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まったく、その気にならなくて  作者: あけの星
第一章

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銀ばら亭


 石塀に囲まれたその宿は、入口に大きく『銀ばら亭』と書かれた看板がアーチの門の上にかけられていた。

 

 白っぽい石で積み上げられた門には扉はなく、門をくぐると建物の前庭だった。

 そこには大小いくつものテーブルと椅子が置かれ、テラス席になっている。


 テラスに埋め込まれた石の道をたどると、宿の入口があった。


 頑丈そうな分厚い木の扉は手前に開かれている。


 ターフ爺さんは、扉についている銀メッキされた薔薇のノッカーを鳴らし、宿の奥に向かって、声を張り上げた。


「おかみさーん、炭を届けにきたぞーい」


 すると、奥の方から女の声がした。

「ちょっと待っとくれ、いま行くよ」


 中から現れたのは、小柄で太った中年の女性だった。両サイドから編み込んだ銀髪を、後ろでまとめて結っている。


「炭はそこへ置いとくれ。また頼んだよ」

 そう言いながらターフ爺さんに代金の入った小さな皮袋を渡した。


「おや、新入りかい?」

 おかみさんは、わたしの方を見た。


「いんや、宿を探しているというから、おまえさんところに連れてきてやったんじゃ」

「そうかい、じゃあ、あんたはこちらへついといで」


 おかみさんは、わたしに向かって顎で建物の奥を示すと、中へ戻ろうと後ろを向いた。

 そのとき、ターフ爺さんが、わたしの耳元で言った。

「銀ばらというより、タヌキばらだけどな、気のいいやつだから、心配せんえでええぞ」


 わたしが思わず笑いかけたとき、おかみさんの声がした。

「聞こえてるよ! もう、よけいなこと言わずに、さっさと帰りな」

「おっと、退散、退散。じゃあ、またな」

 ターフ爺さんは、よろよろしながら炭の籠を背負うと、笑いながら去って行った。


「まったく、よけいなことを言う爺だよ」

 ひとり言のようにつぶやいた。本気で怒っていはいない。どこか愛情のこもった声だった。

 わたしは笑いをかみ殺しておかみさんの後をついて行った。


 少し行くと、客の受付をする帳場があった。

 おかみさんは奥へ回り、宿帳をカウンターに出して、名前を書くように言った。


「それで、どのくらい泊まる予定だい?」


「仕事が見つかるまで。それと、住むところが見つかるまでかな」

 わたしが言うと、おかみさんはあまり驚きもせずうなずいた。


「それなら、鉱山ギルドへ行ってみるといいよ。銀山の仕事はいくらでもある。選ばなきゃあ、だけどね。仕事を求めてくるやつは多いんだ。あ、でも、あんた計算はできるかい?」


「一応できますけど」


「なら、どうかしらね、今、うちの倉庫係が病気で休んでるのさ。

 だから、毎日てんてこ舞いなんだ。治るまででいいから、代わりにやってくれないかい? 


 仕入れた物と使った物、それと備品のチェックをしてもらいたいんだ。食事付の寝床と一日銀貨一枚。悪い話じゃないだろう? 慣れてきたらもう少し銀貨を増やしてあげるよ」


「わたしでいいんですか? それって大事な仕事なんでしょう?」

 首をかしげて、おかみさんを見つめる。


「ふふ、そう言うあんただからかもね。真っすぐないい面構えしているよ。ターフ爺が、あんたをここへ連れてくるわけだ。爺の目はまだ曇ってないからね」


「ありがとうございます! よろしくお願いします」


わたしは、おかみさんの提案を受け入れて、ここで働くことになったのだった。



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