お祝いの会2
「お嬢様、とてもお似合いですよ」
乳母のマダーが、着付けてくれた赤いドレスは、意外にもわたしにぴったりと合っていた。
母の若いころのドレスを少し手直ししたものだ。
お祝いの会の前日、わたしはマダーだけには、こっそり打ち明けた。
ジンクを追って旅に出ることを。
マダーは、ため息をついて言った。
「お嬢様が、お決めになったのなら、止めても無駄だとわかっております。ですが、せめて、明日のお祝いの会だけは、出席してからになさってくださいね。奥様や旦那様のお気持ちを無駄になさらないで、親孝行と思って。よろしいですか?」
わたしはうなずく。
「その代わり、ジンクのことをできるだけ調べておいてね。それと旅のことは、まだ内緒よ」
「承知しております。ですから、とりあえず、明日お出でになるお相手の肖像画を見て、頭に入れておいてくださいませね。礼儀を失しませんように」
「わかったわ」
わたしは肩をすくめて、椅子に腰を下ろし、しぶしぶお見合い肖像画の本を開いた。肖像画の片側のページには、簡単なプロフィールが書かれている。
お見合いの相手の一人は、赤茶色の髪で焦げ茶色の目を、もう一人は金髪で青灰色の目をした青年だった。
「ねえ、マダー、この方たちのことは何か知ってる?」
そう言いながら乳母の方を見た。
マダーは姉弟や親戚、友人が多い。そのせいか、かなり広い情報網を持っている。だから、何かにつけて彼女のアドバイスが役に立つのだった。
マダーはわたしの横から肖像画をのぞき込んで、「ああ、そうでございますねえ……」と言った。
「知ってるの?」
「カーマイン子爵様のご子息ですよね、赤茶の髪の方は。王立騎士団にお入りになっておられて、たしか、乗馬がお得意とか。この前の大会で優勝されたと聞いておりますよ。
もう一人のお方、アフィン様はアンバー辺境伯のご嫡男で、しっかり者の……聡明なお方だとか。どちらのお方にしても、当グリッダー男爵家のお嬢様にとっては、お家柄としては、申し分ございませんね」
「そうなのね……」
乳母に、わが家の家名を言われ、そうだった、わたしはグリッダー男爵令嬢だったのだ、と改めて思った。
記憶が戻ったとはいえ、ところどころ、抜けていたり、うすぼんやりなところもある。まだ忘れていることがあるかもしれない。
「お会いになって……どちらかでも、お嬢様の気持ちを変えてくださるような方だといいのですけれど」
「それは、無理ね」
「簡単におっしゃいますね、まあ、お会いしてみれば、変わるかもしれません。どちらの方も見惚れるお顔をしておられるとか。ご令嬢方に騒がれるほどと、聞いておりますよ」
「肖像画の通りの顔ってことね?」
「もしかしたら、それ以上かもしれませんよ」
マダーは含み笑いをしながら言う。
「会ったことがあるの?」
「いいえ、ただの希望でございます」
「でも、やっぱり顔だけでは選べないわ」
「承知しております」
「そろそろご昼食のお時間でございますが、こちらでお召し上がりになりますか?それとも食事室の方へ?」
「お母様たちは?」
「皆様、お出かけでございますよ」
「じゃあ、お庭の東屋に運んでもらえるかしら。外で食べたいわ」
「かしこまりました。お運びいたしますね」
乳母が急ぎ足で部屋を出て行くのを見送りながら、肖像画に目を落した。
たしかに、どちらも美形に描かれている。
たいてい肖像画は、実物よりも美男美女に描かれていることが多いと聞いていた。
実物がそれ以上であったとしても、やっぱり、わたしは魔力を取り戻すことが先。それに魔法をもっと知りたい。ジンクのような魔法を使える魔法師になりたいのよね。
ほんとうなら、今すぐにでも後を追いたい。だけど、何もわからず出かけるよりも、少しでも彼の情報を得て、彼の行先の手掛かりを掴んだ方がいいわ。
だから、マダーの意見を受け入れた。交換条件として。
*
鏡の前で、マダーが、ピンクルビーのネックレスをつけてくれていた。
ドレスは動くたび、光沢がピンクがかった赤に見える生地なので、それに合わせた可愛いデザインだ。
最後に小さめのお揃いのイヤリングを留めて、乳母は満足そうに息をもらした。
「こうして見ると、ほんとうに、立派なお嬢様ですわ」
「まあ、マダーも、なによ、いつもは違うって言いたいの?」
笑いながら問い詰める。
「まあまあ、それは、ご自分の胸にお聞きくださいまし」
「わかってるけど……」
普段の自分のありさまは、何を言われても本当は怒れない。
家にいるときでさえ、他の令嬢ほどお洒落な身づくろいはしていないし、自分は魔法師だから、出かけるときはローブを着てフードをしていれば問題ないわ、というスタンスだったのだ。
「さ、まいりましょう」
マダーに促されて、お祝いの会の広間へ入った。




