あなたは誰?3
男は、わたしをくるりと自分の方へ向けて、笑いを含んだ声で言う。
「久しぶりだな、ルーア。いや、ルナーリアだったな」
わたしは、男の顔を見上げた。
男はフード付きの白いローブを着ていた。
フードの中に見覚えのある漆黒の瞳が自分を見下ろしている。
ふいに、時が遡る。十一年前、見た瞳だ。ただ、いくら思い出そうとしても、顔の輪郭、いや顔全体が曖昧なのだった。しかし、強い光を宿した瞳は覚えている。
「あ、もしかして・・・ナナシおじさん?」
男はククッと笑った。
「それ、覚えているんだ」
「えー、そうなの? ほんとうに? どうしてたの、今まで。なぜここに? わたしを探しに来たの?」
「一度に聞くな。 しかしおまえ、女だったとはな。あのときは、てっきり小僧っ子だとばかり思ってたが」
「驚いたわ、まさかこんなところで会うなんて――って、もしかして手配書を見て、わたしを?」
「それなんだが――ちょっと、ここではまずいな。場所を変えよう」
ナナシおじさんは、さっとわたしを抱え上げると、有無を言わさず移動魔法を発動した。
おじさんは、やっぱり魔法師だったのね。まいったわ、わたしより魔力強いかも。
一瞬、周囲の空気が渦巻いて、ふわりと降り立ったのは、山小屋の前だった。
場所はどこなのか、さっぱりわからない。
おじさんは、山小屋の扉を開けると、手招きした。
まあ、いいか。じたばたしても仕方ないわね。とりあえず話を聞かなくちゃ。
わたしは、招かれるまま、山小屋へ入った。
彼の持つランプに照らされた小屋の中は、思いがけなく広かった。
暖炉があり、鍋がかかっている。そのそばに、ソファが一つとテーブル。奥に調理ができる小さなスペースと衝立の陰に木のベッドが見えた。一人で暮らすには十分だろう。
わたしをソファに座らせて、テーブルの上にランプを置くと、暖炉に魔法で火をつける。
おじさんは調理場の方から陶器の水差しを持ってきて、わたしの隣に腰を下ろし、水差しと揃いのカップに水を注いだ。
「ほら、まあ水でも一杯飲みなさい」
わたしにカップを渡してくれる。
なんだか、前より言葉がきれいになった感じがする。
「おじさん、わけを話して」
「おれは、おじさんじゃない、って。いや、まあ、もうすっかりおじさんだな」
彼は、あははと笑い、フードを外した。一つに束ねた灰色の髪が現れた。
顔の周りには、うっすらと微細な光の粒子とも見える靄のようなものがかかっていて、目鼻立ちや顔の輪郭はおぼろげにしか見えない。
でも、わたしには、それが魔法のベールで、顔をカムフラージユしているのだとわかった。
おそらく魔力の低い者には、普通に人の顔に見えるだろう。
ベールの向こうの彼の素顔は、よほどの魔力がないと見えないに違いなかった。
わたしは、彼をじっと見つめた。そして言った。
「あなたは、誰? なぜ顔にベールをしているの?」
おじさんは、一瞬、驚いたふうだったが、小さく喉で笑う。
「知りたいか?」
わたしは、うなずいた。
「そのうちわかるさ。今はわからなくてもね。だが――おれの顔にベールがあるのが見えるのか。面白いやつだな。これが見えるとは」
彼はそう言いながら、わたしのコートに手を伸ばし、フードをそっと外すと、大きな両手でわたしの頬を挟んで、じっと見た。
な、なにをするのよっ、と思ったけど、声が出なかった。
黒い瞳の中の光がいっそう強まったのが見えた。
――と、そのきらめきが穏やかになる。
「部屋が温まった。汗をかく前に、コートは脱いでおきなさい」
わたしが、嫌そうに両手をはがすと、彼はまた笑いながら立ち上がった。
「おまえに会わせたい人がいる。準備があるから、しばらくここにいてもらうよ」
「会わせたい人って?」
「ここには当分の食料がある」
彼はわたしの問いには答えず、そう言って調理場の方を指さした。
「長くはかからない。おれが戻るまで、気楽に過ごしていなさい」
「えー、ちょっと、答えてないわよ」
彼は笑い声を上げながら、移動魔法で姿を消した。
いつもお読みいただき、ありがとうございます!m(__)m
毎日連投どのくらいできるか挑戦していましたが、さすがにちょっと息切れしてきました。
またしばらく、1~2日ほど開けて投稿しようと思います。
今後とも、よろしくお願い致します☆
部分改稿しております。




