解呪3
わたしは、岩壁に背をもたせかけ、ため息をついた。
背中がひりひりと痛んだ。
そういえば、先ほど遮断石を取りに行ったとき、少し背中を擦ったっけ。赤くなっているかもしれない。
それでも思い出は、次々と浮かんでくる。
あの後――聖魔女候補になった後で、わたしは気がついた。
大きな魔力が発現して国の結界に触れたから、といって、必ずしも罪に問われることはないのではないかと。ある意味伯父に利用されかけているのではないかとも。
うがった考えかもしれないけれど、わたしは聞いてしまったのよ。
ちょうど、二次選考が終わった後、気分転換に神殿の庭を散歩していたときだったわ。
わたしは、ずっと神殿の客室に住まわされていたの。まるで閉じ込めよね。
誰かが数人、おそらく神殿に参拝に来た貴族たちだと思うけど、近くを歩いているらしかった。わたしは、誰にも会いたくなくてそっと木陰に隠れたの。
そうしたら話声が聞こえてきた。ショックだったわ。
『――神官長も、なかなかやりますな』
『これで、聖魔女が決まれば、あの方も王族との関係がーー』
『よいことではないか。あの方に近いわれらも恩恵に預かれるというもの』
『――たしかに。楽しみに待ちましょうぞ』
笑い声を残して彼らが通り過ぎた後、わたしは神殿の図書室へ行った。
わたしのしたことが罪になるのかどうか、調べてみたの。でも、これまでわたしのような事例はなくて、それに近い話は書物にあったけど、罰せられた話はなかったわ。
今回の魔力の発現は、わざとしたことではないし、悪意なんてない。
だとしたらーーこのことは、伯父様の胸ひとつなのかもしれないと、そのとき思った。
あのときは、聖魔女になるしか助かる道はないと、わたしも両親も思い込んでいた気がする。両親は内心大喜びみたいだったけど。
でも、わたしは気づき始めると、だんだん腹立たしい気持ちになってきたわ。
しかも聖魔女に決定したら、王子様と婚約が決まるっていうじゃない。
とんでもない!
だから逃げよう、と決めた――
――そうだったのよ。
わたしの憤りは、伯父や両親、そして、のせられた自分に対するものだった。
わたしは落ち着きなく立ち上がると、収納バッグから遮断石を取り出し、手に持ったまま出口に向かった。
坑道から出ると、外は日が傾きかけていたが、まだ明るかった。
外の新鮮な空気を吸い込むと、少しは気が晴れた。
遮断石をそばに置いておけば、追跡魔法は弱まるかもしれない。
危険ではあったが、周囲の状況を確認しておきたいし、寝床用に草を集めたい。
坑道への入口は、岩山の崖に囲まれた空き地の中にあった。
小さな岩や石が空き地を埋めていたが、ところどころに草むらも見えた。
草はそこで集めればよいが、下りる道も、上る道も見あたらなかった。
ここから出るには移動魔法しかないだろう。
食べ物は、まだ二、三日は持ちそうだが、いずれ何とかしなくてはならない。それまでに、解呪しなくては。
わたしは短剣で草を刈り取って、寝床用に必要な分を集め終えると、また坑道に戻った。
毛布の下に集めてきた草を敷く。
これでいくらかは楽に寝られるかもしれない。
夕食に、固いパンとチーズ、干し肉を少しかじった。
食べ終えると、魔法の灯りを少し強くして、特殊魔法の本を開く。
たしか、どこかにあった気がするのだ。一通りは読んでいる。大体の必要なものは理解しているが、細かな点を確認しておく必要があった。
しばらく頁をめくっていると、それらしい記述があった。
そこには、『遮断石にて魔法陣を描き、清らかな晶石、または白き月の石を、額、胸に置く――』と書かれていた。
うーん、困った。遮断石は見つかったのに、解呪をするのには、まだ必要な石がいる。
清らかな晶石……おそらく、透明な水晶のことだろう。まずそれを手に入れなくては。
この岩山にあるだろうか? なければ、また瞬間移動魔法で水晶の山へ行くしかない。
どうしようかと思案していると、アジューの足音がした。




