解呪4
アジューは、わたしのそばへ駆け寄って、鼻息を鳴らした。
「お帰り、アジュー」
――ルナーリア、手を出して――
言われた通り手を出すと、アジューは掌に鼻を近づけて、ぽとんと丸いものを吐き出した。ぬるっとした感触でやわらかな青い光沢を放っている。大きな葡萄の一粒に見えた。
――なっ、なに? これ?
わたしの驚きを察したアジューが言う。
――エルフの森の木の実だよ。人も食べられるんだって。ボクたちの仲間の住む領域とエルフの領域が重なってるところがあって、その森に生えてる魔力の木だよ――
「そうなの?」
――食べてみて。元気が出るよ。ボクは、もうたくさん食べたから、すっかり元気になったよ――
アジューはフンフンと鼻を鳴らした。
「ありがとう、アジュー、わざわざ持ってきてくれたんだ」
わたしは、アジューの鼻面を撫でた。
「あれっ」
わたしはアジューが朝より大きくなっているのに気づいた。
ほぼ二倍の大きさだ。それに、頭の白いこぶも少し伸びている。
一番驚いたのは、瞳だった。
外に出る前は三日月だったのが、満月ほどではないけれど、丸くなっていたのだ!
「アジューどうしちゃったの、その瞳?」
――いっぱい食べて、魔力が満タンになったからだよ。魔力が減ってくると細くなっちゃうんだーー
「へえ、そうなんだ」
わかりやすい。計りの目盛りみたいなものだ。
アジューが早く食べろという顔で見るので、わたしはおずおずと、もらった木の実の匂いを嗅いだ。
甘い香りがする。
アジューの唾液でベトベトなのか、皮が自体がぬるっとしているのか、よくわからなかったけど、せっかくアジューがわたしのために採ってきてくれたのだもの、食べないわけにはいかないじゃない。
わたしは、おそるおそる、端をかじってみた。
甘い汁が垂れてくる。これならなんとかいける。残りをぱくりと一口で食べた。
とたん、カッと全身が熱くなった。まるで、こっそり父の大事にしていたお酒を飲んだ時みたい。いやそれ以上だった。稲妻が体中に走った。
「ぎゃっ――」
わたしは、声を上げてアジューにしがみついた。
するとアジューは同じような声を出し、そのまま一瞬飛び上がって着地した。
毛が逆立っている。
――うへっ、ルナーリアの魔力が倍増して、ボクに飛んで来たよ――
「ご、ごめんね、そっちにも行っちゃった?――」
――ああ、びっくりした。あれ、人には強すぎたのかな? でも大丈夫だよ、すぐに落ち着くから――
アジューはまた鼻を鳴らした。
身体はまだ熱いが、少し落ち着いてきたわたしは、アジューから手を離した。
「おさまってきたわ、もう大丈夫そう」
――よかった。きっとすごい力持ちになってるよ、ルナーリア。魔力の実の効果が消えるまでは、だけど――
「そうなのかな? たしかに身体が軽い気がする。背中の痛みも消えてしまったみたい」
わたしは身体を前後左右に動かした。
まだ、火照っているけど妙に軽い。ふわりと浮き上がりそうな気がした。
木の実の効果かしら?
――それはよかった。でも、何か困ったことがあるんじゃないの? さっき悩んでたでしょ? ――
「わかっちゃた? そうなのよねー」
――うん、ボクとルナーリアは契約で繋がっているから、感知しちゃうんだーー
「そうなの? なんでも全部わかっちゃうとか?」
もしそうだったら、ちょっとまずいんじゃ…その思いを打ち消して聞いた。
――全部じゃないよ。かなり強い意識を発したとき、わかるんだ。危機を感じたときとか、さっきみたいに、困った想いがあるときだよ――
「そうなのね」
わたしはいくらかホッとして、困った理由を話した。
「解呪するのに、清らかな水晶か、白き月の石が必要なの。どちらか、手に入らないかしら」
――明日まで待って。明日になれば、ボク、もう少し大きくなるから。ルナーリアを乗せてあげられると思う。乗って探しに行こう――
「ほんとう⁈ ありがとう、アジュー」
わたしは、アジューの首を抱きしめた。
たしかに、朝より、ずっと骨格がしっかりしているようだった。一日で、倍になるのだとしたら、明日は、わたしが乗っても耐えられるかもしれない。
安心したせいか急に眠くなってきた。
わたしは寝床に横になり、あっという間に眠りに落ちた。




