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そのゲームは、切り離すことのできない序曲に過ぎない  作者: 珂珂


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第二卷 第四章 成長の証(6/7)

絶体絶命ぜったいぜつめい状況じょうきょうまれてなお、九羅河旭くら・こうきょく足取あしどりはまらなかった。

かれ何度なんど九羅秦くら・しんたおされ、そのたびに地面じめんたたきつけられては、おも衝撃音しょうげきおんほねこする生々(なまなま)しい痕跡こんせきのこした。

それでも、かれはついにたおれなかった。

両脚りょうあしふるえていても、なおるぎなくみずからの身体からだささつづけていた。

その眼差まなざしは挫折ざせつによってくもることなく、むしろいっそうするどさをしていた。められればめられるほど、かえって前方ぜんぽうつづみちを、より鮮明せんめい見据みすえているかのようだった。


時間じかんつにつれて、かれ次第しだい一筋ひとすじ違和感いわかんおぼはじめた。

しん攻撃こうげき依然いぜんとして迅猛じんもうであり、一撃いちげきごとの斬撃ざんげきもなお致命的ちめいてきで、河旭こうきょくのあらゆる防御ぼうぎょくだくに威力いりょくびていた。

だが、しん攻撃こうげきかれいのちうばおうとするその寸前すんぜんになるたび、しんうごきにはわずかな停滞ていたいしょうじるか、あるいは角度かくどがほんのすこしだけれ、必殺ひっさつ一撃いちげきはかすりきずへとわっていた。

それは、失策しっさくではなかった。

そしてこの瞬間しゅんかん九羅河旭くらこうきょくはようやく九羅秦くらしん眼差まなざしにづいた――その双眸そうぼう宿やどっていたのは、殺意さついだけではなかった。そこには、よりふかしずめられた苦悩くのう抑制よくせいがあった。

しんもまた、たたかっていた。

それはかれとではなく、そのからみつく、到底とうていとどきえぬちからとだった。

しんはその致命ちめい殺招さっしょうをねじげるために全力ぜんりょくしぼり、弟子でしびるためのわずかな隙間すきまのこそうと、えずあらがつづけていた。


河旭こうきょくむね激痛げきつうおぼえ、血液けつえき体内たいないがっているかのようだった。

かれ脳裏のうりには、はるかむかし鍛錬たんれん記憶きおくかびがる。

あのときかれ砂地すなちたおれ込み、あらいきかえしながら、両手りょうてけんにぎっていても、どうしてもちからめることができなかった。

師匠ししょう、どれだけきたえたって……おれには、あなたにてるはずがないよ!」

かれ無力感むりょくかんくやしさをにじませながら、そうさけんだ。

しんかれ見下みおろし、口元くちもとかくすことのない傲然ごうぜんたるみをかべた。

「それは当然とうぜんだ。」

あまりにも自信満々(じしんまんまん)なその態度たいどに、河旭こうきょく一瞬いっしゅん言葉ことばうしなった。

だがつぎ瞬間しゅんかん九羅秦くらしんみをおさめ、その眼差まなざしをやわらかくした。かれをかがめ、ばして河旭こうきょくかたいた。

「だが――いつか、おまえおれえる。」

その口調くちょうには、微塵みじんたりともたわむれはなかった。

河旭こうきょく自分じぶんよりつよ相手あいてをどうやってたおすのか、りたいか?」

九羅秦くらしんゆびばし、かれむねをとんとしめした。

たよるのはここだ。おまえの、このれないこころだ。」

師匠ししょう……それじゃ、ただの意地いじってやつでしょう。」と、河旭こうきょくひくこたえた。

「はっはっは!」

しん豪快ごうかいわらいながらがり、その背中せなか山脈さんみゃくのようにまっすぐとそびえていた。

「いつか、おまえにもかる。」


河旭こうきょく体内たいないでは、なにかがわりはじめているかのようだった。

かれ筋肉きんにく収縮しゅうしゅく魔力まりょく循環じゅんかん元素げんそながれをかんっていたが……そのすべてに変化へんかしょうはじめていた。

つぎけんるったとき斬撃ざんげき速度そくどあきらかに半分はんぶんほどしていた。さらにもう一度いちど剣身けんしんくうかすめたさいには、鮮明せんめい風紋ふうもん残影ざんえいがはっきりとのこされた。

そして、ある瞬間しゅんかん時間じかんかれのためだけにまったかのようにかんじられた。

けんうでとをむすぶその接点せってんから、ひとすじちからぜるようにほとばしった――

それはたんなる魔力まりょく増幅ぞうふくではなかった。よりふか次元じげんにある「共鳴きょうめい」とでもぶべきものであり、まるでかれ身体からだけんが、ついにしんむすびついたかのようだった。

そのときみみおくにふいにひとつのこえひびいた。

そのこえは、このにいるだれのものでもなかった。だがかれには、それがはっきりとこえていた。

「――それなら、ここはわたしがひとはだいであげよう!」


刹那せつなのうちに、河旭こうきょく気配けはいはげしくたかまっていった。

霞風かふうはし光紋こうもんは、まるで星河せいが逆流ぎゃくりゅうするかのように、剣先けんさきからかれうでむね、そして全身ぜんしんへとながひろがっていった。

魔力まりょく一瞬いっしゅんにしてつらぬけ、かれ身体からだ風圧ふうあつげられたかのようにかるくなった。

そしてその瞬間しゅんかんかれうちより第二だいに権能けんのう――「不撓ふとう」がほとばしった。

それは、逆境ぎゃっきょうなかまれるちからだった。

おさまれればおさまれるほど、その圧力あつりょくかえちからつよくなる。

絶境ぜっきょうへとちかづけばちかづくほど、なおうえへとけていく。

この権能けんのうによって、かれちから速度そくどは「階段かいだんてき上昇じょうしょうしていく」ようにわりはじめた。

一撃いちげきごとの斬撃ざんげきは、つぎ一撃いちげきのために、さらにたか威力いりょく速度そくどげていく――それが途切とぎれなければ、やがておそるべき重層じゅうそうてき強化きょうかへとわるのだった。


河旭こうきょくふかいきい込み、あし大地だいちへとしずかに、しかしたしかにろした。

つぎ瞬間しゅんかん、その姿すがたひらめくようにえる。

第一斬だいいちざん――

剣光けんこういかずちのごとく長空ちょうくうき、風圧ふうあつ無数むすうこまかなやいばへとわった。

そして轟音ごうおんとともに、九羅秦くらしん周囲しゅういつつんでいた雷鳴らいめい防壁ぼうへきこうからたたる。

空気くうきかれ、みみをつんざく衝撃波しょうげきは炸裂さくれつした。

第二斬だいにざん――

かぜ剣気けんき猛然もうぜんはなたれ、まるで隕石いんせき落下らっかするかのようないきおいで、九羅秦くらしん鋼体化こうたいかした外殻がいかくへと激突げきとつした。

ほのおかぜみちびかれるように九羅秦くらしん沿ってはしけ、その表面ひょうめんげついた刻痕こっこんきざのこす。

第三斬だいさんざん――

電光石火でんこうせっかあいだに、剣身けんしんまえ二撃にげき上回うわまわいきおいで爆発ばくはつてきちからはなった。

九羅秦くらしん両腕りょううで刀刃とうじん交差こうささせ、これをめるほかなかった。

鋼体化こうたいかはなお堅牢けんろうで、容易よういにはくだけない。

それでも、河旭こうきょく剣意けんいはすでに狂風きょうふうせるようなあつとなって九羅秦くらしんへとせまっていた。

そのちから一瞬いっしゅんごとに、たしかに「成長せいちょう」していることを、だれもがはっきりとかんることができた。

第四斬だいよんざん――

ひとすじ風鳴かざなりが大地だいちからのぼる。

その起点きてんは、河旭こうきょくみだった。

この一撃いちげきはついにしん防御ぼうぎょ完全かんぜんやぶり、かれ身体からだをそのまま数歩すうほ後方こうほうへとはじばした。

しん足元あしもと地面じめんふかけずり、そこには生々(なまなま)しいきずのようなあとながきざまれていた。


しんは、このたたかいではじめて体勢たいせいくずした。

かぜ一瞬いっしゅんだけまる。だがつぎ瞬間しゅんかんには、さらにはげしく、さらに荒々(あらあら)しいいきおいとなって炸裂さくれつした。

河旭こうきょく霞風かふうを高々(たかだか)とかかげ、その全身ぜんしん剣勢けんせい完全かんぜん一体いったいさせる。

そして最後さいご第五斬だいござんは、風元素かぜげんそちからをその宿やどした――かぜ戦技せんぎ天縱風刃てんしょうふうじん

それは、疾風旗隊長しっぷうきたいちょうであるものだけが修得しゅうとくすることをゆるされるわざだった。

その一瞬いっしゅんかれ姿すがた完全かんぜんかぜへとまれた。

斬撃ざんげき軌跡きせきてんへとつらぬ長虹ちょうこうし、河旭こうきょく足元あしもと地面じめんから、ぐなひらく。

その亀裂きれつ大地だいちはしり、一直線いっちょくせん九羅秦くらしん胸前きょうぜんへとびていった。



くらしん両腕りょううで胸前きょうぜん交差こうささせ、防御ぼうぎょかまえをった。

――だが、つぎ瞬間しゅんかんくだおとひびいた。

鋼体化こうたいかしたよろい胸元むなもとから粉々(こなごな)にくだけ、もろけた金属きんぞく外殻がいかくがれちるように四散しさんした。

衝撃しょうげき余波よは轟然ごうぜん炸裂さくれつし、煙塵えんじん数丈すうじょうたかさまでがる。

そして九羅秦くらしん体内たいないからみつき、けっしてはらとすことのできなかったあの妖気ようきも、この瞬間しゅんかん完全かんぜん霧散むさんした。

一方いっぽう河旭こうきょくは、その最後さいご一撃いちげきはなえた直後ちょくご、ついにひざからちからけた。

両膝りょうひざくずち、そのままかれささえきれず、地面じめんへとおもたおした。

それでも、その口元くちもとにはかすかなみがかんでいた。

――なぜならかれは、自分じぶんはじめて、あのるぎない山峰さんぽうしんとどかせたのだと、はっきりさとっていたからだった。


どろ城砦じょうさい内側うちがわただよ空気くうきは、おも湿しめってよどんでいた。あつ泥壁どろかべは、あらゆる呼吸こきゅう余地よちさえふうめてしまったかのようだった。

真晝まひるまるめ、壁面へきめんからふたたした泥槍どろやりかろうじてかわした。どろ彼女かのじょ耳元みみもとうなりながらかすめ、くだけた泥片でいへんかたほおへとり、べっとりとりついた。

直撃ちょくげきまぬがれたものの、けるたびに真晝まひる体力たいりょくえてけずられていった。

四方八方しほうはっぽうからがる刺突しとつどろなみは、まるで潮流ちょうりゅうのようになくせてくる。その出現位置しゅつげんいち間合まあいもあまりに不気味ぶきみで、まるで彼女かのじょ反応経路はんのうけいろをあらかじめ計算けいさんくしているかのようだった。

だが、気配けはいませていくうちに、真晝まひるはそこにかすかな不協和ふきょうわおぼえた。

これらの攻撃こうげき一見いっけんすると致命的ちめいてきえながら、どれもほんのわずかに急所きゅうしょはずしていた。

本来ほんらい札托斯ザトス本当ほんとう彼女かのじょころすつもりだったのなら、城砦じょうさい内部空間ないぶくうかんそのものを全面的ぜんめんてき収縮しゅうしゅくさせるだけでよかった。そうなれば、真晝まひるつぶされ、粉砕ふんさいされていたはずだった。

だが、札托斯ザトスはそうしなかった。


真晝まひるこころおもしずみ、脳裏のうりでは可能性かのうせいの数々(かずかず)が高速こうそくてられていった。

札托斯ザトスは、大地だいちそのものを一面いちめん殺陣さつじんへとえるちからっている。このどろ城砦じょうさいもまた、すべてかれ支配下しはいかにある以上いじょう本来ほんらいならみちなど一切いっさいのこ必要ひつようはない。

それなら――これらの攻撃こうげきは、いったいなんのためのものなのか。

そのとき城壁じょうへきがふたたび不気味ぶきみおとててけた。天井てんじょうからは泥流でいりゅう形作かたちづくられた触手しょくしゅがり、彼女かのじょかためがけてはげしくはらわれる。

真晝まひるはとっさにひるがえしてころがり、その一撃いちげきけた。直後ちょくごかべにもたれかかるようにしてあらいきをつく。ひたいにじんだ冷汗れいかんあごつたい、ぽたりと地面じめんちた。

彼女かのじょ身体からだは、もはや大地だいちつながってはいない。土元素魔法つちげんそまほうかんわる感知かんち誘導ゆうどうも、すべて完全かんぜんたれていた。

だが、だからこそ彼女かのじょ五感ごかん極限きょくげんまでまされていた。わずかな気配けはい、ほんの一瞬いっしゅんらぎ、そのすべてをとらえながら、一度いちどごとの回避かいひ直感ちょっかん実戦じっせんつちかった経験けいけんだけでつないでいた。


そのおなころどろ城砦じょうさい奥深おくふかくで、札托斯ザトス身体からだはなおも濃密のうみつ妖気ようきなくはなつづけていた。

かれ双眸そうぼう異様いよう紫紅色しこうしょくまり、ひとみはほとんど焦点しょうてんうしなっている。のこなしにも、どこか不自然ふしぜんかたさがにじんでいた。

その侵蝕しんしょくは、酒吞童子しゅてんどうじ妖力ようりょくによるものだった。それはすこしずつ、だが確実かくじつに、札托斯ザトス人格じんかく意志いしらいくそうとしていた。

肉体にくたい外側そとがわにおいてのかれは、まさしく殺戮さつりく城砦じょうさいそのものだった。だがそのこころ最奥さいおうでは、かれはまるで囚人しゅうじんのように、えぬ牢獄ろうごくへとつなめられていた。

かれ自分じぶん身体からだ何者なにものたたかっているのかを、いたいほどはっきりとかんっていた。だが、それをめることも、こえはっすることも、くこともできなかった。

こころそこで、深淵しんえんふちるされたような恐怖きょうふ無力感むりょくかんが、ない哀号あいごうとなって、たましいふかみで何度なんど反響はんきょうしていた。

だが、そのときだった。ひとつのささやきが、不意ふいかれ耳元みみもとへとしのんだ。

「……それなら、あなたたちのちからを、わたしみちびいてあげるわ!」


そのこえは、まったく前触まえぶれもなくあらわれた。幾重いくえにもかさなる妖気ようきつらぬき、まるで大地だいち奥底おくそこからとどく、やさしいびかけのようだった。

つぎ瞬間しゅんかん札托斯ザトス瞳孔どうこうはげしく収縮しゅうしゅくした。まるでなにかのちからによって、深淵しんえんそこから一気いっきもどされたかのようだった。

かれまよわなかった。両掌りょうてのひらいきおいよく地面じめんたたきつけると、どろ城砦じょうさい一面いちめん轟音ごうおんとともにくだけた。泥土でいどたきのようにはげしくり、そとへとつうじるがそこに穿うがたれる。

外界がいかいひかりがそのからんだ。

真晝まひる一切いっさいためらうことなくひるがえし、そのままそとした。着地ちゃくちしたその瞬間しゅんかん彼女かのじょ足元あしもとからつたわる大地だいち脈動みゃくどうふたたびはっきりとかんった。

大地だいち気配けはいが、ふたた彼女かのじょうちへともどってくる。

それだけではなかった。彼女かのじょは、見知みしらぬようでいてどこかなつかしい共鳴きょうめいが、泥土でいどふかみからがってくるのをかんじた。

それは札托斯ザトス彼女かのじょとのあいだまれた、これまで一度いちどたりとも存在そんざいしたことのない、あらたなつながりだった。


札托斯ザトス身体からだはなおもはげしくふるえていた。その体内たいないでは、まったく相容あいいれないふたつのちから激突げきとつしていた。

ひとつは、酒吞童子しゅてんどうじやみ妖気ようきだった。それは濃密のうみつ泥沼どろぬまのようにかれ内側うちがわ渦巻うずまき、その意識いしきふかみへときずりもうとしていた。

もうひとつは、真晝まひるうちからびてきた、あたたかな脈動みゃくどうだった。それはまるで、かわけた大地だいち泉水せんすいしずかにんでいくかのように、くずれかけていたかれ意識いしき内側うちがわからささえていた。

まさにそのちからがもたらした共鳴きょうめいによって、札托斯ザトス権能けんのう――大地之魂だいちのたましいは、真晝まひる同調どうちょうはじめていた。

札托斯ザトスかおげた。その表情ひょうじょう激痛げきつうゆがみ、苦悶くもんちている。かれのどおくからちからしぼり、かすれた咆哮ほうこうのようなこえはなった。

真晝まひる! はやく、あのわざ使つかえ!」

真晝まひるしずかにじ、意識いしきふかしずめた。すると、これまで一度いちど本格的ほんかくてきにはこされたことのなかった血脈けつみゃくが、体内たいない奥底おくそこからゆっくりと目覚めざはじめる。

それは、彼女かのじょはは――地裂龍ちれつりゅうよりがれただった。

この大地だいちうえで、そして札托斯ザトスつながりをかちっているいまこの瞬間しゅんかん、その血脈けつみゃく完全かんぜんまされた。

真晝まひる両手りょうて地面じめんへとてた。足元あしもとには魔法陣まほうじんかびがり、土元素つちげんそ魔力まりょく皮膚ひふうえうようにひろがっていく。そのかがやきは、まるで竜鱗りゅうりんのように堅固けんごひかりはなっていた。

彼女かのじょ発動はつどうしたのは、龍門家りゅうもんけ秘術ひじゅつ――九階魔法きゅうかいまほう原土之心げんどのこころ」だった。

魔法まほう発動はつどうした瞬間しゅんかん大地だいちちから四方八方しほうはっぽうから彼女かのじょのもとへとあつまり、そのまま札托斯ザトスへとつながる精神せいしん通路つうろとおってかれ体内たいないながんでいった。

そのちから妖気ようき流動構造りゅうどうこうぞうみだし、もはや酒吞童子しゅてんどうじ妖気ようきが、札托斯ザトス意識いしき無理むりやりしばりつけることをゆるさなかった。


同時どうじに、原土之心げんどのこころ第二だいに能力のうりょく発動はつどうした――それは、札托斯ザトス外部がいぶ妖気ようきとをはなちからだった。

二人ふたり意識いしきは、ひとつのかさなり精神空間せいしんくうかんなかまじわった。そこはてのないしろ大地だいちだった――そらもなく、かげもなく、ただやわらかな土色つちいろひかりだけが、すべてをしずかにつつんでいた。

札托斯ザトスはその中央ちゅうおうひざをついてすわり込み、かたはげしく上下じょうげさせていた。まるで深海しんかいからようやくがったばかりの溺者できしゃが、なおも必死ひっしいきもとめているかのようだった。

かれひとみには、まだあか痕跡こんせきのこっていた。だが、やみはすでに瞳孔どうこうふちからすこしずつ退しりぞはじめていた。

真晝まひるなにわなかった。

彼女かのじょはただかれのもとへあるり、しずかにひざをつくと、そのままうでばしてかれをそっとせた。

その瞬間しゅんかん彼女かのじょみずからのうちめぐ竜血りゅうけつ大地だいち魔力まりょくが、ひとつとなってかれへとながんでいくのをかんじていた。そして、それらはかれおかんでいたくろを、すこしずつたしかにはらっていった。

苦痛くつう反動はんどう精神せいしん共鳴きょうめいは、同時どうじ彼女かのじょ内側うちがわこうとしていた。まるでたましいそのものを寸断すんだんしようとするかのようなはげしいきだった。

それでも、真晝まひる眼差まなざしは終始しゅうしらがなかった。

彼女かのじょはよくかっていた。このちからは、自分じぶんなによりも大切たいせつひとまもるためにあたえられたものなのだと。







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