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まったく、その気にならなくて  作者: あけの星
第一章

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封印の効果4


「これをまだ持っていたとはな――」


 おじさんは、わたしを抱き寄せたまま、短剣を取り出して見せた。

  

 さっき木に投げた短剣だ。抜かずにそのままにして逃げたのだった。

 おじさんにもらった短剣だ。


 手にしていた短剣をふっと消した。

 

 すごい、何この魔法は?


「今のは?」

「瞬間移動魔法だ」

「物にもできるのね」

「ああ。人よりも簡単だ」


 それから彼はわたしの顔を見下ろして、たずねた。


「――王子と結婚したくないのか?」

 

「え――あたりまえでしょ!」

「なぜだ? 多くの令嬢は憧れると聞く。王子妃になれるのだぞ」

「なりたくない。好きでもない人となんて嫌だわ。わたしは両親のように大恋愛がしたいの」


「……」


「他の家は許さなくても、うちは認めてくれるはずよ」

「なりたくない理由はそれだけか?」


 わたしは、ちょっと考えた。

 

 それだけじゃない……

 王子と結婚するということは、聖魔女になるということ。無理だ……それに、押し付けらたり、だまされてなるなんて、なおさらだ。

 ふと、神官長の顔が浮かんだ。

 

「わたしはアルスタル伯父様の言いなりになんか、なりたくないの」

「そうか……」

 おじさんは、わたしの顔をまじまじと見て――まるで今、何かに気がついたという顔で――言葉を続けた。わたしを抱える腕に力が入った。


「それなら、魔力がなくなったと言えばいい。現に使えないだろう?」

「そ、そうだけど……」

「これから、王子に会わせる。今度は逃げずに話をしなさい」

 

 わたしは驚きながら、おじさんを見上げてうなずいた。



 *

 

 

 大きな鏡には、わたしでないわたしが映っていた。


 久しぶりに結い上げた黒髪が、空色の目をくっきりと引き立てている。


 これまで、ほとんど化粧はしたことがなかったけれど、メイドの化粧の腕は確かだった。これが自分なのかと見とれるほどの仕上がりになっている。


 瞳に合わせた空色のドレスは、少しきつい。でも令嬢らしくは見える。王子殿下に会うための礼儀と思い、我慢することにした。


 おじさんは、わたしの姿を見てちょっと目を細めた。

 わたしの手をとって、客間へ連れて行く。


 それでわたしはまた驚いた。


 おじさんに、そんなことができるなんて! ちゃんとしたエスコートだわ。


 客間に入ると、窓際に立っていた金髪の青年が、こちらを振り向いた。

 わたしを見ると、ブルーグレイの目を一瞬大きくしたが、すぐ笑顔になった。


 わたしは、おじさんに促されて、淑女の礼をとった。

「初にお目にかかります、ルナーリアでございます」


「テールベルトだ。楽にしてくれと言いたいところだが、無理だろう。せめて、こちらでお茶でもいかがかな?」

 王子は、部屋のテラスへ足を向けた。


 おじさんにまた促されて、わたしひとりでその後を追って行く。


 テラスには、小さめのテーブルにお茶の用意がしてあった。

 そのそばにメイドが立っている。

 わたしたちが席に着くと紅茶を淹れ、下がって行った。

 

 お茶を薦められて、ひと口飲んだとき、王子が言った。

「あなたが、こんなに可愛らしい人だとは、思わなかった」


 わたしは真っすぐ彼を見た。


「それは、化粧のせいですわ」

 久しぶりに使う令嬢言葉だった。 


 王子は、眉を上げて笑った。

「ならば、化粧のない顔を拝見したいものだね」

「お見苦しくて、おみせできませんわ」

 かなりきわどいことを言われたような気もしたけれど、澄ました顔で言う。

  

 すると、また王子はくすっと笑った。

「あなたの噂は聞いていますよ。確かにはっきりした方ですね」

「申し訳ございません、つい……社交には慣れていないので」

 素直に謝る。

  

 王子は立ち上がってテラスの柵のそばへ行き、声をかけた。

「夕日が美しくなってきましたよ。来てごらんなさい」

 彼のそばへ行く。

 いつの間にか夕暮れが始まっていた。たなびく雲は茜色に染まって美しい。


「なぜ、逃げたのですか? もしかして私のことが嫌だったからとか?」

 空を見上げたまま、静かな声でたずねた。

「――殿下のことが嫌いということではありません。お目にかかったことすら、ありませんでしたもの。ただ、まわりの者たちの言いなりになるのが嫌だったので……それに、もう聖魔女の資格はありません。わたしは魔法が使えなくなってしまいました」


「――っ、それは、どういうことだ?」


「山に隠れているとき、魔物に魔力を吸い取られ、封印されてしまったのです」

「そんなことが……」

「ええ、もしお疑いなら、魔力の強い方にわたしの魔力があるかどうか、見ていただいてもかまいません」


「わかった、確認しよう」

 王子は指を鳴らした。


 側仕えの魔法騎士がすぐに現れて、膝をついた。


 王子はルナーリアの魔力を感じるかとたずねた。

 魔法騎士は、わたしをじっと見ていたが、首を振った。

「では、ジンクを呼べ」


 魔法騎士は、部屋へ入って行った。

 すぐにおじさんが現れた。


 おじさんって、ジンクって名前だったのね! 初めて知ったわ。


 またまた驚きの眼差しでおじさんを見た。


 王子は魔力を確認するよう命じる。

 ジンクは、平静な目でわたしをじっと見つめた。


「令嬢のおっしゃるとおりかと。魔力は見えませんし、感じ取れません」

「なんと、そなたまで言うのなら、ほんとうであろうな。無駄足だったわけだ」

「一度プレシアへ連れて帰り、神官長に確認していただいては?」

「そうしよう」

 

 王子は動揺と、いらだちを滲ませていたが、わたしに向かって声をかけた。

 王族としての礼儀は残っていたらしい。


「残念ではあったが、会えてよかった」

 そう言い残して部屋へ入って行く。


 ジンクは可笑しそうな目でわたしを見ると、王子の後を追った。



いつも読んでくださって、ありがとうございます!m(__)m

それに、いつの間にか、ブックマークが……

ありがとうございます!☆

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