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そのゲームは、切り離すことのできない序曲に過ぎない  作者: 珂珂


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第二卷 第二章 崇められる王(6/6)

しかし、この平穏へいおんえる歴史れきし裏側うらがわには、なお人知じんちれぬ秘密ひみつかくされていた。

いま天狐神社てんこじんじゃ宮司ぐうじは、すでに第六代だいろくだいへとがれている。

そして現任げんにん宮司ぐうじ――七葉真ななはまこと。それこそが、千年せんねんにわたる歴史れきしみとめられたであった。

彼女かのじょは、七葉家ななはけ直系継承者ちょっけいけいしょうしゃであるだけではない。初代妖狐之王しょだいようこのおう血脈けつみゃくを、ただ一人ひとり正統せいとう存在そんざいとしてもひろみとめられていた。

ふる記録きろくによれば、初代妖狐之王しょだいようこのおうは、『共理之契きょうりのけい』が締結ていけつされたのち、わずか十年じゅうねんのあいだしか宮司ぐうじしょくいていなかったという。

そして十年じゅうねんぎたのち、彼女かのじょなん前触まえぶれもなく、みずからの姓名せいめい容貌ようぼう、そして霊印れいいんまでもり、六島之國ろくとうのくにのあらゆる記録きろくから完全かんぜん姿すがたした。

神々(かみがみ)であれ、妖族ようぞくであれ、もはやだれひとりとして彼女かのじょ霊息れいそく感知かんちすることはできず、まるでその存在そんざいそのものが、伝説でんせつなかにのみのこされたかのようであった。

この神秘しんぴつつまれた「神隠かみがくし」は、後世こうせいの人々(ひとびと)のあいだに、数多かずおおくの憶測おくそく伝承でんしょうした。

あるものは、彼女かのじょみずからを生贄いけにえとしてささげ、最後さいごのひとすじ霊力れいりょく地脈ちみゃくへとませることで、いまなお六島ろくとう邪異じゃい侵蝕しんしょくからまもつづけているのだとかたった。

またあるものは、彼女かのじょがさらに高次こうじ神域しんいきへとおもむき、すべてのあやかしのためにたましい輪廻りんねいたみちひらいたのだとしんじていた。


だが、真相しんそうがいかなるものであったとしても、現実げんじつとしてのこされたものは明白めいはくであった――神器しんきあるじうしない、天狐神社てんこじんじゃ継承制度けいしょうせいどもまた、混乱こんらんなかへとおちいっていったのである。

宮司ぐうじ責務せきむは、たん祭典さいてんつかさどるだけにとどまらなかった。霊脈れいみゃく安定あんていさせ、結界けっかい維持いじし、さらには天狐神社てんこじんじゃそのものにかかわる至宝しほう――「雙宮之印そうきゅうのいん」を守護しゅごすることまでも、その役目やくめふくまれていた。

そのような重大じゅうだい地位ちいを、ながきにわたって空位くういのままにしておくわけにはいかなかった。ゆえに、初代妖狐之王しょだいようこのおう行方ゆくえれぬあいだ、初代最高神しょだいさいこうしんみずか前面ぜんめんち、妖族ようぞくあるいはかみえらばれしものなかから、ふさわしき人選じんせんえらび、暫定的ざんていてき宮司ぐうじつとめをがせるほかなかった。

しかし、問題もんだいはほどなくして表面化ひょうめんかした。

天狐神社てんこじんじゃには、きわめて重要じゅうよう神器しんきまつられていた――「白炎之鈴はくえんのすず」である。

この神器しんきは、もともと初代妖狐之王しょだいようこのおう所持しょじしていたものであり、そのうちには彼女かのじょのこした妖力ようりょく信念しんねん、そして霊脈れいみゃくとのあいだにむすばれた特別とくべつ契印けいいん宿やどされていた。それは、初代妖狐之王しょだいようこのおうたしかにこの存在そんざいしていたことをしめす、唯一ゆいいつあかしでもあった。

その存在そんざいは、たんなる象徴しょうちょうにとどまるものではない。それはまた、継承者けいしょうしゃしんにその資格しかくそなえているかいなかを見極みきわめるための、決定的けっていてき証憑しょうひょうでもあった。



だが、こと当初とうしょ想定そうていどおりにはすすまなかった。

歴代れきだい、この神器しんきれようとしたものはいたが、そのちからえられたものは、ついに一人ひとりとしてあらわれなかった。

そのちからは、たん強大きょうだいであるというだけではなかった。それは、はるかな古代こだいわされたちかいそのものが圧迫感あっぱくかんであり、まるで妖族ようぞく全体ぜんたい歴史記憶れきしきおくが、神器しんき奥底おくそこからものつめているかのようであった。

もし、十分じゅうぶんるがぬ心志しんしたず、あるいはたましいそのものの強度きょうどりなければ、神器しんきれたものは、そのえぬ重圧じゅうあつによって異常いじょうをきたすこととなった。

あるもの記憶きおく錯乱さくらんさせ、あるもの霊息れいそくゆがめられ、さらには完全かんぜん制御せいぎょうしない、狂乱きょうらん暴走ぼうそうおちいったものすらいた。

そうした事態じたいは、ときつにつれて、いよいよ深刻しんこくさをしていった。

そして最終的さいしゅうてきに、その神器しんき封印ふういんされることとなり、天狐神社てんこじんじゃもまた、名目めいもくだけをたも存在そんざいへとがった。以後いごじつ百年ひゃくねんものあいだ、神社じんじゃ本来ほんらい機能きのうたせぬまま停滞ていたいすることとなった。



七葉真ななはまこと帰還きかんによって、すべてはようやく転機てんきむかえた。

それは、初代妖狐之王しょだいようこのおう姿すがたしてから、ちょうど百年ひゃくねんぎたころのことであった。西方海域せいほうかいいきより、ひとりの銀髪ぎんぱつ少女しょうじょが、ただひとりで海岸かいがんへと辿たどいた。は、まだ十代じゅうだいなかばほどにしかえなかった。

彼女かのじょ何者なにものであるのかをものはおらず、その出現しゅつげんあらかじらせるようなしらせも一切いっさいなかった。それでも、まるで運命うんめいがはじめからそうしるしていたかのように、彼女かのじょはごく自然しぜんに人々(ひとびと)のまえあらわれたのである。

つたえによれば、彼女かのじょ神社じんじゃ結界けっかいうちあしれたその瞬間しゅんかん、それまであらくるうようにみだれていた霊風れいふうは、ぴたりと静止せいししたという。

すでに制御せいぎょうしない、なか廃墟はいきょしていた結界符紋けっかいふもんもまた、突如とつじょとしてふたたうごはじめた。それはまるで、なにかにこされたかのように、おのずから秩序ちつじょもどしていったのである。

そして彼女かのじょは、しずかにげ、百年ひゃくねんものあいだ封印ふういんされていた神器しんき――白炎之鈴はくえんのすずへとれた。

その瞬間しゅんかん巨大きょだい封印陣法ふういんじんぽうおともなくくだり、ながときざされていた神器しんきは、ゆるやかによりかびがった。そして彼女かのじょかたわらでしずかにめぐりながら、まるでようやくしんあるじ帰還きかんちわびていたかのように、その存在そんざいふるわせた。

そのとき、彼女かのじょはただひとこと、こうくちにした。

わたしかえってきた」

そのさかいに、七葉真ななはまこと正式せいしき第六代宮司だいろくだいぐうじとしてみとめられた――それもまた、神器しんき共鳴きょうめいし、その承認しょうにんることのできた、唯一ゆいいつ存在そんざいとしてであった。

こうして天狐神社てんこじんじゃはふたたび本来ほんらい姿すがたもどし、六島ろくとうながれる霊脈れいみゃくもまた安定あんてい回復かいふくしていった。百年ひゃくねんにわたってつづいていた混乱こんらんは、ついにそこで終止符しゅうしふたれたのである。


ただ、彼女かのじょ本当ほんとう理解りかいしているものは、どうやらだれもいないようであった。

七葉真ななはまことつねひとりで行動こうどうし、ほとんどひと言葉ことばわすこともなく、政務せいむかかわることもけっしてなかった。

彼女かのじょは、まるで月光げっこうとすかげのような存在そんざいであった。神祭しんさいおこなわれるときか、あるいは霊災れいさいこったときにのみ、その姿すがたあらわす。

けれど、ひとたび彼女かのじょあらわれれば、神々(かみがみ)も、妖族ようぞくも、たみも、すべてしずまりかえった。なぜなら、彼女かのじょ存在そんざいは、すでに人々(ひとびと)が「宮司ぐうじ」という言葉ことばいだ認識にんしきえていたからである。彼女かのじょは、まるでこの土地とちたましいがそのまま姿すがたったかのようであり、またいにしえよりがれてきた信念しんねんそのものの化身けしんでもあった。

ちまたでは、こんな言葉ことばかたがれている。

七葉真様ななはまことさまかぎり、六島ろくとうしずまない」


七葉真ななはまこと記憶きおくなかには、いつもひとりの、もっとも大切たいせつ人物じんぶつけていた。

彼女かのじょは、はは面影おもかげおもすことができず、そのすらおもこせなかった。それは歳月さいげつながれによってうすれていったのではない。ひとつの意図的いとてきほどこされた封印魔法ふういんまほうによるものであった。

その魔法まほうは、彼女かのじょはは自身じしんによってかけられたものであり、みずからの存在そんざい痕跡こんせきを、むすめこころからったのである。

けれども、七葉真ななはまことは、このことに一度いちどたりともうらみをいだいたことはなかった。むしろ彼女かのじょは、はは選択せんたくたいして、こころそこからほこりをいだいていた。

彼女かのじょっていた。ははが、だれにもたくすことのできない、あまりにも重大じゅうだい使命しめい背負せおっていたことを。

たとえ記憶きおくふうじられていても、おもいそのものまでたれたわけではなかった。彼女かのじょはなお、ははのこした唯一ゆいいつたくされたもの――あのいにしえ祭祀之舞さいしのまいおぼえていた。

つきちるたび、彼女かのじょはそのまいった。それは六島之國ろくとうのくにのために祈願きがんささげるためであると同時どうじに、みずからのためのいのりでもあった。にはえぬきずなに、なお希望きぼうをともすためのまいでもあったのである。

彼女かのじょしんじていた。この記憶きおくいまもなおむねうちめぐつづけているかぎり、自分じぶんあゆみといのりがまぬかぎり、いつのか、ははかなら自分じぶんのもとへかえってくるのだと。



あの妖王ようおうみずからの真名しんめい容貌ようぼうったとき、かれおもわず問いかけた。

「どうして彼女かのじょは、そんなことをしたんだ?」

時間之神じかんのかみしずかにくびよこった。

具体的ぐたいてき理由りゆう……それはだれにもからない。彼女かのじょおな時代じだいきた初代神明しょだいかみたちでさえ、それについての記録きろくのこしてはいないのだ」

「へえ、あのひと、そんなことまでしていたんだね~。本当ほんとうなぞおおひとなんだね!」

緹雅ティアかたわらで、くすりとわらいながらそうった。

七葉真ななはまことははは、いったいなに経験けいけんしたのだろうか。

なぜ、あのような方法ほうほうえらび、みずからの存在そんざいらねばならなかったのか。

そして彼女かのじょは、いったいなにのために姿すがたしたのだろうか。


月読つくよみは、さらに言葉ことばいだ。

じつのところ、初代妖狐之王しょだいようこのおうだけではない。当時とうじ初代霊妖之王しょだいれいようのおうも、まったくおな時期じき六島之國ろくとうのくにっているのだ。あの二人ふたりは、ともに歴史れきしなかから姿すがたした。なぜったのか、それをものだれもいない」

「なるほど」

そのでは、それ以上いじょう問いただすことはできなかった。だがこころおくでは、どうしてもかんじずにはいられなかった。歴史れきしちりもれたあの空白くうはく背後はいごには、もっとふか意図いとひそんでいるのではないかと。

二人ふたりおうさいのこしたものは、むしろ無言むごんのままたくされたなにかのようにもおもえた。

まるで彼女かのじょたちは、あるしゅ真実しんじつをわざとなかのこし、後世こうせいものたちにそれをあおさせ、もとめさせながらも、けっしてその核心かくしんへは辿たどかせないようにしたかのようであった。


天之神あまのかみちゃをひとくちふくみ、話題わだいをもとの依頼いらいへともどした。

宮司様ぐうじさま助力じょりょくがある以上いじょう八歧大蛇やまたのおろちふたた姿すがたあらわしたとしても、今度こんどこそ確実かくじつおさめると、我々(われわれ)はかんがえている」

「なるほど。つまり、わたしたちにあなたたちと一緒いっしょにあれをてという依頼いらいですか?」

かれは、委託いたく内容ないよう率直そっちょくに問いといかえした。

「いいえ」

天之神あまのかみしずかにくびよこった。

八歧大蛇やまたのおろち……あれは、我々(われわれ)が対処たいしょしなければならない存在そんざいです。今回こんかいあなたがたにおねがいしたいのは、つぎにあれがあらわれたさい六旗部隊ろっきぶたい協力きょうりょくし、島民とうみんたちをまもっていただくことです」

「へえ? ということは、あの大蛇だいじゃがまたさないようにする方法ほうほうは、もうつけたってこと?」

さきほどのはなしでは、八歧大蛇やまたのおろちいつめられると逃走とうそうするとかたられていた。ならば、今回こんかいの神々(かみがみ)のそなえは、これまでとはあきらかにちがうはずであった。

生命之神せいめいのかみはうなずいた。

「そのとおりです。これもまた、宮司様ぐうじさまのお力添ちからぞえのおかげで、ようやく好機こうきつかむことができました」

あの厄介やっかいきわまりない相手あいて直接ちょくせつ相手取あいてどらずにむとかり、わたしおもわずむねをなでろした。そして苦笑くしょうまじりに、こうった。

正直しょうじきうと、あなたたちがわたしたちに、あの大蛇だいじゃをそのままたおしにけってすんじゃないかとおもっていましたよ~、ははっ」



活力之神かつりょくのかみ苦笑くしょうしながらくびよこった。

「それは、もともとわたしたち自身じしんうべき責任せきにんですからね。わたしたちは、他国たこくの神々(かみがみ)ほど強大きょうだいではないかもしれません。ですが、たがいの連携れんけい呼吸こきゅうかたこそが、わたしたちにとって最大さいだいささえなのです。それに……まだ、あなたがたの実力じつりょくのすべてがえているわけではありません。そんななかで軽々(かるがる)しくたのるのは、やはり適切てきせつではないでしょう」

すると、生命之神せいめいのかみ不意ふい言葉ことばはさんだ。

「でもまあ~、もし本当ほんとうわたしたちがけたときは、あとをおねがいしますね!」

たたかいがはじまるまえから、そんな縁起えんぎでもないことをうな!」

生命之神せいめいのかみのそのひとことに、時間之神じかんのかみはすぐさまあきれたようにんだ。

かれらのやりりは、一見いっけんすれば気安きやす軽妙けいみょうなものにえた。だが、そのみのおくかくされた不安ふあんまでは、とうていおおかくせるものではなかった。



「お二人ふたりは、この依頼内容いらいないようについてなに疑問ぎもんはありますか?」

天之神あまのかみは、もう一度いちどこちらへ問いかけた。

だが、そのつぎ瞬間しゅんかん空気くうきはふいにわった。緹雅ティアはわずかに沈黙ちんもくし、それから、これまでほとんどせたことのないほど真剣しんけん表情ひょうじょうかべた。

「……わたしにはかりません」

その眼差まなざしは、いつもの気楽きらくさや泰然たいぜんとしたものとはまるでちがっていた。するどまされた視線しせんが、まっすぐに神々(かみがみ)へけられる。

「この程度ていど任務にんむを、どうしてわざわざわたしたちに依頼いらいする必要ひつようがあるんですか?」

そのひとことくちにした途端とたん、その空気くうき一気いっきめた。

島民とうみんまもることがかる仕事しごとじゃないのはかっています。でも、それでも混沌級冒険者こんとんきゅうぼうけんしゃるほどの案件あんけんにはおもえません。あなたたちのぐんでも、あるいはほかの位階いかい冒険者ぼうけんしゃでも、十分じゅうぶん対処たいしょできるはずでしょう?」

かれもまた、その言葉ことばけて慎重しんちょうかんがえた。

たしかに、緹雅ティアうとおりであった。

この依頼いらいは、どうにも不自然ふしぜんである。

「この依頼いらいうらにある本当ほんとう目的もくてきなんですか? あなたたちは、わたしたちの実力じつりょくをある程度ていど把握はあくしているはずです。だとしたら、理由りゆうがこれだけでわるとはおもえません」

緹雅ティアは神々(かみがみ)を見渡みわたしながら、あらためてその疑問ぎもんきつけた。



天之神あまのかみは、緹雅ティアのその言葉ことばき、内心ないしんおもわず感服かんぷくしていた。

生命之神せいめいのかみは、なにいたげな様子ようすせたものの、ためらうように天之神あまのかみ視線しせんけた。

天之神あまのかみは、そっとげてそれをせいし、やがてこの依頼いらい真意しんいかたはじめた。

「……もう、はなさなければならないことがあります」

かれふかいきった。

じつのところ、もし本当ほんとう八歧大蛇やまたのおろちとの決戦けっせんのぞむことになれば、わたしたちは……おそらく、きてそのたたかいをえられる保証ほしょうがありません」

いまのあれのちからは、過去かこのいかなる時代じだい記録きろくをも上回うわまわっています。たとえ初代最高神しょだいさいこうしんであっても、正面しょうめんからぶつかっててるとはかぎりません」



「それなら、どうして最初さいしょからわたしたちに、あなたたちと共闘きょうとうしてほしいと依頼いらいしなかったんですか?」

かれはすぐさま問いといかえした。かれらも本心ほんしんでは、自分じぶんたちの助力じょりょくのぞんでいるはずだった。それなのに、なぜこのようなまわりくどいやりかた依頼いらいちかけたのか、その理由りゆうからなかったのである。

すると、天之神あまのかみしずかに視線しせん遠方えんぽうけ、感慨かんがいにじませるようにくちひらいた。

「それは、あなたがたをしんじていないからではありません」

「ただ……わたしたちは、そうするわけにはいかないのです」

その言葉ことばは、まるでなにかによってしばられているかのようであり、その声音こわねにはくちにすることのできぬおもさがにじんでいた。

「この依頼いらい本当ほんとう目的もくてきは、あとのこみちのこすことにあります。まんいちわたしたちがやぶれたとしても、すくなくとも……この世界せかいには、まだ希望きぼうのこされるように」

たとえかみであろうと、二度にどかえれぬかもしれないたたかいをまえにして、だれ本当ほんとうなにひとつおそれずにいられるだろうか。

それでも、かれらはその責任せきにん背負せおっているがゆえに、みずか最前線さいぜんせんつことをえらび、一度いちどたりとも退こうとはしなかった。

運命うんめいまえにしてなおあゆみをめぬその覚悟かくごは、かざてた言葉ことばなどなくとも十分じゅうぶんつたわってきた――その精神せいしんだけで、すでにひと敬服けいふくさせるにるものであった。

すくなくとも、かれらは自分じぶんたちがなにすべきかを、はっきりとかっていた。



かれらがそこまでうのをて、かれはこれ以上いじょうふか追及ついきゅうするのはやめ、今度こんど冒険者ぼうけんしゃとしての立場たちば交渉こうしょうはいることにした。

「なるほど。では、報酬ほうしゅうとしては、なに提示ていじしてもらえるんですか?」

かれ単刀直入たんとうちょくにゅうにそうたずねた。たとえこの依頼いらいうらにどれほどおおくの事情じじょうかくされていようとも、自分じぶんたちが最終的さいしゅうてきなにられるのかは、はっきりさせておく必要ひつようがあったからである。

天之神あまのかみは、その問いが、すなわちかれらが依頼いらいける意思いししめしたものだと理解りかいしていた。ゆえに、その返答へんとうにも曖昧あいまいなところはなかった。

混沌級冒険者こんとんきゅうぼうけんしゃにふさわしい報酬ほうしゅう支払しはらうのはもちろんです。ですが、それにくわえて、あなたがたが本当ほんとう必要ひつようとしているものもおわたしできます――それは、はなればなれになった仲間なかまについての情報じょうほうです」

わたしたちは聖王国せいおうこくから密函みっかんっています。そのなかには、あなたがたの仲間なかまが、おそらく六島之國ろくとうのくに国内こくないにいる可能性かのうせいたかいとしるされていました」



わたし緹雅ティア一瞬いっしゅんだけ視線しせんわし、それからしずかにうなずいた。つづけて、わたしは問いかけた。

わたしたち以外いがいに、たような経緯けいいものったことはありますか? つまり、わたしたちの世界せかいからひとたちに、です」

天之神あまのかみくびよこった。

すくなくとも、現在げんざいわたしたちの認識にんしきでは、あなたがたが最初さいしょ事例じれいであるはずです」

わたしはしばらくだまみ、それからゆっくりとくちひらいた。

「なるほど……かりました。でしたら、わたしたちはこの依頼いらいけます。ですが――」

「……ですが?」

行動こうどうはじめるまえに、まず『報酬ほうしゅう一部いちぶ』をさきにいただきたいのです。わたしたちにとっては、仲間なかまもどすことがなによりも大切たいせつです。仲間なかま居場所いばしょさえ確認かくにんできれば、わたしたちは全力ぜんりょくであなたがたに協力きょうりょくし、この任務にんむたします」

かれらの依頼内容いらいないようはたしかにおもいものであった。だが、自分じぶんたちの立場たちばとしては、なに最優先さいゆうせんとするのかを、はっきりしめしておく必要ひつようがあった。

「そのてんについては、すでに準備じゅんびしております」

そのとき生命之神せいめいのかみがり、こちらにかってそうげた。

「ただし、このけんくわしい内容ないようについては、宮司大人ぐうじさまみずからにおはなしいただく必要ひつようがあります。そのために、すでに皆様みなさまとおいするととのえてあります」

天之神あまのかみもまたがり、こちらへべるようにしてった。

宮司大人ぐうじさまのご準備じゅんびは、すでにととのっているはずです。では、どうぞ皆様みなさまわたしたちとともにおしください」

その瞬間しゅんかんわたしむねうちには、わずかに計算けいさんされていたような感覚かんかくがよぎった。

神々(かみがみ)は、まるでわたしたちがどのような選択せんたくをするのか、最初さいしょから見越みこしていたかのようであり、そのさき段取だんどりにいたるまで、すでにととのえていたようにおもえた。

多少たしょうながれにせられているような気分きぶんはあった。だがすくなくとも、かれらの物事ものごとはこかたに、不快感ふかいかんおぼえることはなかった。



伊邪那岐いざなぎ伊美那岐いざなみ二柱ふたはしらはなお六玄閣ろくげんかくとどまったままであったが、天之神あまのかみ生命之神せいめいのかみ大地之神だいちのかみ活力之神かつりょくのかみ、そして時間之神じかんのかみって出発しゅっぱつした。さらに、天照大神あまてらすおおみかみ月読つくよみ、そして六旗部隊ろっきぶたいもまた雲閣うんかくかう一行いっこうくわわり、その陣容じんようはまさしく壮観そうかんぶにふさわしいものであった。

わたしたちも、そのままかれらにしたがい、雲閣うんかくへとかった。

道中どうちゅうわたしはふと、もうひとつの重要じゅうよう疑問ぎもんおもした。

「ひとつ、おきしたいことがあります」

そうくちひらきながら、わたし視線しせん天之神あまのかみけた。

「あなたたちは、あの九人きゅうにんについて、どれほどっているのですか? わたしかぎりでは、聖王国せいおうこくの神々(かみがみ)でさえ、かれらについてはほとんど把握はあくしていないようでした」

天之神あまのかみはわずかにかんがむように沈吟ちんぎんし、それからしずかにくちひらいた。

「その九人きゅうにん大人さまがたは、みずからの真名しんめいのこしてはいません。ですが、初代しょだい神明かみさまがたは、かれらをこのようにんでおられました――」

かれかた速度そくどとし、ひとりひとりをたしかめるように、ゆっくりと言葉ことばつむいでいった。

「その九人きゅうにん大人さまがたとは、すなわち――

原始因果げんしいんがつかさどる『原界大人げんかいさま』。

封印ふういんちからつかさどる『魂鎖大人こんささま』。

元素げんそ本質ほんしつつかさどる『混元大人こんげんさま』。

六種ろくしゅ玄力げんりょくつかさどる『六玄大人ろくげんさま』。

虚実きょじつ交錯こうさくちからつかさどる『幻月大人げんげつさま』。

時間じかん空間くうかんつかさどる『永輪大人えいりんさま』。

破壊はかい根源こんげんつかさどる『寂滅大人じゃくめつさま』。

極致きょくち斬撃ざんげきつかさどる『神剣大人しんけんさま』。

そして、万象ばんしょう観測かんそくするちからつかさどる『天目大人てんもくさま』です」

わたしは、そのをひとつひとつ胸中きょうちゅうきざみつけ、これからさきすすむための重要じゅうよう手掛てがかりとして記憶きおくとどめた。



聖王国せいおうこくの神々(かみがみ)は、歴史れきしなか幾度いくどとなく交代こうたいしてきました。六国ろっこくなかでも、とりわけその頻度ひんどたかかったのです。ですから、おそらくはこうした事柄ことがらも、すでにわすられてしまったのでしょう。実際じっさい、あの九人きゅうにん大人さまがたのために、なにひとつ記念建築きねんけんちくすらのこしていません」

天之神あまのかみは、そう説明せつめいした。

「ただ、他国たこくの神々(かみがみ)であれば、おそらくいまもなお記憶きおくしているはずです」

わたしちいさくうなずき、さきほどにしたあの閣楼かくろうのことをおもした。

「では、あの六玄閣ろくげんかくというも、あの九人きゅうにん大人さまがた記念きねんするためにつけられたものなのですか?」

「そのとおりです。それこそが、あの由来ゆらいなのです」

かれ口調くちょうおごそかで、その伝承でんしょうかれらにとって、どれほどおおきな意味いみつものであるかがつたわってきた。

わたしとおくをやりながら、ぽつりとくちにした。

正直しょうじきうと、わたしはあの九人きゅうにんってみたいとおもっています。せめて一度いちどくらいは、直接ちょくせつって、わたしたちの善意ぜんいつたえてみたいんです」

そうってから、わたしはわずかにかたむけ、緹雅ティアのほうへかおせて、小声こごえたずねた。

「……緹雅ティアは、どうおもう?」

面白おもしろそうでいいんじゃない?」

彼女かのじょはいつものようにかろやかな口調くちょうでそうこたえ、口元くちもとには見慣みなれたみがかんでいた。

その返答へんとういた瞬間しゅんかんわたしはそれが意外いがいだったのか、それとも予想よそうどおりだったのか、自分じぶんでもすこ判断はんだんがつかなかった。

彼女かのじょはいつだってそうだ。未知みちなるものをまえにしてもけっしてあわてない。だが、それは無関心むかんしんだからではない。あらゆるものをしずかに見据みすえ、そのすべてを掌中しょうちゅうおさめているかのような、あの余裕よゆうゆえのきだった。


それでも、あの未知みちなる九人きゅうにんまえにすれば、すくなくともかれらがこの世界せかいでもっとも強大きょうだいで、なおかつもっとも神秘しんぴつつまれた存在そんざいであろうことくらいは想像そうぞうできた。にもかかわらず、緹雅ティアには、ほんのわずかな警戒心けいかいしんすらえなかった。

わたしおもわず、もう一度いちど彼女かのじょたずねた。

「その九人きゅうにんは、この世界せかい最強さいきょう九人きゅうにんかもしれないんだぞ。それなのに、どうして緹雅ティアは、まるですこしもこわがっていないみたいなんだ?」

「それはもちろん……」

緹雅ティアは、ただ意味深いみしんみをかべた。

「おねえちゃんがまえってたの。こわがっていたって、なに解決かいけつできないって」

わたしあきれたようにちいさくためいきをついたが、不思議ふしぎなことに、むねうちすこしだけかるくなっていた。

よくよくかんがえてみれば、一度いちどったことのない相手あいてに、ここまで過剰かじょう警戒けいかいするのも、たしかにみょうはなしかもしれない。かれらがこの世界せかいまもってきた存在そんざいなのだとすれば、すくなくともこちらが敵意てきいけないかぎり、そう簡単かんたん面倒めんどうまれることもないだろう。

そのとき天之神あまのかみがさらに言葉ことばいだ。

九位きゅうい大人さまがた事蹟じせきについては、いまなお各国かっこくのあいだにつたわっています。ですが、そのおおくは後世こうせいものたちによって脚色きゃくしょくくわえられ、半分はんぶん真実しんじつ半分はんぶんつくばなしのような伝承でんしょうになってしまいました。しかも、各国かっこくでは神位しんい交代こうたいかえされてきましたから、本来ほんらい歴史れきしはほどなくちりもれ、わすれられていったのです」

かれはひと呼吸こきゅうおいてから、つづけた。

九位きゅうい大人さまがたかんする事蹟じせき資料しりょうで、現在げんざいもっとも比較的ひかくてきまとまったかたちのこされているのは、荒漠之國こうばくのくにの『聖脈之都せいみゃくのみやこ』にある『知録院ちろくいん』です」

そして、さらにしずかにえた。

のこされている記録きろくりょうは、けっしておおくはありません。ですが、もし本当ほんとうにあなたがたが興味きょうみっているのなら、あそこがいまなおのこる、数少かずすくない信頼しんらい手掛てがかりとえるでしょう」

わたし小声こごえこたえた。

「なるほど……参考さんこうにしておきます」



わたしたちのふねは、ゆっくりと妖幻島ようげんとうかってすすんでいた。すると、そら不意ふいあつくもおおわれ、かぜ次第しだいいきおいをしていった。まるで、はげしい豪雨ごうういまにもそそごうとしているかのようであった。

雲閣うんかくはいるためには、妖幻島ようげんとうもうけられた特定とくてい転送点てんそうてんとおらなければならない。

雲閣うんかく高空こうくうきずかれており、その周囲しゅういにはつね強風きょうふう雷電らいでん渦巻うずまいている。そのため、たとえ飛行魔法ひこうまほうもちいたとしても、安定あんていして辿たどくことはむずかしかった。

しかも、ようやく上空じょうくう到達とうたつしたとしても、雲閣うんかくそのものは幾重いくえもの結界けっかいによってまもられている。その結界けっかい六玄閣ろくげんかくのものとおなじく、かつて伝説でんせつ六玄大人ろくげんさまによってきずかれたものとつたえられていた。ゆえに、雲閣うんかくもまた、六島之國ろくとうのくにでもっとも安全あんぜん場所ばしょのひとつとされているのである。

だが、わたしたち一行いっこう妖幻島ようげんとう辿たどいたとき、そこでおもいがけない光景こうけいっていた。

ダッキは、すでにそのわたしたちをっていたのである。しかも、そのかたわらには三姉妹さんしまい姿すがたまであった。

彼女かのじょたちがこの場所ばしょにいることが、わたしにはあまりにも意外いがいで、おもわずあわてて問いかけてしまった。

「どうして、あなたたちがここにいるんだ?」

彼女かのじょたちはみなふかくフードをかぶった長袍ちょうほうをまとい、かおせたまま、しずかに片膝かたひざをついてれいった。そのためまこと顔立かおだちはえず、ただいた声音こわねだけがかえってくる。

無礼ぶれいをおゆるしください。ですが、このさき危険きけんがあるようにかんじられましたので、確認かくにんのためにまいりました。そこで、ちょうどお二方ふたかたさまとおいしたのです」

ダッキは、やはりがなかった。人前ひとまえわたしたちの本当ほんとう身分みぶんかしてはならないことを、きちんと心得こころえていたのである。



かたわらにっていた神々(かみがみ)たちは、その言葉ことばにわかにはしんじがたいという表情ひょうじょうかべた。なかでも月読つくよみまゆをひそめ、いぶかしげに問いといかえした。

「ですが、陰虛旗いんきょきからはなん異常報告いじょうほうこくとどいていません」

ダッキはそれ以上いじょう言葉ことばかさねることなく、ただしずかにげ、とおてんしめした。

一同いちどうがその指先ゆびさきさきけると、雲層うんそううえかぶあの雲閣うんかくえた。だが、その周囲しゅういは、すみかしたように濃密のうみつ妖気ようきによってつつまれていた。

その妖気ようきはあまりにもく、すでに肉眼にくがんでもはっきりととらえられるほどであった。まるで、暗紫色あんししょく光暈こううんが、雲閣うんかく全体ぜんたいおおくしているかのようであった。

距離きょりはなおとおく、直接ちょくせつその内側うちがわ感知かんちすることはできない。それでも、そこからせてくる圧迫感あっぱくかんは、はだすように生々(なまなま)しく、おもわず背筋せすじえるほどであった。

そして、さらに不安ふあんてたのは――その気配けはいはっもとである。

「このは……宮司様ぐうじさまのものではありません」

活力之神かつりょくのかみ即座そくざにその魔力まりょく波動はどうさぐり、そうだんじた。そこにあったのは、あきらかに見覚みおぼえのない、異質いしつ魔力まりょくだった。だからこそ、かれ表情ひょうじょう一気いっきけわしいものへとわっていたのである。

その分析ぶんせきみみにしたほかの神々(かみがみ)も、みな一様いちようしんじがたいものを見るような面持おももちをかべた。月読つくよみは、ほとんどひとごとのようにつぶやく。

「これは……いったい、どういうことなのですか」

雲閣うんかくは、本来ほんらいであれば六島之國ろくとうのくにでもっとも堅固けんご聖域せいいきであるはずだった。にもかかわらず、いまやそこは、まるで大敵たいてきむか直前ちょくぜんのように、異常いじょう妖力ようりょくおおわれていた。

じわじわと不穏ふおん空気くうきひろがっていく。だれもが理解りかいしていた。これからころうとしていることは、おそらく当初とうしょ予想よそうをはるかにえるものになるだろうと。

そして、あの幾重いくえにもめたくもこうには、しん災厄さいやくが、ただしずかにこちらの到来とうらい見下みおろしているのかもしれなかった。



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