山小屋はどこに
森を抜けると、町へ続く小道が見えた。
空は明るみが増して、間もなく朝日の箭の先端が空を染め始めるころだった。
わたしは急ぎ足で歩く。
日の出とともに、一日の始まりを告げる神殿の鐘が鳴る。
それまでに、乗り合い所まで行かなくては。
馬車はそれを合図に出発してしまう。
人通りはまだほとんどないが、走って行くと目立つに違いなかった。
気持ちは急くが仕方ない。
やがて、辻にある、馬車の乗り合い所が見えてきた。
馬車を待つ人が、二人立っている。老夫婦らしかった。
乗り合い所といっても、古びた木のベンチが一つ置いてあるだけの簡単なものだったから、知らない者は、見過ごしてしまうかもしれない。
王都の、繁華街に近い始発の乗り合い所は、結構遠いし人通りも多いのだ。
男爵邸から一番近いのが、ここだった。
わたしは、フードを被り直し、馬車を待つ二人から少し離れて並んだ。
やがて空は朝焼けの雲に変わり、太陽の箭があたりを照らし始めたとき、馬車が到着した。
御者に馬車の扉を開けてもらい、中に入ると、すでに先客が一人いた。商人風の男に見えた。
わたしは先に乗り込んだ老夫婦の横の席に、腰を下ろした。
やがて朝一番の時を告げる鐘の音が響いてきた。発車の時刻だ。
と、そのとき、薄茶のローブを着てフードを被った男が飛び込んできた。
ぎりぎりセーフだった。
フードの男が商人風の男の隣に座ったとき、馬車が動き始めた。
早朝のせいか、誰もしゃべる者はいなかった。
わたしは、これからのことを考えていた。
鉱山町に着いたら、とりあえず町をまわって、ジンクを見た人がいるかどうか、聞くしかないか……
彼を見た人がいる可能性は低い。
だから、最初に連れていかれた山小屋を探すしかないわ。
そこに、手がかりがあるのでは……と思う。
でも、どうやって見つけ出せばいいのかしら?
あれこれ考えているうちに、馬車は乗り換えの停留所に到着した。
鉱山町行きの馬車は、先ほどの馬車よりも人が多かった。
鉱山町は人の行き来が多い。様々な人々が訪れる。買付に来る者や、職人、働き口を求めて来る者もいる。
押し込めば、十人ほどは乗れる幌馬車だったが、空いた席はなかった。
わたしの目の前には、十歳くらいの大人しそうな少年と母親が座っている。
後部の座席には、先ほどの薄茶のフードを被った男もいた。
幌馬車の後部は開いているので、風が通り抜ける。まだ今は秋口なのでましだが、これから冬になると厳しいものになるだろう。
わたしはローブの襟をかき合わせた。
馬車は、鉱山町に入る峠に差しかかっていた。
突然、馬車が停まった。
危険を知らせる、御者の持っていた喇叭が響いた。
同時に御者の悲鳴が聞こえた。
顔半分を布で巻いた男たちが、いきなり乗り込んできて、剣をちらつかせながら乗客たちを脅し、縛り上げた。
乗客は悲鳴を上げ、ある者は、震えるばかりで動けなくなった。
山賊だわ!
噂に聞いてはいたが、わたしはこれまで、出会ったことはなかった。
彼らは、乗客から荷を取り上げていく。
男の一人が、わたしが荷物を持っていないのを見ると、不審そうに言った。
「荷物はないのか? 金は? 早く出せ」
「ほどいてくれないと、手が動かせないわ」
「どこだ、言え」
男は剣を突き付けて脅した。
「ローブのポケットよ」
仕方なく言う。
男はわたしのローブのポケットから、馬車の料金を支払うために入れておいた銀貨二枚を取り上げた。
「本当にもう無いのか」と言いながら、ポケットをもう一度探った。
だが、あるわけはない。
見つからなかった腹いせなのか、フードを引き下ろして、わたしの顔を見た。
「こいつはたまげた、別嬪さんじゃねえか。高く売れそうだぜ」
にやりと笑った。
え、売るって、まさか奴隷にするつもり?
さすがにわたしも青ざめた。
横から大柄な男が声をかけた。首領だろうか。
「早くしろ! 御者のやつ、緊急の喇叭を鳴らしやがったんだ。ぐずぐずしてると、警備隊が来るぞ、連れて行くのは、女子供だけにしろ」
男たちが先ほどの親子連れと、もう一人の中年の女性、そしてわたしを馬車の後部から降ろそうとした。
わたしは、抱えて下ろそうとした男を、足で思いっ切り蹴飛ばした。
あまり気合を入れ過ぎたせいなのか、よくわからないけれど、ドーンとニ、三メートル吹き飛んだ。
「わーっ」
男が叫んだ。
仲間たちが振り返り、吹き飛ばされた男に声をかけて、わたしの方に走ってきた。
駆けつけてきた最初の男も思いっ切り蹴飛ばした。さっきよりも遠くへ飛んだ。だが、次の二人の男に掴まった。
そのとき、薄茶のフードを被っていた男が、わたしに手をかけようとした男たちに向かって呪文を発した。彼らは固まって動けなくなった。金縛りの魔法だ。
彼は魔法師だったのね! 助かったわ。
こんなとき、魔法が使えない自分がもどかしい。
しかし、また山賊たちが戻ってきて、彼を取り囲んだ。呪文を唱えようとしたところを後ろから一人が剣を振り上げて、襲いかかった。
彼は巧みにそれは避けたが、抑え込まれた。
「殺すなよ」
山賊の首領らしい男が大声で言う。
盗みに殺人は重罪になる。そのことがわかっているらしい。
御者も殴られて倒れてはいるが、死んではいないのだろう。
魔法師の男は厳重に縛られ、猿轡をされた。
暴れるわたしを、男たちが馬車から引きずり出し、担ぎ上げたときだった、頭上が暗くなった。と、思った瞬間、男たちは跳ね飛ばされ、わたしは白い角で、そのものの背中にふわりと乗せられた。
「アジュー!」
わたしはアジューの紺色の毛の中に顔をうずめた。
安堵感が広がる。
山賊たちは悲鳴を上げた。
「魔物だー!」
起きていられる者たちは、走って逃げて行った。荷物も連れ去ろうとした人たちも置いて。
警備隊が到着したのが眼下に見えた。
いつもお読みいただき、ありがとうございます!☆
誤字直しました。(;''∀'')




