アジューの役目
坑道を出たわたしは、昇り始めた朝日を浴びながら思いっきり伸びをした。
まだ魔力の実の効果は残っているらしい。あれほど解呪に魔力を放出したのに、身体は軽い。頭もすっきりしている。
先に入口から出ていたアジューも、翼を羽ばたかせている。
大きくなった。あらためてアジューを眺める。
近寄って、首筋を軽く叩いた。
「もう、すっかり大人だね」
アジューは軽く鼻を鳴らして言った。
――うん、これで天界近くまで行けるよ――
「そんなところまで……すごいね!」
――魔力が満タンのときだけだよ――
そう言われて、はっと気づいた。
アジューの瞳が三日月に近くなっている。
もしかしたら――
解呪のときに魔力を使わせてしまったのかもしれない。
わたしは申しわけなく思いながら言った。
「解呪のときに、アジューに魔力を使わせちゃったかな、ごめんね」
――心配しないで。解呪の手伝いは、女神から託されたボクの役目の一つだったから――
「えっ、そうなの?」
ああ、そういえばあの時、女神は『役に立つだろう』と言ってたっけ。
そうだったんだ……そう思ったとき、ふいに熱い感動の想いが溢れてきた。思わず膝をつき、胸に手を当て女神に感謝の祈りを捧げた。
意図せず、なぜこうしてすんなり女神に礼をとれるのか、われながら不思議だった。
もしかしたら、前世は神殿の巫女だったのではないかしら?
そんな思いすら湧いてくる。
まさかね。
「もし女神様に会うことがあったら、わたしが喜んでいたと伝えてね」
わたしはアジューの首に頭を寄せて、背中を軽く撫でながら言う。
アジューを撫でるのは気持ちがいい。そばにくっついていると、まるで羽布団にくっついている感じ。不思議な温かさがあるのだった。
――わかったよー これからはもう、ボクはルナーリアのそばに、いつもいてあげられないけど、名を呼んでくれれば、すぐに来るからね。どこへでも乗せて行ってあげるし、何かあれば助けに来るよ。それがこれからのボクの役目なんだ――
「ありがとう、アジュー。でも、なんだか寂しいな」
――いつでも、ボクに会いたくなったら呼んで。飛んでくるよー ――
「わかったわ」
わたしはうなずく。
――さあ、乗って。どこへ行く?――
「一番近くの町へ」
わたしは、ふわりとアジューの背に飛び乗った。
*
アジューは、岩山から一番近いと思われる町近くの山裾、人目のない林の中に、わたしを降ろすと、自分の領域へ帰って行った。
アジューの姿が見えなくなるまで見送った。
それから少し寂しくなった思いを振り払い、わたしは気を取り直して町へと歩き出した。
しばらく行くと、街道と思われる道に出た。
町まで続く道らしい。遠くに町の建物が見える。
この辺りの地名はまったくわからなかった。直接行って聞くしかない。
途中、ぽつぽつと人の往来が見えてきた。空はすっかり晴れて、朝日は昇り切っていた。
荷を積み上げた馬車も見える。
荷を背負って歩く煤だらけの者たちもいた。
あれは炭を運んでいるのではないかしら。
ルナーリアの実家の鉱山町でもよく見かけた姿だ。
金や鉱石を精錬するのに炭を使う。いくらあっても足りないという。それほど溶鉱炉の熱源として必要らしい。
ということは、これから行く町も鉱山町。それなら、働き口は案外あるかもしれない。
いつも鉱山町は人手不足だと聞いていたから。
さまざまな人々が集まる町は、見知らぬ者が現れても、怪しまれることはあまりない。
とりあえずは、仕事と自分の部屋を確保したかった。
しばらく、街道を歩いて行くと、道の端に人が倒れているのが見えた。
どきりとする。
荷馬車はせわしく行き交い始めていたが、どれも止まろうとはしなかった。
プレシア国でも行き倒れの旅人の話は日常的にある。おそらく、この国でも同じだろう。
だけど、まさか、馬車にはねられたりしてないよね?
おずおずとわたしは近づいて行った。
倒れているのは老人だった。炭を入れた背負い籠が転がっている。
煤で黒くなった横顔が見えた。炭の運び屋なのかもしれない。
しかし、出血しているようにも見えなかった。とくに打撲の跡もない。
馬車にはねられたわけではなさそうだった。
病気かしら?
わたしは彼に息があるかどうか確かめた。
うん、ちゃんと息はしている。
「もし、大丈夫ですか――」
声をかけながら、彼の肩を軽く揺さぶった。




