追っかけも修行?
わたしは、あたりを見回した。
わたしたちが座っているソファの近くには、人はいない。
さいわい、ほとんどみんな舞踏室へ移動している。
広間の端の方にマダーの姿がちらりと見える。そのあたりには、まばらに人がたむろしていた。その中には辺境伯の従者もいるのかもしれなかった。
「今からお話しすることは、決して口外なさらないと、お約束していただけますか?」
彼がうなずくのを見て、声を潜める。
「わたしは、まったく魔力がなくなったわけではないのです。魔力を発動することはできませんが、まだ微かに種は生きています。
今後の修行次第では、魔力を取り戻せるらしいのです。なので、わたしは魔法の修行に出るつもりです」
本当は、ジンクを追っかける旅だけど、それも弟子になるための一つの課題、修行よね?
「魔力を取り戻せましたら、国境の守りにはわたしもお力をお貸しします。それまでは、聖魔女様と父の力で、守りを固めていてください。父も嫌とは言わないと思います」
「なんと! 驚きました。魔力が戻る可能性があるのですね」
「お静かに。決して口外なさらないでください」
「わかりました」
「わたしは、大魔法師になりたいのです。魔力をとりもどせたら、さらに修行に励もうと思っています。ですから、アンバー様は他のお好きな方と、ご結婚なさってくださいね。わたしは大魔法師を目指します」
「あなたは、どこへ修行に行くのです?」
一瞬、息を止めた。まさかジンクのもとへとは言えない。苦し紛れに言う。
「超大魔法師のもとです」
彼は首をかしげた。
「それは、どのような魔法師ですか? 聞いたことがありませんが」
「大魔法師を超えている魔法師です」
「おお、そのような方が!?」
「ええ」
まあ、いいか。ジンクの魔法は本当に大魔法師以上だと思うもの。
わたしは、あわてて話を変える。
「ああ、そうですわ、もしかしたら修行の途中で、アンバー領に立ち寄らせていただくことがあるかもしれません。そのときは、よろしくお願い致しますね」
「――っも、もちろんですよ、ただ修行のことは、ご両親は?」
突然、立ち寄ると言われたことに、いっそう驚いたのか詰まりながら言った。
「もちろん知りませんわ。話すと止められるのはわかっています。アンバー様は協力してくださいますよね?」
「しかし。それは……」
「大丈夫です、一人で行くわけではありませんから。案内の者がおります」
わたしは、アジューを思い出しながら言った。
「先日まで、テルナン国で一人、隠れ住んでいたことはご存じでしょう? まったく心配はありませんわ」
心配げに見つめる彼に言う。
きっと優しい方なのね。
その眼差しに嘘は見えなかった。
「では――何かあったら、すぐ、アンバー様にご連絡します。助けてくださるでしょ?」
「そ、それは、もちろん」
「では、このことは、秘密ということで」
「わかった、何かあれば、すぐに知らせてください」
しぶしぶうなずいた。
「でも、出発はいつ?」
「数日後には」
さすがに明日とは言えない。完全に信頼したわけではなかったから。両親にこっそり話さないとも限らない。
わたしは立ち上がった。
「では、ごきげんよう、アンバー様」
彼も立ち上がる。
「あ、アフィンと呼んでくれますか? それと、あなたをルナーリア嬢と呼んでも? 秘密を共有した者として」
「ええ、アフィン様」
「では、ルナーリア嬢、気をつけて行かれよ」
わたしは淑女の礼をして彼のそばから離れた。
理解ある人で良かった……
ほっとしながら、そのまま自分の部屋へ戻ろうと、広間から出た。
わたしの姿を見ていたのだろう、マダーが後を追いかけてきた。




