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そのゲームは、切り離すことのできない序曲に過ぎない  作者: 珂珂


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第二卷 第四章 成長の証(4/7)

草原そうげんうえでは、風圧ふうあつ乱流らんりゅうはげしく渦巻うずまき、ふたつのかげ熾烈しれつにぶつかりっていた。

九羅秦くら・しんはその中心ちゅうしんち、ひくこえひびかせる。するとてのひらうえに、銀灰色ぎんかいしょく魔法陣まほうじんかびがった。――それは、かれ八階戦技はっかいせんぎ鋼体化こうたいかであった。

金属きんぞくのような光膜こうまく四肢しし沿って素早すばやひろがり、その全身ぜんしんはだは、まるでよろいのような硬質こうしつ光沢こうたくへとわっていく。

両腕りょううでには、三日月形みかづきがたやいば二筋ふたすじ、はっきりとせりしていた。その刃先はさき黒曜石こくようせきのようなつめたいかがやきをはなち、やいばあいだではいかずちほのお交錯こうさくしながらひらめいている。

その圧倒的あっとうてき威圧感いあつかんに、疾風旗しっぷうき隊員たいいんたちはおもわずいきんだ。

それはたんなる防御戦技ぼうぎょせんぎではない。――こうしゅ一体いったいとした戦闘姿勢せんとうしせいそのものだった。

九羅河旭くら・こうきょくはよく理解りかいしていた。これがしん本気ほんき姿すがたであり、わずかでも油断ゆだんすれば、たちまち致命的ちめいてき打撃だげきけることになると。

だが、そのすさまじい圧力あつりょくまえにしても、かれ一歩いっぽたりとも退かなかった。

河旭こうきょくはすでに、自身じしん二重にじゅう強化魔法きょうかまほうほどこしていた。

そのため、速度そくど攻撃力こうげきりょく大幅おおはばたかめられている。

風元素ふうげんそかれ周囲しゅういめぐり、まるでかるやかなはね幾重いくえにもうかのようにそのつつんでいた。

そしてかれには、九羅秦くらしんからがれた超量級ちょうりょうきゅう武器ぶき――霞風かふうつよにぎられていた。

霞風かふうやいばほそながく、刀身とうしんはほとんどとおっている。

だが、風元素ふうげんそそそまれた瞬間しゅんかん、その刃上じんじょうには幾重いくえもの波打なみう光紋こうもんかびがり、まるで雲霞うんかがねじれながららめくように不安定ふあんていかがやきをはなった。

霞風かふうは、ほかの元素げんそ自在じざい融和ゆうわさせることができる。

それはまさしく「複合型導引剣ふくごうがたどういんけん」とぶにふさわしい武器ぶきであり、同時どうじ鎌鼬一族かまいたちいちぞくに代々(だいだい)つたわってきた至宝しほうでもあった。

河旭こうきょく双眼そうがんするどほそめ、その全身ぜんしんからはなたれる気勢きせい一気いっきたかまっていく。

右手みぎてにはほのお息吹いぶき凝縮ぎょうしゅくし、風元素ふうげんそつかとおって霞風かふうへとながんだ。

ふたつの元素げんそ刀身とうしんうえはげしくぶつかりい、すさまじい共鳴きょうめいす。

――双相斬そうそうざん火襲形態かしゅうけいたい

その瞬間しゅんかん河旭こうきょく疾風しっぷうのごとくひらめかせ、一直線いっちょくせんまえんだ。

霞風かふうさきからは鋭利えいり閃光せんこうがほとばしる。

はなたれた刹那せつな、その刃形じんけいさか業火ごうかへと変貌へんぼうし、風元素ふうげんそ推進力すいしんりょくによってななめにおおきくろされた。

その一閃いっせんは、防御ぼうぎょくだくだけではない。

強烈きょうれつ制圧力せいあつりょくまでを宿やどしており、相手あいて反撃動作はんげきどうさすらふうめるに威力いりょくそなえていた。



火光かこう標的ひょうてきれた瞬間しゅんかん爆発ばくはつてきはじけた。

ごう――!!

烈焔れつえん炸裂さくれつする衝撃波しょうげきはは、一瞬いっしゅんにして二人ふたり姿すがたみ、濃煙のうえんはげしくがった。

灼熱しゃくねつ震動しんどう草原そうげんつたって四方しほうへとひろがっていく。

とおくからたたかいを見守みまもっていたものたちには、もはや戦場せんじょう様子ようす見通みとおすことはできなかった。

ただ、濃密のうみつけむり戦場せんじょううえひろがり、ながれていくのがえるだけだった。

河旭こうきょくらして、そのさき見据みすえる。

――つぎ瞬間しゅんかんかれ瞳孔どうこうおおきくちぢんだ。

煙霧えんむなかにあっても、しんはなお、そのったままだった。

しかも、半歩はんぽたりともあと退しりぞいてはいない。

その両足りょうあし磐石ばんじゃくのように地面じめんふかめ、うでそなわった双刃そうじん胸前きょうぜん交差こうさしていた。

そのかまえは、ほとんどすきのない角度かくど霞風かふう斬撃ざんげき完全かんぜんふうじていた。

余波よはとしておそいかかったもの――ほのお衝撃しょうげき乱流らんりゅう

そのすべてを、鉄灰色てっかいしょく両腕りょううでが、正面しょうめんから力任ちからまかせにめきっていた。

らぎひとつない。

ひるみもない。

まるでさきほどの一撃いちげきが、ほおでるかぜほどのものにすぎなかったかのようであった。

そして、河旭こうきょくをさらに愕然がくぜんとさせたのは――

しんやいばふちから、あお水滴すいてきがゆっくりとしたたちていたことだった。

それは、しんうでうちのこっていた水元素みずげんそが、あの攻撃こうげきめたあとのこした、かすかな痕跡こんせきだった。



「……まさか……」

河旭こうきょくのどかわきをおぼえ、おもわずつばんだ。

この瞬間しゅんかんかれはようやく「元素融合者げんそゆうごうしゃ」という言葉ことば意味いみを、しん意味いみ理解りかいした。

鎌鼬一族かまいたちいちぞく風元素ふうげんそ主軸しゅじくとしている。

だが、しんつよものは、かぜをただのちからとしてではなく媒介ばいかいとしてあつかい、それをつうじてほか元素げんそ深層しんそう共鳴きょうめいさせることができる。

転化てんか牽引けんいん融合ゆうごう

そしてかれ――九羅秦くらしんこそ、歴代れきだい鎌鼬之王かまいたちのおうなか唯一ゆいいつの「八元素掌控者はちげんそしょうこうしゃ」であった。

かぜみずかみなりつちひかりやみ

八種はっしゅ元素げんそちからを、かれはそのうち自在じざいめぐらせることができた。

まるでまれながらにして、自然しぜんそのものとおな脈動みゃくどう呼吸こきゅうしているかのように。

そのはらった姿すがたには、誇示こじするような派手はで気勢きせいはひとつもない。

だがそのしずけさのおくには、ひとこころつぶすほどの威圧感いあつかんたしかに存在そんざいしていた。

河旭こうきょくがその衝撃しょうげきからようやく意識いしきもどした、その直後ちょくごだった。

つぎ瞬間しゅんかんしんうでやいばうえを、まばゆ雷光らいこうするどはしった。

しんには余計よけい動作どうさなにひとつなかった。

ただわずかに身体からだよこかたむけ、うでちいさくふるわせただけだった。

それだけで、いかずちたけへびのようにはじび、一直線いっちょくせん奔流ほんりゅうとなってされた。

どん――!!

雷撃らいげき正面しょうめんから河旭こうきょくむね直撃ちょくげきした。

その身体からだは、まるで巨大きょだいつちたたばされたかのようにおおきくはじばされる。

ちゅうされたかれ姿すがたは、乱流らんりゅう翻弄ほんろうされながらはげしくれ、まるで制御せいぎょうしなった流星りゅうせいのように地上ちじょうへとたたとされた。

地面じめんにはながえぐるような擦過痕さっかこんきざまれ、最後さいごにはおもはげしくちて、あたり一面いちめん土煙つちけむりげた。



だが、かれたおれなかった。

河旭こうきょくいしばり、片膝かたひざにつきながら、「霞風かふう」をつえのようにしておのれささえ、ふたたびがった。

しかし、その双眸そうぼう衝撃しょうげきのあまり、かすかにふるえていた。

――自分じぶん師父しふとのあいだにあるが、すでにおおきくちぢまっているのだと、そうおもっていた……。

だが、この瞬間しゅんかんになってかれはようやくさとる。

それはただ、師父しふがこれまでのすべての鍛錬たんれんにおいて、意図的いとてきに「手加減てかげん」していたがゆえにまれた錯覚さっかくにすぎなかったのだと。

一度いちどごとの指導しどう

一戦いっせんごとの試練しれん

――しんは、ただの一度いちどたりともしんちから使つかってはいなかった。

そしていま河旭こうきょくはようやく、しんの「実力じつりょく」という氷山ひょうざんの、ほんの一角いっかくれただけにすぎない。

それだけでなお、かれはすでにつぶされかけるほどに圧倒あっとうされていた。

河旭こうきょくむねはげしく上下じょうげし、よろい表面ひょうめんには、なおもいかずち息吹いぶきかれた焦痕しょうこんが生々(なまなま)しくのこっていた。

だが、全身ぜんしんさいないた以上いじょうに、かれえがたくかんじていたものがある。

それは、いまこの瞬間しゅんかんにあらためてきつけられた、いっそうひろがった「差距さきょ」だった。

――かれはまだ、山麓さんろく挑戦者ちょうせんしゃでしかなかった。


龍門真晝りゅうもん・まひるはそのしずかにち、やまのようにるがぬきをまとっていた。

彼女かのじょ両手りょうてをゆるやかにげるにつれ、周囲しゅうい大地だいちひくふるはじめる。

土塵どじんちゅうがりながらうずえがいてあつまり、重厚じゅうこう土元素つちげんそは、まるで彼女かのじょせられたかのようにせてきた。

それは彼女かのじょ周囲しゅうい幾重いくえもの堅牢けんろう岩壁がんぺきとなってかこんでいく。

札托斯ザトスは、ふたたび攻勢こうせいへとてんじた。

泥水でいすいかれ足元あしもとからいきおいよくがり、またた長槍ちょうそうかたちへと凝結ぎょうけつする。

それは「泥之槍でいのそう」となって一直線いっちょくせんはなたれ、穂先ほさきにはつめたいひかり淤気おきじりった暗褐色あんかっしょく宿やどっていた。

うなりをげながら、それは真晝まひるかってするどすすむ。

ぱあん――!

だが、つち壁塁へきるいは、まるでその一撃いちげきをあらかじめ見抜みぬいていたかのように、瞬時しゅんじがった。

分厚ぶあつ岩層がんそう地中ちちゅうからがって進路しんろふさぎ、泥之槍でいのそう衝突しょうとつしたその瞬間しゅんかんくだる。

やり泥砂でいさとなってくずち、ふたたび大地だいちへとかえっていった。

札托斯ザトスほそめ、その眼差まなざしにわずかな緊張きんちょう宿やどした。

つぎ瞬間しゅんかん、そのはぐずりとくずれ、一塊ひとかたまりの泥水でいすいへとわる。

そのまま地面じめんへとみ、地中ちちゅうからの奇襲きしゅうねらった。

しかし、真晝まひる微動びどうだにしなかった。

大地だいちは、なおも彼女かのじょびかけにこたつづけていた。

彼女かのじょ発動はつどうしている魔法まほう――「大地之歌だいちのうた」は、地表ちひょう構造こうぞうと、そこにしょうじるあらゆる地質変動ちしつへんどう正確せいかく感知かんちすることができる。

真晝まひるしずかにじた。

だがその意識いしきは、すでに札托斯ザトス泥蛇どろへびのように地中ちちゅうすべすす位置いちを、はっきりと「って」いた。



いまの地勢ちせいは、真晝まひるにとってきわめて有利ゆうりだった。

それをさっした札托斯ザトスは、躊躇ためらうことなくてのひら地面じめんたたきつけた。

八階場地魔法はっかいじょうちまほう――泥城堡でいじょうほう

その瞬間しゅんかん大地だいちはげしく震動しんどうし、地底ちていからおもとどろ咆哮ほうこうのようなひびきががった。

そして周囲しゅうい地形ちけいそのものが、突如とつじょとして一変いっぺんする。

巨大きょだい城壁じょうへきくようにして次々(つぎつぎ)とせりがり、その姿すがたはまるで岩蛇がんじゃをよじりながらうねりつかのようだった。

それらは猛々(たけだけ)しいうなりをげるかのようないきおいでがり、やがて棕黒色そうこくしょく巨大要塞きょだいようさい形作かたちづくっていく。

その規模きぼはあまりにも巨大きょだいで、遠方えんぽう地平線ちへいせんさえゆがんでえるほどだった。

真晝まひるは、あまりにも急速きゅうそく生成せいせいされていく城郭構造じょうかくこうぞうまえに、おもわずいきんだ。

たかくそびえる楼閣ろうかく複雑ふくざつがる通路つうろ

魔力まりょくによって強化きょうかされた泥土でいどは、湿しめのこしながらも硬質こうしつ光沢こうたくび、まるでもののようにうごめきながらかたちしていた。

真晝まひるこうとしたが、そのうごきがうことはなかった。

褐色かっしょく土壁どへき一気いっきじ、彼女かのじょ身体からだむようにつつんでいった。

これは、魔法まほうによって建築物けんちくぶつしたものではない。

魔法まほうによって、地形ちけいそのものをえているのだ。

泥城堡でいじょうほう

その本質ほんしつは、一座いちざの「魔力領域まりょくりょういき」にある。

しろかべ一寸いっすん一寸いっすんめぐらされたあらゆる通路つうろ、さらには空中くうちゅうただよちりのひとひらにいたるまで、そのすべてが術者じゅつしゃである札托斯ザトス意識いしきつながっていた。

この魔法まほう強度きょうどめるものは、ふたつある。

ひとつはそそまれる魔力量まりょくりょう

そしてもうひとつは、構成こうせいする素材そざいそのものの強度きょうどである。

そしていま、札托斯ザトスもちいているのは、妖幻島ようげんとうでもっとも濃密のうみつ妖気ようきはらんだ黒泥こくでいだった。

そこへさらに、泥妖之王でいようのおうとしてのかれつ、ほとんどそこえない膨大ぼうだい魔力まりょくそそまれている。

そうしてきずげられたこの泥城堡でいじょうほうは、一帯いったい山域さんいきまるごとおおくすことすらでき、さらには巨大きょだい要塞ようさいひと築造ちくぞうするにも規模きぼそなえていた。



だが、札托斯ザトスはそこまでの規模きぼにはひろげなかった。

かれきずげたのは、真晝まひるのがれることのできない巨大きょだいしろ一座いちざのみ。

そのわりに、内部ないぶそそ魔力まりょく密度みつどをさらにたかめていた。

そのなかまれた瞬間しゅんかん真晝まひるはただちに地形ちけいによる優位ゆういうしなった。

この城堡じょうほうは、彼女かのじょ大地だいちとのつながりそのものを遮断しゃだんするちからっていたからである。

それだけではない。

札托斯ザトス城堡じょうほうには感知魔法かんちまほうまでもまれており、それによってかれ真晝まひる位置いち容易ようい把握はあくし、即座そくざ攻撃こうげき仕掛しかけることができた。

札托斯ザトスしろ内部ないぶひそめることができるだけでなく、その内側うちがわ存在そんざいするあらゆるものを自在じざいあやつることさえできる。

このとき真晝まひるは、まさに甕中之鼈おうちゅうのべつ同然どうぜんだった。

わずかでも対応たいおうあやまれば、札托斯ザトスによっていのちうばわれてもおかしくはない状況じょうきょうかれていた。




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