封印の効果2 ライゼルside
三日前、ルレッド伯爵邸に見慣れぬ来客があった。
馬車から灰色の髪をした男と従者が一人降りてきた。
すぐに客間に通されて、伯爵と何事かを話し合っている。
伯爵は、彼が訪れるのを事前に知っているらしかった。
ルレッド伯爵の二男ライゼルは、自分の執務室で書類整理をしていたが、気になってしかたがない。
事務連絡や手紙などは、自分がほとんど目を通しているが、たまに直接伯爵のもとに届く手紙や連絡がある。
今回の来客も直接伯爵の元へ連絡があったらしい。
いったい何ごとだろう?
昨夜から、冷静な父が、ほんのわずかだが興奮気味に見えた。
しかし父親は何も話さなかった。
あの日、ルナーリアが失踪したとき、自分が彼女に求婚したことについて、叱りこそしなかったが、厳しく問いただされた。
父は、ライゼルの話を聞き終えると言った。
「今後、二度と彼女には関わるな。お前には最もふさわしい令嬢を探してやる」
以来、ルナーリアの話には聞く耳を持たず、また彼女に関する何かしらの情報についても、ライゼルには話してくれなくなったのだった。
今日の来客も、もしかしたら彼女に関する者たちかもしれない。自分には知らせないということが、それを証拠立てている。そう思えばいっそう気になって落ち着かない。
そこで、お茶を出すメイドに、客のことを知らせてくれるようにと言って銀貨二枚を握らせた。
詳しい話がわかれば、もっと出してやると。
古参のメイドはうなずいて、仕事に戻った。
ライゼルは客が帰るまで落ち着かず、ひたすらメイドが報告に来るのを待っていた。
ときおり短いくすんだ金髪を何度も両手でかき上げ、執務室の中をぐるぐる歩いては椅子に腰を下ろす。が、また立ち上がる。その繰り返しが続いた。
やがてメイドがやってきた。
「――先ほどのお客様は、なんでもプレシア王国から、いらした方らしいです。あの子、ルナーリアが、こちらで世話になっていたことのお礼を言っておられました。
はい、ご家族かどうかはわかりません」
それ以上は聞けなかった。しかし重要な情報だった。
「たすかったよ。また何かあったら頼む」
彼はメイドに銀貨三枚を渡した。これからも何があるかわからない。そのときのためだ。
メイドは笑顔で受け取った。
「かしこまりました。また何かあれば、お知らせいたしますね」
メイドが去って行った後、執務室の椅子に座って、ぼんやり考える。
ルナーリアがプレシア人だったとは!
今日来た人物をちらりと見ただけだが、従者を連れているところを見ると貴族らしい。
とういことは、彼女は向こうの貴族令嬢ということだ。ならばわが家とも釣り合いがとれるじゃないか。
なんとしてもルナーリアに会い、もう一度結婚を申し込もう。異国人であったとしても、身分不相応でなければ、父も許してくれるだろう。
――だから今度こそ、ルナーリアは僕の求婚を受け入れてくれるに違いない。
ライゼルの思考は少し的外れ――いや大幅に――だったが、その考えで頭はいっぱい。彼女の気持ちや状況をまったく考慮できていなかった。
その翌日だった、また昨日の客がやってきた。
かなり急いでいるふうで、伯爵に会うと折り返し帰って行った。
メイドが今度は自分からライゼルの元へ報告に来た。
「ビッグニュースでございますよ、ルナーリアが見つかったらしいです。なんでも明日、北の別荘に連れてくるとか。それ以上は、聴き取れませんでしたが……」
どうやらメイドは立ち聞きでもしていたらしい。
ライゼルは、ぱっと顔を明るくして、執務室の机の引き出しから、銀貨五枚の入った袋を取り出して渡した。
メイドは嬉々として礼を言うと部屋を出て行った。
「よし、これで決まった。僕の女神を取り戻しに行こう」
なんとしても、彼女に会わねばならない。会って、連れて帰ろう。
彼の頭の中には、もはやルナーリアが自分の手を取って、恥じらいながら求婚を受け入れている姿。そして満足げに微笑む自分の姿しか浮かんでいなかった。
ライゼルは仕事そっちのけで、ルナーリア奪還計画を立てたのだった。




