったのですね」

「完全なエルフではありませんけどね、父親は人間でしたから……」


 それを聞いて、わたしはまた驚いた。


 エルフと人のハーフだったなんて……

 

「――それで、あの子は、あなたを捕まえる仕事をしていたということ?」


「まあ、そういうことになりますね。第一王子の側近魔法師でしたから」

「そう……それで今も王子のもとに?」

「いいえ、わたしが魔力を使えなくなって、聖魔女候補から外れたことが原因で解任されたらしいのです。その後、旅に出ると言って姿を消してしまいました」


「まあ……」

「あの、ヘルーネ様は、ジンクの山小屋をご存じではありませんか?」


「あの子の山小屋?」

 少し考えていたが、ふと思い出したように言った。


「――もしかしたら、人界との境界にある山小屋かもしれないわね」

「人界との境界?」

「ええ。ここは天界との境界ですが、あの子の母親は人界との境界にある場所に住んでいますからね」


「ありがとうございます! 行ってみます」


「そう。気をつけてお行きなさい。あのペガサスが、あなたを連れて行ってくれるでしょう。もし、ジンクに会ったら、私が会いたがっていたと伝えて。ああ、それとこれを渡してくださるかしら」


 彼女は光を片手に集めた。すぐそれは真珠色の小さな箱になった。

 それをわたしに差し出した。


 わたしはそれを受け取って言う。

「わかりました、必ず」


 それから、立ち上がって淑女の礼をした。

 なんとなく、そうするべきだという気がしたのだ。


「ここを出て右に行けば、さきほどの森の入口に出るでしょう。さあ、お行きなさい」


 わたしはヘルーネの山小屋を後にした。


 森の入口にわたしが姿を現したとたん、アジューが駆け寄ってきた。

――解いてもらえたんだね、よかったー ――


「ねえ、アジュー、さっきのエルフって、どういう……?」

――ヘルーネはねー、エルフの王子妃だよー光の魔法の使い手なんだー ――

「そうだったのね……」

 

 どおりで、美しい光の魔法だった。

 あの縄が光の粒子となって消えたのを思い出した。


 それに、あの威厳ある態度は、王子妃だったからなのね。


 彼女の周りには、不思議に背筋を伸ばしたくなる、柔らかな気が取り巻いていた。


「それでね、あの方、ジンクのお祖母様だったのよ。だから教えてもらったの。彼の山小屋を。アジューが連れて行ってくれるって。人界との境界よ。知ってる?」

――知ってるよー 行こう、さあ乗ってー ――


 わたしは紺色のペガサスの背の上で、周囲の景色が揺らいでいくのを見ていた。

 虹色の光を放つ森も、光る草花も揺らぎ、ついには霧も揺らいで消えた。

 

 やがて薄青い空の下に、薄く霞のかかった緑の山や森が見えてきた。


 アジューは山間の少し開けた場所に着地した。

 細い川が流れている。その周囲に緑の葉を茂らせた木々が連なっていた。


 その奥には見覚えのある山小屋があった。

 ただ、その光景は、まるで霞の中に描かれた絵のように見えた。


 ジンクの山小屋だわ!


 わたしは、アジューから降りて、首を撫でた。

「ありがとう、アジュー、ここだわ。ここは、人界との境界になるのね」


――そうだよー じゃあ、ボクは行くねー 何かあれば、いつでも呼んで――


 アジューは空高く飛び上がって、あっという間に見えなくなった。


 わたしは霞の中を、細い川をたどり、山小屋の前まで歩いて行く。


 あの裏山から流れていた小さな川が、ここに続いていたのね。

 さあ、問題は結界だわ。どうすればいいかしら。


 あれこれ考えながら、小屋の前にきた。

 この辺りから結界は張られているはずだった。


 わたしは、慎重に歩を進める。

 やがて、空気の壁にぶつかった。


 ここからだわ……

 押しても無理なのはわかっているけれど、結界の強度を確かめるつもりで、空気の壁を両手でぐっと押してみた。

「あっ」

 思わず声がもれた。

 両手がすっと中に入った。その拍子にバランスを崩して前のめりに倒れ込んだ――と、そのとき、わたしを掬い上げる腕を感じた。

 気がつくと、わたしはジンクの腕に抱えられていた。


「わっ」

 ジンクの顔見上げて、驚きの声を上げた。

「なんだ、それは」

「だって急に現れて、抱き上げられれば驚くわ……」

「ああ、とっさだったからな。しかし、ここは礼を言うべきところだろう?」

「あ、ありがとう」

 転ばずに済んだのは、確かだ。


  まさかジンクが現れると思っていなかったし、驚くのは当たり前よね。でも、この状況は何? 


  なんだかいつもと違ってドキッとした。これまで何度も抱き上げられたり、抱き寄せられてもなんとも 思わなかったのに。いや、あのときは、怒り狂っていたから何とも思わなかったのかもしれなかった。


 彼はわたしを降ろした。

「まあ、入りなさい」


 ジンクは小屋に入って行く。

 わたしは、あわててその後を追った。


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