解呪2
アルスタル伯父様は人払いすると、客間のソファーにわたしと向き合って座った。
二人の間には、数人分のお茶を置いても十分な広い卓があった。
わたしは、いぶかし気に伯父を見つめる。いったい何を言いたいの?
しばらく見つめ合っていたが、やがて伯父が口を開いた。
「――おまえは、自分が何をしたのか分かっているのか? 危うく、この国の結界を突き破って、覆ってしまうところだったのだぞ! すぐに消えたからよかったが……」
「さっき、失敗して……結界を大きくしすぎちゃったかも……でも一回だけよ、大きくしたのは」
ルナーリアは、とまどいながらつぶやいた。
「ああ、なんてことだ、おまえのことを私は見抜けていなかった。ついさっきまで」
アルスタルは額に片手をおいて、ため息をついた。
「ルナーリア、いつからだ、魔力を抑えていたのは?」
わたしはどきりとした。
そう、わたしは魔力をできるだけ外に出さないよう、努力していたのだ。以前、出会ったおじさんの忠告通りに。
不思議なことに、魔法ができることを人に知られてはいけない、そのことを強く念じているうちに、自然と抑えることができるようになっていた。
それでも始めは、つい魔法を使ってしまい、あわてることが多かった。でも少しなら大丈夫とわかってからは楽になった。なにせ、わが家は魔法師の家系なのだ。できない方がおかしかった。
学院に入ったときには、もう抑えるのが当たり前になっていたし、今は抑えているのを忘れるほどだ。
それで油断した。
鷺除けの結界を作るとき、何度も小さ過ぎて失敗したので、ムキになってしまい、つい抑えていた魔力を放ってしまった。でも一瞬だけだった。
それが、ばれてしまったらしい。
その一瞬だけで見破ってしまう伯父は大したものだと思う。
でも抑えていたことは見抜けていなかった。
そこはちょっとわたしの口角がゆるんだけど、伯父の真剣で怖い顔を見たら、うなだれるしかなかった。
「魔法学院に入る前から……」
「なぜ、そんなことをした?」
山師のおじさんに言われたからとは、言えなかった。
わたしがうつむいて黙っていると、両親が部屋に入ってきた。
「何事ですかな?」
父がたずねた。
「男爵、ご存じでしたか? ルナーリアの魔力を」
「まあ、そこそこの魔力だと思っているが?」
「これをご覧ください」
アルスタル伯父は立ち上がると突然、わたしに向かって大きな魔法の稲妻の短剣を放った。
母は悲鳴を上げた。
さすがにわたしも、つい、伯父の魔法に反応してしまった。
痛いのはごめんだ。それにしてもいきなりなんなのよ!
わたしは一瞬で魔法陣を描き自分にドーム状の結界を張った。
伯父の稲妻剣は結界に当たると光の粒となって消えた。
驚いたのは父だった。
「ルーア、おまえ……いつのまにそんな魔力が……アルスタル殿の魔法を受け止め、消すとは! 今のは高等魔術以上だぞ」
このくらいは、簡単だった。いつも父としていた魔法戦の防御を一気に魔力を大きくしたしただけだ。
ただ、伯父の稲妻の短剣が消えるとは思っていなかったけど。たんに跳ね返したつもりだった。
わたしの魔力が、そこまでの威力を発揮するとは思っていなかったのだ。
伯父が座ったので、わたしも結界を消した。
「ごらんの通りです。あなたの娘の魔力は、さきほど、この国の保護結界まで達しましたぞ。現在の保護結界を突きぬけて、その上に新たな結界を張るところだった」
「なんと」
父は伯父とわたしを交互に見つめた。
「それは言い過ぎよ、伯父様、わたしはたまたま、魔力をちょこっと放っただけだし。一瞬よ、一瞬」
わたしはそう言いながら、父と母を見た。
母はまだ立ったままで、側仕えの侍女に支えられていた。
父は、顎に片手をあてて、考え込んでいる。
「さすがにもう、このままにしておくことはできないだろう。神官長として見過ごすわけにはいかぬ。私だけが感知しただけならまだ良いのだが、もしかしたら感知した他の者たちがいるかもしれぬ。下手をすると国防を脅かした罪に問われかねない」
わたしは事の重大さに、ようやく気づいてぞっとした。
たった、あれだけのことで……
「では、どうしたらよいのだ」
父が低い声でつぶやく。
「それでだ、私に考えがある。ルナーリアに大きな魔力が発現した、ということで次期聖魔女候補に推薦しよう。近々、聖魔女の選考会があるのだ」
もうそれは決定だった。




