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そのゲームは、切り離すことのできない序曲に過ぎない  作者: 珂珂


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第二卷 第四章 成長の証(5/7)

藤原雛ふじわら・ひな半空はんくうをひるがえし、素早すばや体勢たいせいなおした。

その胸元むなもとには、なおもさきほどの一撃いちげき余震よしんのこっている。

藤原雛ふじわら・ひな超量鎧甲ちょうりょうがいこう――雷衣らいいにまとっていた。

そのため、雷元素らいげんそによる攻撃こうげきけても、その大半たいはん威力いりょく相殺そうさいすることができる。

よろい表層ひょうそうにはあときついた紋様もんよう無数むすうはしっていたが、それでもなお、防御構造ぼうぎょこうぞうすこしもそこなわれてはいなかった。

彼女かのじょ素早すばや呼吸こきゅうととのえ、指先ゆびさきこし長刀ながとうにそっとれる。

ほそめられた眼差まなざしはまっすぐ前方ぜんぽう射抜いぬき、その思考しこうさきほどみずからがかんった魔法まほう痕跡こんせき高速こうそく辿たどっていた。

あの吸収きゅうしゅうできなかった雷撃らいげきが、彼女かのじょ一瞬いっしゅん異常いじょう所在しょざいさとらせた。

雷撃らいげきふちには、ごくうす風元素ふうげんそ気流きりゅうが、かすかに渦巻うずまいていたのである。

その気流きりゅうは、まるで薄膜はくまくのように雷元素らいげんそと「萬象奔雷ばんしょうほんらい」との共鳴きょうめい遮断しゃだんしていた。

そして、それをるのは、桑德サンドにする武器ぶき――超量武器ちょうりょうぶき五重扇ごじゅうせんにほかならなかった。

五重扇ごじゅうせんは、たんなる攻撃武器こうげきぶきではない。

それは魔法導引装置まほうどういんそうちとしての性質せいしつあわっており、その最大さいだい特異性とくいせいは、ことなる属性ぞくせい魔法まほう同時どうじかさねて付与ふよできるてんにあった。

さきほどの雷撃らいげきにも、すでに第一重だいいちじゅう魔法まほうくわえられていた。

――「葉風ようふう」。

それ自体じたい四階風元素魔法よんかいふうげんそまほうにすぎず、本質的ほんしつてきには気流きりゅうしょうすだけのじゅつである。

だが、ほか元素げんそわされたとき、それは驚異的きょういてきな「干渉効果かんしょうこうか」を発揮はっきするのだった。



藤原雛ふじわら・ひなさとった。

もはや、吸収きゅうしゅうによる防御ぼうぎょだけでは、このたたかいには対処たいしょできない。

桑德サンド攻撃こうげきは、ただ激烈げきれつなだけではなかった。

そこには緻密ちみつ戦略せんりゃくと、幾重いくえにもかさなる変化へんかまれていた。

彼女かのじょ両手りょうてかたなにぎり、長刀ながとう萬象奔雷ばんしょうほんらい」を胸前きょうぜんかかげる。

雷光らいこうやいば沿ってながれ、その周囲しゅういには雷紋らいもん波紋はもんのようにちゅうひろがっていった。

それはまるで、かぜかみなり刀身とうしんうえでひとつのかたちしつつあるかのようだった。

だが、桑德サンド彼女かのじょにそれ以上いじょうかんがえる猶予ゆうよあたえなかった。

かれはふたたび手中しゅちゅう五重扇ごじゅうせんるう。

すると今度こんどは、そのおうぎうえ第三重だいさんじゅう魔法光紋まほうこうもんかびがった。

六階魔法ろっかいまほう虚水きょすい

それと同時どうじに、かれ妖力ようりょくはげしく脈打みゃくうち、らいからいながら一気いっき炸裂さくれつする。

炎雷五式えんらいごしき幻雷げんらい月火げっか

虚水きょすい」は、水元素みずげんそ透明とうめいへとえ、感知かんち予測よそく困難こんなんにする魔法まほうだった。

本来ほんらい潜行せんこうせのために使つかわれるじゅつにすぎない。

だがいま、それは桑德サンド卓越たくえつした技量ぎりょうによって、幻雷げんらい完璧かんぺきむすびつけられていた。

幻雷げんらい飛翔ひしょう最中さいちゅうに、らい二属性にぞくせいのあいだをえずえながら変化へんかしていく。

そして着弾ちゃくだんしたあとには、体内たいない体表たいひょう双方そうほうに、灼熱しゃくねつ焼痕しょうこんのような「月火痕げっかこん」をのこす。

さらに、「虚水きょすい」の透明性とうめいせいによって、雷撃らいげき辿たど軌道きどう完全かんぜんせていた。

そのため、この一連いちれん攻撃こうげきは、もはや常識じょうしきではれぬほど変幻自在へんげんじざいなものとなっていた。

そら一面いちめんは、青白あおじろ雷光らいこう火紋かもんによって、蜘蛛くものような殺陣さつじんへとわる。

そのなかを、幻雷げんらいはまるで流星りゅうせいのようなはやさで、藤原雛ふじわらひなかって次々(つぎつぎ)とはなたれていった。



これほどまでに変化へんかみ、なおかつとらがた攻撃こうげきまえにして、もし相手あいてほかだれかであったなら、もはや回避かいひするすべはなかっただろう。

虚水きょすい透明とうめい軌跡きせきらいから輪郭りんかくうばい、幻雷げんらい変属性へんぞくせいはその一撃いちげきごとに欺瞞ぎまん宿やどらせる。

それはもはや、「えるか」「反応はんのうできるか」という段階だんかいはなしではなかった。

そもそも、その軌道きどう自体じたい理解りかいすることが不可能ふかのうちかかったのである。

だが、桑德サンド攻勢こうせい全面的ぜんめんてき炸裂さくれつした、そのまさに瞬間しゅんかん――

ひなは、極限きょくげんまでまされた集中力しゅうちゅうりょくせた。

彼女かのじょすこしもあわてることなく、桑德サンドわざてと出手しゅっしゅ法則ほうそく冷静れいせいに読みよ といていく。

その意識いしきは、水面みなものようにしずかで、るぎがなかった。

彼女かのじょうつ雷光らいこうは、もはや混沌こんとんとした乱流らんりゅうではない。

それは一本いっぽんずつ明確めいかく軌線きせんへと分解ぶんかいされ、彼女かのじょなか整然せいぜんならはじめていた。

ぱっ、ぱっ、ぱっ――!

ひな足下あしもとで、三度さんどにわたって雷鳴らいめいぜた。

その空中くうちゅう三筋みすじ瞬閃しゅんせん残影ざんえいきざみ、常理じょうりいっした軌道きどう戦場せんじょうける。

第一閃だいいっせん

彼女かのじょ二条にじょう幻雷げんらい隙間すきまへ、寸分すんぶんたがわずすべませた。

第二閃だいにせん

虚水きょすいによってかくされていた雷刃らいじんを、彼女かのじょ正確せいかくく。

第三閃だいさんせん

刀背とうはいによる一回転いっかいてん打撃だげきで、火紋かもんをまとった回旋かいせんする雷撃らいげきを、その軌道きどうごとはじらした。

萬象奔雷ばんしょうほんらい」は、彼女かのじょ手中しゅちゅうでまるで潮流ちょうりゅうのようにながれていた。

刀刃とうじん雷柱らいちゅうとき雷光らいこうやいば沿ってみちびかれ、そのままこまかな閃光せんこう破片はへんへとくだっていく。

また、刀背とうはいほのおめたときには、火元素ひげんそ長刀ながとうきざまれた雷紋らいもんげられ、わきへとらされたのち、半空はんくうあか火花ひばなとなってぜた。

桑德サンド攻撃こうげきは、たしかにそらくしていた。

それにもかかわらず、そのすべてはまるで最初さいしょから彼女かのじょ見抜みぬかれていたかのように、ひとつずつ確実かくじつくずされていった。

ひなは、幻雷げんらい幾重いくえにもからみつくそのただなかうようにける。

周囲しゅういはどこをても死角しかくちているはずだった。

それでも彼女かのじょは、一歩いっぽごとに、ただひとつだけのこされた「生路せいろ」を正確せいかくいていた。

そして最後さいご雷撃らいげき眼前がんぜんせまった瞬間しゅんかん彼女かのじょ手首てくびをひるがえした。

刀刃とうじんは、まるで屈折光くっせつこうのようにゆがんだ光紋こうもんきながら一閃いっせんする。

おん――!

雷撃らいげきかれ、火焔かえん反衝はんしょうによって崩壊ほうかいした。

そしてそれらは二筋ふたすじ対称的たいしょうてき弧光ここうとなって、ひな身体からだ両脇りょうわきをかすめるようにはしけていった。


これこそが、藤原雛ふじわら・ひな権能けんのう――「無幻むげん」である。

万象ばんしょうとおし、まぼろしぬぐり、複雑ふくざつからうすべての軌跡きせきを「真実しんじつ」へと還元かんげんするちから

無幻むげん」の視界しかいなかでは――

虚水きょすい透明膜とうめいまくがされ、

幻雷げんらい属性変化ぞくせいへんかもまた、ひとつのこらず明瞭めいりょう分解ぶんかいされる。

あらゆる攻撃こうげきは、まるで「低速分解ていそくぶんかい」でもされているかのように、克明こくめい姿すがたをさらしていた。

――藤原雛ふじわら・ひな権能けんのうまえでは、いかなるかくされた攻撃こうげき意味いみたない。

虚水きょすいも、幻雷げんらいも、複属性ふくぞくせいかさけも――彼女かのじょには、ただの「せん」でしかなかった。

だが、桑德サンド次撃じげきは、一瞬いっしゅん停滞ていたいすらなくおそいかかってきた。

五重扇ごじゅうせん第五層だいごそうきざまれた魔法紋まほうもんが、突如とつじょとしてまばゆともる。

八階魔法はっかいまほう天雷てんらい

その瞬間しゅんかんてんおもしずんだ。

まるですみながまれたかのように、そら一気いっきくらまっていく。

雲層うんそう怒涛どとうのごとくはげしく渦巻うずまき、一条いちじょう二条にじょう、さらに幾筋いくすじもの雷柱らいちゅうが、前触まえぶれもなく垂直すいちょくちてきた。

そのねらいは、藤原雛ふじわらひな行動範囲こうどうはんいすべてである。

轟音ごうおん天穹てんきゅうくだいた。

天際てんさいてまで雷光らいこうはしり、あらゆる景色けしき白光はっこうまれる。

ひな視界しかいもまた、その激烈げきれつ閃光せんこうによってしろはらわれた。

彼女かのじょ手中しゅちゅうの「萬象奔雷ばんしょうほんらい」をかかげ、次々(つぎつぎ)とそそ雷撃らいげき吸収きゅうしゅうしていく。

だが、その防御ぼうぎょ一瞬いっしゅん――

桑德サンド姿すがたが、ふいにえた。

雷光らいこう奔流ほんりゅうなかで、かれかげのようにかすはしる。

その足取あしどりは、しんじがたいほどみじか間隔かんかく空気くうきり、

ひび雷鳴らいめい一音いちおん一音いちおんが、そのままかれ軌道変化きどうへんかひびきとなっていた。

五重扇ごじゅうせんはすでにおさめられている。

そのわりに、かれ両掌りょうてのひらあいだには、らい融合ゆうごうした球体きゅうたい凝縮ぎょうしゅくされていた。

はじめ、そのいろ赤紅せっこうえていた。

だがつぎ瞬間しゅんかんほのお幾重いくえにも内側うちがわへと圧縮あっしゅくされ、色彩しきさい深紫しんしへとわっていく。

それはまるで、極限きょくげんまでまれ、いまにも崩壊ほうかいしそうな火炎かえん星核せいかくのようだった。

その周囲しゅういでは、空気くうきそのものが過剰かじょう圧力あつりょくによってげられ、肉眼にくがんでも判別はんべつできるほどのひかり屈折くっせつしょうじていた。

――炎雷六式えんらいろくしき疾雷しつらい業火ごうか

このわざは、炎雷第一式えんらいだいいっしき基礎きそとして昇華しょうかさせた上位形態じょういけいたいであった。

雷電らいでんはあくまでも外殻がいかくにすぎない。

しん殺意さついは、その内奥ないおうえず圧縮あっしゅくされつづける業火ごうかそのものにあった。



雷鳴らいめい炸裂さくれつしたその瞬間しゅんかん桑德サンド姿すがた一条いちじょう紫電しでんし、轟然ごうぜんひなせまった。

その攻撃速度こうげきそくどは、対応たいおうするはずの魔力波動まりょくはどうをはるかに上回うわまわっていた。

あまりにもはやく、事前じぜん軌道きどうることはほとんど不可能ふかのうちかい。

ひなは「天雷てんらい」へ対処たいしょするため、防御ぼうぎょ意識いしきかざるをなかった。

そのため、わずかではあっても、たしかにすきしょうじていた。

ほんの一瞬いっしゅんほころび――

だが、桑德サンドはそれを寸分すんぶんたがわず見抜みぬいていた。

ごう————————!!!

拳撃けんげきろされた刹那せつな衝撃波しょうげきはくろのように外側そとがわへと爆発的ばくはつてきひろがり、上空じょうくう雲層うんそうまでもくだいた。

雷衣らいいは、こうした純粋じゅんすい物理的破壊力ぶつりてきはかいりょく魔力まりょく融合ゆうごうした拳撃けんげきを、完全かんぜんにはめきれなかった。

鎧甲がいこう衝突しょうとつ同時どうじくだり、その破片はへん雷光らいこうなか四散しさんする。

それはまるで、らされた金属きんぞく流星群りゅうせいぐんのようだった。

一片いっぺんごとに、高熱こうねつかれた焦黒しょうこく弧線こせんが生々(なまなま)しくきざまれている。

ひな身体からだは、その拳圧けんあつによって一気いっきばされた。

空中くうちゅう高速こうそくはじばされるその軌跡きせきは、しろ尾痕びこんとなってながばされる。

胸部きょうぶたたまれたそのすさまじい衝撃しょうげきは、むねふか陥没かんぼつさせるかのようなおもさをともない、彼女かのじょから呼吸こきゅうすらうばいかけた。

ひな数十すうじゅうメートルもさきばされ、幾重いくえもの気流きりゅうやぶりながら、雲層うんそうしたへとたたまれる。

そのいきおいに雲霧うんむおおきくえぐかれ、しろ波濤はとうのような霧潮むちょう四方しほうはげしくひろげられていった。

まるで天空てんくうそのものに、垂直すいちょくられた巨大きょだい断層だんそう穿うがたれたかのようだった。



神酒時樂しんしゅ・じらく全身ぜんしんつつ妖気ようきはげしくふるはじめた。

それはまるで潮汐ちょうせき幾重いくえにもせるかのように空気くうきなかへとひろがり、その気場きじょう一瞬いっしゅんにして劇的げきてき変化へんかせた。

かれ権能けんのう――「分霊ぶんれい」が、体内たいないから全面的ぜんめんてき解放かいほうされる。

すると、かれたましい根源こんげんやっつの環状光弧かんじょうこうこへとかれ、そのひとひとつが独立どくりつした元素波動げんそはどうびていた。

その光弧こうこ次第しだい凝縮ぎょうしゅくし、やがて八体はったい分身ぶんしんへとかたちしていく。

その姿形すがたかたち本体ほんたい寸分すんぶんたがわず、姿すがたも、かまえも、はなたれる気配けはいまでもが瓜二うりふたつだった。

それらは戦場せんじょう周囲しゅういるようにあらわれ、それぞれが独自どくじ位置いちめる。


そして、なにより見るもの震撼しんかんさせたのは――

そのどの分身ぶんしんも、気配けはいにまったくらぎをせなかったことだった。

霊圧れいあつも、気質きしつも、魔力量まりょくりょうも、一切いっさいおとろえていない。

それはほとんど、本尊ほんぞん完全かんぜん同等どうとうんでつかえないほどだった。

その瞬間しゅんかん戦況せんきょうは「四対一よんたいいち」から「四対八よんたいはち」へと一気いっきくつがえされた。

このわざをここまで極限的きょくげんてき行使こうしできるのは、猫又之王ねこまたのおうたる時樂じらくだけである。

なぜなら、分身ぶんしん一体いったいすごとに、かれみずからのたましい一部いちぶはなさねばならず、その代償だいしょうとして一種いっしゅ元素げんそ支配権しはいけんうしなうからだ。

たしかに、それは理論上りろんじょう本体ほんたい戦力せんりょく分散ぶんさんさせる行為こういにほかならない。

だが、それでもなお、それぞれの分身ぶんしん本体ほんたい同等どうとう戦闘能力せんとうのうりょく精密せいみつさを維持いじしていた。

ゆえに実戦じっせんにおいては、この権能けんのうはほとんど圧倒的あっとうてきぶほかない集団戦しゅうだんせん優位ゆういすのである。



天照大神あまてらすおおみかみ月読つくよみ眼差まなざしは、同時どうじするどさをした。

――二柱ふたはしらとも、神酒時樂しんしゅじらくおさむには、全力ぜんりょくくすほかないことを理解りかいしていた。

さきうごいたのは、天照大神あまてらすおおみかみである。

彼女かのじょ指先ゆびさきしずかに印訣いんけつむすび、術式じゅつしき発動はつどうさせた。

八階魔法はっかいまほう――五炎陣ごえんじん

たちまち、五面ごめん朱紅色しゅこうしょく神鼓しんこ空中くうちゅうかびがる。

それぞれのことなる角度かくどでゆるやかに回転かいてんし、その鼓面こめんには無数むすう呪文じゅもんきざまれていた。

のあいだをほのおながわたり、その灼熱しゃくねつによって周囲しゅうい空気くうきさえもゆらりとゆがんでいく。

――どんっ!

天照大神あまてらすおおみかみ第一だいいち神鼓しんこらした瞬間しゅんかんほのお轟然ごうぜん炸裂さくれつした。

そのなかから、赤紅せっこう火焔かえんをまとった無数むすう苦無くないが、爆風ばくふうともなって一斉いっせいされる。

一本いっぽんごとになが火尾かびき、その軌跡きせきはまるで流星りゅうせい天空てんくういてちてくるかのようだった。

だが、それらが命中めいちゅうする寸前すんぜん――

てんより突如とつじょとして、銀白色ぎんぱくしょく雷光らいこうぜた。

八階魔法はっかいまほう――天雷てんらい

時樂じらく分身ぶんしん一体いったいてのひらてんかかげるやいなや、雲層うんそう瞬時しゅんじひらき、幾筋いくすじもの雷柱らいちゅう神罰しんばつのようにちた。

それらは正確せいかく火焔苦無かえんくない直撃ちょくげきし、らい真正面しょうめんから激突げきとつする。

爆音ばくおんがあたり一帯いったいふるわせ、火焔苦無かえんくない攻撃こうげきはことごとくはらわれた。

しかし、天照大神あまてらすおおみかみすこしも意外いがいそうな様子ようすせなかった。

彼女かのじょはすぐさま第二だいに神鼓しんこへとばす。

どん――どんっ――!

今度こんど鼓面こめんからはなたれたのは苦無くないではなかった。

それはかぞえきれぬほどの火羽箭かうせん――幾百いくひゃく幾千いくせんものほのおであった。

その矢身やみはねのようにうすくしなやかで、尾部びぶにはほのお羽翼うよくらめいている。

その羽翼うよく振動しんどうするたび火花ひばならし、一本いっぽんごとの軌道きどう瞬間的しゅんかんてきらがせていた。

まるできたへび虚空こくうってすすむかのように、火羽箭かうせん不規則ふきそく穿うがすすむ。

その速度そくどはきわめてはやく、しかも貫通力かんつうりょくにもすぐれていた。

さらに、命中めいちゅうした瞬間しゅんかんには小規模しょうきぼながら爆燃ばくねんこす性質せいしつまでそなえていた。


だが、時樂じらくべつ分身ぶんしんは、ただしずかに片手かたてげただけだった。

八階魔法はっかいまほう――二重狂風にじゅうきょうふう

その瞬間しゅんかん風圧ふうあつ二層にそう巨大きょだいかべとなって一気いっき展開てんかいした。

第一層だいいっそう風壁ふうへきは、軌道きどう真正面しょうめんからげ、すべてをらしていく。

つづ第二層だいにそう風壁ふうへきは、空中くうちゅううずきながら圧縮あっしゅくされ、高圧こうあつ旋渦せんかへとわった。

それはまるで、万物ばんぶつ空洞くうどうのようだった。

火羽箭かうせん一本いっぽん、また一本いっぽんとそのうずせられ、軌道きどうゆがめられ、ついにはすべてがあらがもなく旋渦せんか中心ちゅうしんまれていった。

そしてつぎ瞬間しゅんかん――

火光かこう風刃ふうじんうず中心ちゅうしんはげしく炸裂さくれつし、無数むすうけた残光ざんこう破片はへんとなってそらった。

だが、それらはなおれる風圧ふうあつまれ、最後さいごには痕跡こんせきひとつのこさずされてしまう。

天照大神あまてらすおおみかみ二度にどにわたって神鼓しんこらしはなった烈焔れつえん攻勢こうせいは、神酒時樂しんしゅじらく分身ぶんしんたちの連携れんけいによって、あまりにもあっさりとふうじられた。

しかし、この二波には攻撃こうげき目的もくてきは、もとよりてききずつけることそのものではなかった。

それは、あくまでつぎなる行動こうどうのための布石ふせきにすぎなかったのである。

火光かこうった、その瞬間しゅんかん

月読つくよみしずかに左手ひだりてげた。

その指先ゆびさきささえられていたのは、一振ひとふりの古雅こがなる銀白色ぎんぱくしょく横笛よこぶえであった。

笛身ふえみあわぎんひかりび、まるで月光げっこうなかからそのまま姿すがたあらわしたかのようにしずかにかがやいている。

それこそが、歴代れきだい月読之神つくよみのかみがれてきた伝承神器でんしょうしんき――無夜月光むやげっこうであった。

おん――

笛音てきおんひびいた瞬間しゅんかん、それまで空間くうかんたしていたあらぶる魔力まりょくは、まるで一斉いっせいしずめられたかのように静穏せいおんさと規律きりつもどした。

そのさまは、月光げっこう湖面こめんをなでるようにそそぎ、波立なみだっていた水面みなもおだかにととのえていくかのようだった。

無夜月光むやげっこう」は、きわめてたか魔力導引性まりょくどういんせいつだけではない。

月読つくよみがそれをかなでるあいだ特定とくてい魔法まほうなく行使こうしする場合ばあいであっても、いっさいの詠唱えいしょう術式展開じゅつしきてんかい必要ひつようとしないのである。



笛音てきおん律動りつどうわせるようにして、月読つくよみ足下あしもとには銀白色ぎんぱくしょく月輪げつりんしずかにひろがった。

八階魔法はっかいまほう――「月光昇華げっこうしょうか」。

その月輪げつりんは、まるで満月まんげつがゆるやかにのぼっていくかのようにひかりかさねながらひろがり、その幾重いくえもの光暈こううん彼女かのじょ全身ぜんしんつつんでいく。

ぎんかがやきはかみ一本いっぽん一本いっぽん沿ってながれ、体外たいがいはなたれる魔力まりょく一気いっきがった。

その高密度こうみつど圧力あつりょくに、周囲しゅうい空間くうかんさえつぶされるようにふるはじめる。

だが、月読つくよみはそこに一瞬いっしゅんたりともとどまらなかった。

笛音てきおん調しらべはただちにてんじ、静謐せいひつ月夜つきよひびきは、いつしかかぜすら存在そんざいしない絶対的ぜったいてき静寂せいじゃくへとわっていく。

本来ほんらいならば白昼はくちゅうであるはずのそらに、しかしそのときくろ月影つきかげ半空はんくうにゆっくりとかたちはじめた。

八階束縛魔法はっかいそくばくまほう――「沈黙ちんもく月神げっしん」。

黒月こくげつ顕現けんげんしたその刹那せつなてんのあいだにあったあらゆるおとが、まるでこそぎられたかのようにった。

漆黒しっこく陰影いんえい八条はちじょう光柱こうちゅうへと姿すがたえ、時樂じらく八体はったい分身ぶんしん本体ほんたいを、寸分すんぶんくるいもなくつらぬくようにふうめる。

おん――!!

おもよどんだ黒霧こくむ戦場せんじょうむようにひろがり、時樂じらく周囲しゅうい空間くうかん強制的きょうせいてき閉鎖へいさされた。

そこでは、おとも、元素げんそも、気流きりゅうも、すべてがふかやみそこしずめられていく。

時樂じらく分身ぶんしんたちのうごきは、えてにぶった。

それまで鮮烈せんれつかがやいていた元素げんそひかり急速きゅうそく沈滞ちんたいし、あかるさをうしなっていく。

水気すいきも、雷光らいこうも、火焔かえんも、その波動はどう半空はんくうめられたかのように、まるでこおりついたように停止ていししていた。

それは、相手あいて特性とくせい見極みきわめたうえでげられた束縛魔法そくばくまほうであった。

この拘束こうそくけた時樂じらくは、分身ぶんしん本体ほんたいとをむす同期周波どうきしゅうはつながりを強制的きょうせいてきたれ、八体はったい分身ぶんしんはすべて「遅延ちえん」と「阻滞そたい」の状態じょうたいへとおちいっていた。



神酒時樂しんしゅ・じらくへの制圧せいあつ成功せいこうしたことで、戦場せんじょう士気しき一気いっき高揚こうようし、隊列たいれつはふたたび安定あんていもどした。

みだれかけていた戦線せんせんも、この瞬間しゅんかんふたたなおされる。

そして天照大神あまてらすおおみかみは、そのわずかなすきのがさなかった。

彼女かのじょ間髪かんぱつれず、第三だいさん神鼓しんこつづけにらす。

どん――どん――どん――!!!

八階魔法はっかいまほう――「灼炎しゃくえん」。

つぎ瞬間しゅんかんせんえる火焔かえん旋渦せんか雲層うんそうより急降下きゅうこうかした。

その一本いっぽん一本いっぽんは、りゅう姿すがたおもわせる火柱ひばしらのようにうねりながら落下らっかし、なが火渦ひうず尾流びりゅういている。

その光景こうけいは、まるでてんけ、そこから火焔かえん豪雨ごううそそいでいるかのようだった。

月読つくよみ束縛そくばく完全かんぜんやぶられるまえに、すこしでも神酒時樂しんしゅじらく分身ぶんしんかずけずる。

それが、この攻撃こうげきねらいであった。

だが、そのとき――

異変いへん唐突とうとつおとずれた。

黒霧こくむおくから、ひくしずんだ鈴音れいんがひとつひびいた。

その音色ねいろやわらかくしずかなものでありながら、同時どうじ精神せいしん深部しんぶつらぬくような浸透力しんとうりょくびていた。

それは、まるでたましい奥底おくそこ直接ちょくせつれてくるような、深層的しんそうてき精神共鳴せいしんきょうめいにもていた。

そしてつぎ瞬間しゅんかん拘束こうそくされていた分身ぶんしんたちの体内たいないからも、次々(つぎつぎ)とおな鈴音れいんはじめる。

そのひびきは共鳴きょうめいするようにかさなりい、やがて戦場全体せんじょうぜんたいへと波紋はもんのようにひろがっていった。

天照大神あまてらすおおみかみ月読つくよみは、その鈴音れいん正体しょうたいをすぐにさとった。

――それは、神酒家しんしゅけに代々(だいだい)がれてきた神器しんき、「夜貓鈴やびょうれい」である。

この神器しんきは、初代しょだいかみよりさずけられたものだった。

もともとは、かつて九位きゅうい大人おとなたちの配下はいかのひとりによってあたえられた神器しんきであり、当初とうしょ初代貓又之王しょだいねこまたのおう所有しょゆうしていた。

しかし、初代貓又之王しょだいねこまたのおう死後しご貓又一族ねこまたいちぞくにはながきにわたって、この神器しんきしんあつかえるものあらわれなかった。

だがいま第十代貓又之王だいじゅうだいねこまたのおうである神酒時樂しんしゅじらくがいる。

かれこそは、千年せんねんえるときて、ふたたびこの神器しんき使つか資格しかくゆうするものだった。



夜貓鈴やびょうれい起動きどうしたその瞬間しゅんかん月読つくよみ展開てんかいしていた「沈黙ちんもく月神げっしん」には、はっきりと崩壊ほうかいきざしがあらわはじめた。

黒霧こくむはげしく震動しんどうし、魔法陣まほうじん表面ひょうめんにはこまかな亀裂きれつが次々(つぎつぎ)とかびがっていく。

まるで、その鈴音れいん律動りつどうそのものが、束縛そくばく術式構造じゅつしきこうぞう内側うちがわからむしばんでいるかのようだった。

すずひびきは、さらにつよく、さらにふか戦場せんじょう浸透しんとうしていく。

そしてついに――

束縛咒式そくばくじゅしき完全かんぜん干渉かんしょうされ、その効力こうりょくうしなった。

黒霧こくむかれるように四方しほうはじび、そらかんでいた月影つきかげもまたしずかに消滅しょうめつする。

こうして「沈黙ちんもく月神げっしん」は、完全かんぜんなる崩落ほうらくむかえた。

そして束縛そくばくかれると同時どうじに、時樂じらく本体ほんたいにも激烈げきれつ変化へんかしょうはじめる。

漆黒しっこく妖気ようきがその四肢百骸ししひゃっかいからあふし、かれ体躯たいく一瞬いっしゅん膨張ぼうちょうした。

手足てあしながばされ、指先ゆびさきつめやいばのような黒金色こくきんしょく鋭利えいり鉤爪かぎづめへとわっていく。

さらに、紫黒色しこくしょく体毛たいもう皮膚ひふしたからすようにひろがり、その双眸そうぼうはゆっくりと金色こんじき縦瞳たてひとみへと変貌へんぼうした。

全身ぜんしんつつ妖気ようきおもしずみ、そこには見るもの本能ほんのうつぶすような、凶暴きょうぼうにして原始的げんしてき威圧いあつちていた。



これこそが、夜貓鈴やびょうれいおもたる能力のうりょく――「獣化じゅうか」である。

獣化じゅうかげた時樂じらくは、もはやひと姿すがたをとどめてはいなかった。

その巨大きょだい妖猫ようびょうへとわりてていたのである。

全身ぜんしんおお体毛たいもうのあいだからは、あわむらさき妖焔ようえんなくまたたき、巨大きょだい鉤爪かぎづめみしめるたび、大地だいちにはふか裂痕れっこんきざまれていく。

その巨体きょたい一歩いっぽすごとに、地面じめん土塵どじん気圧きあつげられ、まるでつちなみがうねるように四方しほうひろがった。

だが、このちからには代償だいしょうがないわけではない。

夜貓鈴やびょうれいによる獣化じゅうかは、術者じゅつしゃ精神せいしんはげしく侵蝕しんしょくする。

もし意志いしにわずかでもらぎがしょうじれば、そのまま暴走ぼうそうへとてんじてしまう危険きけんがあった。

時樂じらく本来ほんらい、「分霊ぶんれい」によって八体はったい分身ぶんしん維持いじしていた。

それはすなわち、かれ精神力せいしんりょくがきわめて強靭きょうじんであり、やっつにかれた意識いしきえだ同時どうじ制御せいぎょできるほどであったことを意味いみしている。

本来ほんらいであれば、それこそがかれほこるべきちからだった。

しかし、酒吞童子しゅてんどうじ妖力汚染ようりょくおせんけたことで、かれ精神せいしんはすでにふかかれていた。

もはや、それほどの高負荷こうふか意識運用いしきうんようえられる状態じょうたいではなかったのである。

ゆえに――

獣化じゅうか発動はつどうしたその瞬間しゅんかん、すべての分身ぶんしん一斉いっせい崩壊ほうかいした。

分身ぶんしんたちはくろかげのようにりにほどけ、その内部ないぶ宿やどっていた魔力まりょく逆流ぎゃくりゅうするようにして本体ほんたいへとかえっていく。

同時どうじに、はなされていたたましい断片だんぺんもまた、強引ごういんにひとつへと収束しゅうそくさせられた。

そして最後さいごに、時樂じらく完全かんぜんなる妖猫ようびょう姿すがたとして、そのあらわれた。

四肢しし大地だいちへつき、背筋せすじめた弓弦きゅうげんのようにおおきくゆみなりにる。

その金色こんじきひとみには、しの凶光きょうこうらめいていた。

つぎ瞬間しゅんかん――

その妖猫ようびょうてんあおぎ、怒号どごうにも咆哮ほうこうはなった。

その咆哮ほうこう空気くうきそのものをくだき、える衝撃波しょうげきは波紋はもんのように全方位ぜんほういひろがっていく。

戦場全体せんじょうぜんたいはその一声ひとこえによってはげしく震撼しんかんし、大地だいちにはあらたな亀裂きれつ縦横じゅうおうはしった。

めていた濃霧のうむ一息ひといきばされ、のこっていた火焔かえんもまたこまかなひかり破片はへんとなって四散しさんしていった。



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