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まったく、その気にならなくて  作者: あけの星
第一章

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アジューの役目


 坑道を出たわたしは、昇り始めた朝日を浴びながら思いっきり伸びをした。

  

 まだ魔力(マナ)の実の効果は残っているらしい。あれほど解呪に魔力を放出したのに、身体は軽い。頭もすっきりしている。


 先に入口から出ていたアジューも、翼を羽ばたかせている。

 大きくなった。あらためてアジューを眺める。


 近寄って、首筋を軽く叩いた。

「もう、すっかり大人だね」


 アジューは軽く鼻を鳴らして言った。

――うん、これで天界近くまで行けるよ――


「そんなところまで……すごいね!」

――魔力が満タンのときだけだよ――


 そう言われて、はっと気づいた。

 アジューの瞳が三日月に近くなっている。

 もしかしたら――

 解呪のときに魔力を使わせてしまったのかもしれない。


 わたしは申しわけなく思いながら言った。

「解呪のときに、アジューに魔力を使わせちゃったかな、ごめんね」

 

――心配しないで。解呪の手伝いは、女神から託されたボクの役目の一つだったから――


「えっ、そうなの?」

 ああ、そういえばあの時、女神は『役に立つだろう』と言ってたっけ。

 そうだったんだ……そう思ったとき、ふいに熱い感動の想いが溢れてきた。思わず膝をつき、胸に手を当て女神に感謝の祈りを捧げた。


 意図せず、なぜこうしてすんなり女神に礼をとれるのか、われながら不思議だった。

 もしかしたら、前世は神殿の巫女だったのではないかしら? 

 そんな思いすら湧いてくる。


 まさかね。


「もし女神様に会うことがあったら、わたしが喜んでいたと伝えてね」


 わたしはアジューの首に頭を寄せて、背中を軽く撫でながら言う。

 アジューを撫でるのは気持ちがいい。そばにくっついていると、まるで羽布団にくっついている感じ。不思議な温かさがあるのだった。


――わかったよー これからはもう、ボクはルナーリアのそばに、いつもいてあげられないけど、名を呼んでくれれば、すぐに来るからね。どこへでも乗せて行ってあげるし、何かあれば助けに来るよ。それがこれからのボクの役目なんだ――


「ありがとう、アジュー。でも、なんだか寂しいな」


――いつでも、ボクに会いたくなったら呼んで。飛んでくるよー ――


「わかったわ」

わたしはうなずく。


――さあ、乗って。どこへ行く?――


「一番近くの町へ」

 わたしは、ふわりとアジューの背に飛び乗った。



 *



 アジューは、岩山から一番近いと思われる町近くの山裾、人目のない林の中に、わたしを降ろすと、自分の領域へ帰って行った。


 アジューの姿が見えなくなるまで見送った。

 それから少し寂しくなった思いを振り払い、わたしは気を取り直して町へと歩き出した。


 しばらく行くと、街道と思われる道に出た。

 町まで続く道らしい。遠くに町の建物が見える。

 この辺りの地名はまったくわからなかった。直接行って聞くしかない。


 途中、ぽつぽつと人の往来が見えてきた。空はすっかり晴れて、朝日は昇り切っていた。


 荷を積み上げた馬車も見える。

 荷を背負って歩く煤だらけの者たちもいた。


 あれは炭を運んでいるのではないかしら。


 ルナーリアの実家の鉱山町でもよく見かけた姿だ。

 金や鉱石を精錬するのに炭を使う。いくらあっても足りないという。それほど溶鉱炉の熱源として必要らしい。


 ということは、これから行く町も鉱山町。それなら、働き口は案外あるかもしれない。

 いつも鉱山町は人手不足だと聞いていたから。


 さまざまな人々が集まる町は、見知らぬ者が現れても、怪しまれることはあまりない。

 とりあえずは、仕事と自分の部屋を確保したかった。


 しばらく、街道を歩いて行くと、道の端に人が倒れているのが見えた。

 どきりとする。


 荷馬車はせわしく行き交い始めていたが、どれも止まろうとはしなかった。

 プレシア国でも行き倒れの旅人の話は日常的にある。おそらく、この国でも同じだろう。


 だけど、まさか、馬車にはねられたりしてないよね?

 おずおずとわたしは近づいて行った。


 倒れているのは老人だった。炭を入れた背負い籠が転がっている。

 煤で黒くなった横顔が見えた。炭の運び屋なのかもしれない。


 しかし、出血しているようにも見えなかった。とくに打撲の跡もない。

 馬車にはねられたわけではなさそうだった。

 

 病気かしら?


 わたしは彼に息があるかどうか確かめた。

 うん、ちゃんと息はしている。


 「もし、大丈夫ですか――」

 声をかけながら、彼の肩を軽く揺さぶった。


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