もどれ
ぼくは、やってはいけないことをした。
メルトさんのためにって思ってたのに、メルトさんを泣かせた。
ダメだってわかってたのに、止まれなかった。
「……………………」
何もうまくいかない。ただ部屋の壁を見て、なにか変わらないかって待ってる。
ぼくがなんとかしないといけないのに。
どれだけ経ったんだろう。そんなことを考えることすら、ぼくには許されないんじゃ……
せめて、ごめんなさいを、言わないと……
「…………ご、ごめんねー、ルノくん」
ベッドの横に座っていたメルトさんが、上擦った声で言った。
「ちょっと、あのね、その、あんまりに急だったからさ、うちも少しびっくりしちゃって……」
メルトさんの顔を見れない。でも、謝らせた。
悪いのはぼくなのに。
顔を見て謝らないと。
「………………メルトさん……ご、ごめんなさ――」
「謝らないで……!」
メルトさんがおおきな声でぼくを止めた。
――なんで?どうして止めるの?
「……ルノくん、は、悪く、ないから」
「うちが……全部悪いの。だから……謝らないで……」
少しだけ、メルトさんの顔を見た。
いつものメルトさんみたいな明るさが嘘みたいで、目元が赤い。
どうすれば元に戻れる。それとも、もう戻れない?
「ほんとにね、大丈夫だから。あー、ちょっと風に当たってくるから、ルノくんは部屋にいて!」
「待って、メルトさ――」
ばたんと扉の音が鳴る。
部屋には、ぼくひとり。
「あ……」
日記、開いたままだ。
今はまだお昼……書くには早い。
けど、勝手に手が動いた。
『メルトさんを泣かせた』
◆
やらかした。バレた。嘘がバレた。嫌われる。見捨てられる。
もう前みたいに頼って貰えない。強くてかっこいいお姉ちゃんじゃ、メルトさんじゃいられない。
もううちに価値はない。意義はない。なにもない。
うちがもっと上手く隠せてれば、もっと強い心があれば……
――ルノくんが、気づかなければ――
「……!」
嫌い、嫌い、嫌い。最悪。ルノくんのせい?最悪最悪最悪。
何言ってるわけ?なんでルノくんのせいになるの?全部あんたが悪いんでしょ。
「うちが、うちが! うちが! うちがぁ……!」
「……あの、大丈夫ですか?」
誰。
「あー、えっと、頭が痛いんですか? お部屋までお連れしましょうか?」
うるさい。
「あ……えっと、すみません……」
………………外だ。外に出よう。広い世界の空気を吸って、狭いうちを脱ぎ捨てる。
大丈夫。まだ巻き返せる。
まだ、戻れる。少し噛み合いが悪かっただけなんだ。
無くしたものは、別のものを埋めておけばいい。
「笑え。笑え。笑え。笑え。笑え」
通路を歩きながら、ふと見えたガラスに見えたのは、気持ちの悪い顔をしたうちだった。




