聖魔女候補を外される
「ルナーリア!」
母が駆け寄ってきた。
「生きていてくれたのね! よかった……」
男爵邸に入ったとき、真っ先に手を差し出し、抱きしめてくれた。
続いて父と兄が。そして乳母は涙を袖で拭っていた。懐かしい家令や侍女たちも集まって、わたしの帰還を喜んでくれたのだった。
わたしの家族は温かだった。
身勝手な行動で心配させてしまった。
それでも、許し受け入れてくれる。
でも、わたしは自分の気持ちに正直に生きたい。
だから、またみんなを悲しませるかもしれないけれど、ごめんなさい。
心のなかで頭を下げる。
その夜、遅く始まったが、久しぶりの家族の夕食は和やかに終わった。
みんな、二年間のわたしの暮らしを知りたがった。
記憶喪失だったこと、魔力がなくなったことを話すと、驚き残念がった。
ある程度は、知らされていたらしい。
しかし直に本人の口から聞くと、その事実が重くのしかかる。
両親は、わたしが聖魔女にならないことを、確定だと知ったのだった。
家に帰る前、神殿に立ち寄り、アルスタル伯父様に会った。
王子からの知らせで、先を越されたことを知ったらしい。
本当は、自分が見つけたかった、とさんざんぼやいていた。
ジンクは、わたしを神殿まで送り、それから王子を迎えに行った。
あの後すぐなのに、彼の魔力は底なしだろうか?
王子の護衛の魔法騎士たちが、それぞれ移動魔法でやってきた後に、二人が神殿に現れた。
わたしの魔力を再確認するために。
神官長はわたしを椅子に座らせると、緊急に招集された審査員の魔法師たちと、取り囲むように座った。
いよいよだ。
魔力状態の確認が始まった。
緊張する。
ばれたりないかしら……
かれらの視線が波のように交差する。
やがて、審査員たちは首を横に振って、神官長と顔を見合わせた。
魔力は感じ取れなかったらしい。
ジンクの封印魔法が、これほどとは! 伯父様までわからないなんて!
そっとジンクの方に視線を向ける。
彼はそ知らぬ顔で神官長たちを見ていた。
判定が確定した。
そこで聖魔女候補から外された。
やった! わたしは胸をなでおろした。
王子とジンクが移動魔法で帰って行った後、伯父様はわたしを呼んで、事の顛末を詳しく聞いた。
「なぜ、魔力がなくなるようなことが起きたのだ?」
わたしは、王子に告げたと同じことを話した。
「おまえは山に隠れていたのか、そこに魔物が現れるとは! どんな奴だったのだ?」
「山に隠れていたら――」
ほんとうは、山小屋だけど……
「黒々とした目に見つめられたと思ったら、魔力を吸い取られていて……」
まあいいわよね、ジンクを魔物にしちゃうけど、ほんとうだもの。魔力を封印されたのは……
「よく見たら、そいつは角の生えた巨大な紺色の化け物、羽の付いた魔物だったの……」
ごめん、アジューも魔物にしちゃったけど……
「わたしの魔力を吸って飛んで行ったわ」
「そんな魔物がテルナンの山にはいるのか」
「そうみたい。その魔物より、もっと巨大な目も見たことがあるわ」
魔物とは言ってないので、女神様もお許しくださるわよね……
「ふむ、もう少しテルナン国について調べる必要がありそうだな。その他に何か見たか?」
「ああ、そういえば、恐ろしい煙のようなものが人々を襲っているのを見たわ。みんな一斉に逃げて。逃げ遅れた者は、病気になるのですって」
伯父様は腕を組んでうなった。
「そういう報告は、聞いてないが……」
そのとき、神官の一人が顔をのぞかせた。
彼はうなずいてから言った。
「迎えの馬車が来たらしい。帰ってよいぞ」
解放されたわたしは二年ぶりのわが家へと急いだのだった。
馬車の中で、わたしは大きく息を吐いた。
無事に終わった。
安堵感で胸が一杯になる。
ふと胸元に何かが微かに当っている。
収納バッグの口に何かが挟まっているらしい。
すっと胸元に手を入れて、収納バッグから少しはみ出ているものを、ぐっと掴んで取り出した。
短剣だ! しかもちゃんと鞘に収まっている。
おじさん――ジンクが、あのとき魔法で移動させたのは、わたしの収納バッグだったの?!
でもドレスに着替えたときは、なかった……いや、気がつかなかっただけだろうか?
もしかして、時間差で? まさかね……
そんな魔法が、ないとはいえなかった。
ジンクなら可能かもしれない。
決めた!
わたし、彼の弟子になるわ。
そして新たな聖魔女が決まったら、封印を解いてもらおう。
そのとき馬車が、わが家の前に停まった。
ルナーリアは、勝手に弟子になると決めちゃいましたが、
どうなることやら……(^^ゞ
引き続き、『追っかけ弟子』編も、どうぞよろしくお願い致します☆m(__)m




