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まったく、その気にならなくて  作者: あけの星
第二章 追っかけ弟子編

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山小屋はどこに


 森を抜けると、町へ続く小道が見えた。


 空は明るみが増して、間もなく朝日の箭(や)の先端が空を染め始めるころだった。


 わたしは急ぎ足で歩く。


 日の出とともに、一日の始まりを告げる神殿の鐘が鳴る。

 それまでに、乗り合い所まで行かなくては。

 馬車はそれを合図に出発してしまう。

 

 人通りはまだほとんどないが、走って行くと目立つに違いなかった。

 気持ちは急くが仕方ない。


 やがて、辻にある、馬車の乗り合い所が見えてきた。

 馬車を待つ人が、二人立っている。老夫婦らしかった。

 

 乗り合い所といっても、古びた木のベンチが一つ置いてあるだけの簡単なものだったから、知らない者は、見過ごしてしまうかもしれない。


 王都の、繁華街に近い始発の乗り合い所は、結構遠いし人通りも多いのだ。

 男爵邸から一番近いのが、ここだった。


 わたしは、フードを被り直し、馬車を待つ二人から少し離れて並んだ。


 やがて空は朝焼けの雲に変わり、太陽の箭があたりを照らし始めたとき、馬車が到着した。

  

 御者に馬車の扉を開けてもらい、中に入ると、すでに先客が一人いた。商人風の男に見えた。

 

 わたしは先に乗り込んだ老夫婦の横の席に、腰を下ろした。


 やがて朝一番の時を告げる鐘の音が響いてきた。発車の時刻だ。

 と、そのとき、薄茶のローブを着てフードを被った男が飛び込んできた。

 ぎりぎりセーフだった。

 

 フードの男が商人風の男の隣に座ったとき、馬車が動き始めた。

 早朝のせいか、誰もしゃべる者はいなかった。


 わたしは、これからのことを考えていた。

 

 鉱山町に着いたら、とりあえず町をまわって、ジンクを見た人がいるかどうか、聞くしかないか……


 彼を見た人がいる可能性は低い。


 だから、最初に連れていかれた山小屋を探すしかないわ。

 そこに、手がかりがあるのでは……と思う。


 でも、どうやって見つけ出せばいいのかしら?


 あれこれ考えているうちに、馬車は乗り換えの停留所に到着した。


 鉱山町行きの馬車は、先ほどの馬車よりも人が多かった。

 鉱山町は人の行き来が多い。様々な人々が訪れる。買付に来る者や、職人、働き口を求めて来る者もいる。


 押し込めば、十人ほどは乗れる幌馬車だったが、空いた席はなかった。

 わたしの目の前には、十歳くらいの大人しそうな少年と母親が座っている。

 後部の座席には、先ほどの薄茶のフードを被った男もいた。


 幌馬車の後部は開いているので、風が通り抜ける。まだ今は秋口なのでましだが、これから冬になると厳しいものになるだろう。

 わたしはローブの襟をかき合わせた。


 馬車は、鉱山町に入る峠に差しかかっていた。

 突然、馬車が停まった。


 危険を知らせる、御者の持っていた喇叭が響いた。

 同時に御者の悲鳴が聞こえた。


 顔半分を布で巻いた男たちが、いきなり乗り込んできて、剣をちらつかせながら乗客たちを脅し、縛り上げた。

 乗客は悲鳴を上げ、ある者は、震えるばかりで動けなくなった。


 山賊だわ!

 噂に聞いてはいたが、わたしはこれまで、出会ったことはなかった。


 彼らは、乗客から荷を取り上げていく。


 男の一人が、わたしが荷物を持っていないのを見ると、不審そうに言った。

「荷物はないのか? 金は? 早く出せ」


「ほどいてくれないと、手が動かせないわ」


「どこだ、言え」

 男は剣を突き付けて脅した。


「ローブのポケットよ」

 仕方なく言う。


 男はわたしのローブのポケットから、馬車の料金を支払うために入れておいた銀貨二枚を取り上げた。


「本当にもう無いのか」と言いながら、ポケットをもう一度探った。

 だが、あるわけはない。


 見つからなかった腹いせなのか、フードを引き下ろして、わたしの顔を見た。

「こいつはたまげた、別嬪(べっぴん)さんじゃねえか。高く売れそうだぜ」

 にやりと笑った。


 え、売るって、まさか奴隷にするつもり?


 さすがにわたしも青ざめた。


 横から大柄な男が声をかけた。首領だろうか。

「早くしろ! 御者のやつ、緊急の喇叭を鳴らしやがったんだ。ぐずぐずしてると、警備隊が来るぞ、連れて行くのは、女子供だけにしろ」


 男たちが先ほどの親子連れと、もう一人の中年の女性、そしてわたしを馬車の後部から降ろそうとした。

 わたしは、抱えて下ろそうとした男を、足で思いっ切り蹴飛ばした。


 あまり気合を入れ過ぎたせいなのか、よくわからないけれど、ドーンとニ、三メートル吹き飛んだ。

「わーっ」

 男が叫んだ。


 仲間たちが振り返り、吹き飛ばされた男に声をかけて、わたしの方に走ってきた。

 駆けつけてきた最初の男も思いっ切り蹴飛ばした。さっきよりも遠くへ飛んだ。だが、次の二人の男に掴まった。


 そのとき、薄茶のフードを被っていた男が、わたしに手をかけようとした男たちに向かって呪文を発した。彼らは固まって動けなくなった。金縛りの魔法だ。


 彼は魔法師だったのね! 助かったわ。


 こんなとき、魔法が使えない自分がもどかしい。


 しかし、また山賊たちが戻ってきて、彼を取り囲んだ。呪文を唱えようとしたところを後ろから一人が剣を振り上げて、襲いかかった。


 彼は巧みにそれは避けたが、抑え込まれた。


「殺すなよ」

 山賊の首領らしい男が大声で言う。


 盗みに殺人は重罪になる。そのことがわかっているらしい。

 御者も殴られて倒れてはいるが、死んではいないのだろう。


 魔法師の男は厳重に縛られ、猿轡をされた。

 

 暴れるわたしを、男たちが馬車から引きずり出し、担ぎ上げたときだった、頭上が暗くなった。と、思った瞬間、男たちは跳ね飛ばされ、わたしは白い角で、そのものの背中にふわりと乗せられた。

「アジュー!」

 わたしはアジューの紺色の毛の中に顔をうずめた。

 安堵感が広がる。


 山賊たちは悲鳴を上げた。

「魔物だー!」

 起きていられる者たちは、走って逃げて行った。荷物も連れ去ろうとした人たちも置いて。


 警備隊が到着したのが眼下に見えた。



いつもお読みいただき、ありがとうございます!☆

誤字直しました。(;''∀'')


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