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まったく、その気にならなくて  作者: あけの星
第一章

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閉じ込められちゃった

 

 わたしは、コートを脱いで、水を一口飲んだ。


 たしかに暖炉の温かさは暑いほどだった。

 暖炉にかけられていた鍋から湯気が立ち、良い匂いもしてきた。


 そっと鍋のふたを開けると、野菜と肉のスープがコトコト煮えている。

 もう少し煮込めば、安心して食べられそうに見えた。


 わたしは、戸棚以外、何もない調理場をちらりと見てから、その横にある衝立をのぞきこんだ。

 

 衝立の奥には、一人用の木のベッドが置いてある。

 わたしは、ベッドに腰を掛けて、マットの堅さを確かめる。


 大丈夫そう。


 わたしはベッドに横になる。

 少しだけ身体を伸ばしたかった。


「はあっ」と自分でも驚くほど大きなため息が出た。


 まさか、あのときの山師のおじさんに出会うとは思わなかった。


 わたしにとって、おじさんはある意味、師匠的存在で、今日まで生きてきたわたしの指針みたいなところがあったのだ。


 それなのに、この再会はなに? わたしを『つかまえた』と言ってたわね。

 やはり、追っ手の一人になっちゃったのかしら?


 会えたうれしさと懐かしさより、不可解な思いが残る。

 決して嫌な感じではないけれど……何を隠しているのだろう。

 

 誰に会わせようとしているのかしら?


 スープが煮詰まってきた匂いがしてきた。

 わたしはベッドから降りて、暖炉のそばへ行き鍋を下ろした。


 それから、ソファに掛けていたコートを取り上げ、小屋の扉を押し開けた。


 意外に簡単に開いたので、鍵をかけられたわけではないと、ほっとした。


 外は、すっかり暗くなって、星空の間に白っぽい半月が見えた。

 それでアジューを思い出した。ここなら、アジューを呼べるかもしれない。


 わたしは少し小屋から離れてアジューを呼んだ。

 しかし、わたしの声は届かず、声の波動は周囲に降り注いだ。


 何かに阻まれている!


 おそらく、おじさんが張った結界だろう。


 わたしは、どこまでその結界がかかっているのか確かめるために、小屋から離れて歩いてみることにした。


 入口から二十歩ほどのところで、分厚い空気の壁にぶつかった。

 小屋の周りは結界で覆われているらしい。


 押しても叩いてもびくともしない。

 わたしは魔力を使うことを決めた。


 こうなれば、もう見つかってもいいわ! アジューを呼んで逃げよう。


 火の魔法で空気の壁を焼き払うつもりで、魔法陣を描こうとしたが、描けない。


 なぜ!?


 わたしは、はっとした。


 あのとき――おじさんはわたしの頬を挟んでわたしの目を見つめていた……

 あれは、わたしに封印魔法をかけていたんだわ。魔力を発動できないように!

 なんてこと! 不覚だった――


 今となってはもう遅い。わたしは悔しくて、思いっ切り叫んだ。


「ナナシのバカー! バカッタレー! 」


 もう令嬢のたしなみどころじゃなかった。

 もし母がこんなところを見たら、卒倒していたかも。 

 

 わたしは腹立ちが収まらないまま小屋に戻り、ソファに座って、残していた水を一口飲んだ。


 少し気持ちが落ち着いてきた気がする。

 仕方ない。おじさんが帰ってきてから、逃げるチャンスを待つしかない。そう決めると、調理場へ行った。

 

 まずは、腹ごしらえね。


 調理場の上の方に、明り取りの小さな窓があった。その下が調理用の台。その隣の戸棚を開けると、どう使うのかわからない食材がぎっしり入っていた。

 食器類が入っている戸棚を探し、木の器とスプーンを取り出してきた。


 暖炉の前に下ろしていた鍋からスープを取り分ける。スープというより野菜と肉の煮込みと言ったほうがよかった。


 それをソファで食べた。

 空腹だったせいか、意外に美味しい。


 でもまだ、すっかり怒りはおさまったわけではなかった。

 おじさんが、帰ってきた後、どうやって逃げようかと考えることで、いくらかましな気分になった。


 ふと、銀ばら亭のおかみさんにもらった袋を思い出した。


 餞別と言ってたけど、何を入れてくれたのかしら。


 収納バッグから袋を取り出して開ける。中には銀貨二十一枚と、携帯用の銀の櫛と手鏡が入っていた。


 そっか、銀貨一枚は今日の給料で、残りが餞別なのね。


 わたしは、心の中でおかみさんに感謝した。これだけあれば、しばらくは何とかなりそうだった。銀貨を収納バッグにしまうと、銀の櫛と手鏡をじっくり見た。その両方に細かな薔薇の模様が彫りこまれていた。

 

 おかみさんは、どこにいても身ぎれいにしていなさいって、言ってたっけ。


 その言葉を思い出して、三つ編みにしてもらっていた髪をほどき、手鏡を見ながら髪を梳いた。櫛通りが良くなってきた髪は、艶も出てきた。ふわりと後ろに流す。


 髪を梳いたせいか、すっきりした感じ。 


 わたしはカップに残っていた水を飲み干した。


 これからのことは、明日考えよう。

 今日はいろいろなことがあり過ぎたわ……


 疲れがどっと出てきた気がした――



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