夕空の下
夕暮れが近づく街を、二人の旅人が歩いている。
仲良く手を繋いだ姿はどこから見ても仲の良い姉弟で、見た目の差異を気にするものなどいないだろう。
「みんな行っちゃったね」
「そうだねー……これまでで一番騒がしかったし、落差がすごいかも」
メルトの歩幅は普段より狭く、ルノもまたゆったりと街を眺めながら歩いていた。
レンガ造りの街をゆったりと眺めたのは禁書以来で、実物を見るというのはとても新鮮な気持ちをもたらした。
ルノはその気持ちのまま、ずっと言うべきと考えていた気持ちを吐き出す。
「メルトさん、いろいろあったけど、ぼく言わなきゃいけない事が2個あるんだ」
「なぁに?」
メルトが慈愛に満ちた瞳でルノを見つめると、ルノはじっと見つめ返した。
「ひとつは、メルトさんが言えないって言ってたことを無理やり聞こうとして、ごめんなさい」
「……そうだね。あれはちょっと辛かったかも……」
「でも、うちも知らないってことをずっと秘密にしてたからね。この話は引きずらなくていいんだよ。うちこそ、ごめんね」
「……うん、ありがとう、だいじょうぶだよ」
メルトがルノの頭を撫でる。
ルノは小さく頷くと前を向いた。
「もうひとつは、ぼく、生きる目的見つけたんだ」
「ぼく、物語が作りたい。色んな人のことも、なんでも、思いを伝えたいんだ」
「だから、これからも旅をしたい。メルトさんと一緒に」
ルノがそう言うと、メルトの歩みが止まった。
ルノもつられて立ち止まると、メルトの顔を見た。
メルトは目の端に涙を溜めながら、唇を小さく震わせていた。
「そっか……! それは、うん、ほんとーに最高だと思う!」
「うちも全力で手助けする!」
メルトが涙を拭いながら力強く宣言した。
沈みゆく、橙色の光がその顔を明るく照らしている。
「それで、まだまだ色んな人に生きる目的を聞いていくことにしたんだけど、まだ聞いてなかったよね」
ルノはメルトから手を離して目の前に立つ。
「メルトさんはなんのために生きていくの?」
メルトはぐしぐしと顔を拭き終えると、とびっきりの笑顔で答える。
「これまではうちが生まれた意味を探してた。無くしたものがなんなのか知りたかった。でも、今は違う」
「うちは、ルノくんの隣で旅をしたい。きみが物語を作るのを見ていたい。探したい人だっている」
「だから、目的は一個に絞れない!」
ルノはそれを聞くと、メルトにも劣らない笑顔を浮かべる。
「メルトさんってば、よくばりさんだね」
「いいでしょ! 人生は長いんだから、やりたいことはいくつあっても!」
「うん、ぼくもそう思う」
ルノが手を差し出しメルトがそれを取ると、二人は再び横に並んで歩き出す。
「なんだかフラレスの時を思い出すね」
「そういえば、初めて秘密を言えたのはあの時かー、なんかそれ思い出すとアーヴァンスの裏切りに今更腹が立ってきたかも」
「それは……うん、アーヴァンスさんだし……」
話しながら歩いていると、馬車駅へと辿り着いていた。
ルノはメルトがチケットを買う横で六本馬を見ながら問いかける。
「メルトさん、すぐに行かなきゃいけないとこがあるって言ってたけど、どこなの?」
ユミアとの別れの後、メルトがすぐにルノに身支度をしようと提案していた。
なんでも絶対に行かないといけない所があるとのことで、その目的地については道中で話すと言ったっきりだった。
「それは、うん、馬車の中で話そうと思ってたけど、いっか」
メルトはルノの額に人差し指を立てる。
ルノが首を傾げると、ふっと笑う。
「それはね、ルノくんの故郷だよ」
「……………………え?」
ルノの目が見開かれ、空いた口が塞がらない。
故郷?どこ?いや何故知っている?
疑問で頭が混乱するルノを見ると、メルトが「ごめんごめん」と言って手を横に振った。
「驚かせちゃったよね! えーっと、でも、そこを歩きながらうちの事とか、なんで知ってるのかとか、いろいろ話したくて……いいかな?」
ルノはメルトの言葉に意識を戻すと、強く頷いた。
「うん。わかった。それでぼくの故郷って……」
メルトは端の切れた小さな手紙を取り出した。
アリスが読んでいた、町の名前などが書いてあったものだ。
メルトは何枚もある手紙の一枚を取り出してルノに手渡した。
そこには一つの町名が記され、赤く丸で印がつけられていた。
「ルフトラ。この国の北の方にある小さな町の名前だよ」
六本馬の蹄の音が響く中、メルトがそう言った。
◆
駅馬車に乗り込んだルノたちだったが、ルノは早速メルトに詰め寄っていた。
「ねぇ、ぼくのルフトラってアーカスでメルトさんが作ってたハンバーグのとこだよね? なんでぼくの故郷だって知ってるの? グラムさんがアーカスから遠い北の方って言ってた気がするけどどれくらいの距離があるの?」
禁書庫で知識への熱が失われたとは思えない程の質問ラッシュである。
それがまた新しい熱なのかどうかをルノは認識していない。気にすることも無いだろう。
「ちょちょ、ちょーっと待ってねルノくん、えーっと、とりあえず話さないといけないことを整理しないとだから」
メルトはこめかみを人差し指で挟むと、「んー」と唸る。
「まず、距離。ルフトラはトワイライトからだと船を使っても3週間くらい、かな……」
「あと他は……うちがなんで記憶を無くしてたのかって話……かな」
メルトは膝に手を置くと、揺れる窓の外を眺めた。
ぼんやりとした紅い瞳が遠く離れたトワイライトの街並みを反射していた。
「それは……うちが悲しい気持ちをもう知りたくなかったから、ある女の子に頼んだの」
「悲しい気持ち……」
ノーデンやリディベルとの別れに関してだろうか。
ルノは二人がトワイライトを出たところまでしか知らないため、想像しか出来なかった。
「人と死に別れることが、うちのせいで周りが不幸になることが嫌だったから、その子に封印してもらったの」
「……ルノくんはパパたちのことを知ってるみたいだったから言うけど、フクロスでうちが生まれて……うちだけ生き残っちゃった」
「それで一人でなんとか逃げた先がルフトラ。その時にお世話になった人がいたんだ。でも、その二人……ルセドさんとシノさん……ルノくんのパパとママの事も、忘れることにした」
「………………」
記憶に叩きつけられたその名前に、ルノは声を出すことが出来なかった。
◇
『☆月☆日 メルトさんの事を知って、ログネスさんにも勝って、ユミアさんとかアーヴァンスさんとも、もっと仲良くなった。物語を作りたいって言うこともできた』
『メルトさんは、ぼくのお父さんとお母さんを知ってた。 ルノ』
以上トワイライト編でした。やっとここまでこれた……断章一話挟んでから最終編開始です。まだ一文字も書けていません。




