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そのゲームは、切り離すことのできない序曲に過ぎない  作者: 珂珂


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第二卷 第二章 崇められる王(2/6)

現在げんざいもどる)

六島之國ろくとうのくに神明かみたちとのみじか会談かいだんえたのちわたし緹雅(ティア)情報じょうほう整理せいりし、つぎ対策たいさくについてはな準備じゅんびはじめた。

昼食ちゅうしょくさいには非常ひじょう豪華ごうかなもてなしをけ、はらがいっぱいになるどころか、すこくるしいほど満腹まんぷくになってしまった。そのため、二人ふたりともそと食事しょくじさがしにるつもりはまったくなかった。

緹雅(ティア)は、ゆっくりと風呂ふろはいり、からだやすめることにめた。

それからほどなくして、彼女かのじょかるふく着替きがえ、金色きんいろかみかたらしたまま、どこかだるそうな様子ようすでベッドによこたわり、小冊子しょうさっしをめくっていた。

一方いっぽうわたし窓辺まどべのソファにこしろし、思考しこう整理せいりしながら、彼女かのじょたがいに分析ぶんせきわしていた。



現在げんざい情報じょうほうからかぎり、あのものたちはすでに聖王国せいおうこくからわたしたちの状況じょうきょういているようだ。だが、具体的ぐたいてきにどこまで把握はあくしているのかは、わたしにもからない。」

「ふん……どうやらあとで、しっかり尋問じんもんしてやる必要ひつようがありそうね!」

そういながら、緹雅(ティア)おおきくびをした。その様子ようすからすると、このけんについてはあまりにしていないようだった。

大結界だいけっかい干渉かんしょうのせいで、さっきふねうえにいたとき正確せいかく判別はんべつできなかった。だが、使つかわなくてもかる……あの巨大きょだいへびは、以前いぜんわたしたちが遭遇そうぐうした扶桑ふそうよりも、はるかにつよい。」

わたしまゆをひそめながら思考しこうめぐらせた。あの巨蛇きょだいなへびは、なにかをかくしているようながしてならない。しかし、それがなになのかはいまのところ言葉ことばにできなかった。おそらく、これがいわゆる直感ちょっかんというものなのだろう。

「だが、それでもあの巨蛇きょだいなへび突然とつぜん撤退てったいした。正直しょうじきって、六島之國ろくとうのくに神明かみたちが、あの等級とうきゅう怪物かいぶつ対処たいしょできるとは、わたしにはおもえない。」



「もしかすると、かれらはなにふだかくっているのかもしれないわね?」

緹雅(ティア)相変あいかわらず気楽きらくそうな表情ひょうじょうのまま、そうった。

ふる禁呪きんじゅとか、封印兵器ふういんへいきとか……あるいは、ながねむりについていた神明かみ突然とつぜん目覚めざめて、そのせいであのへびあわててした、とかね。」

わたし苦笑くしょうしながらあたまいた。

「まさか……あの巨蛇きょだいなへび始末しまつを、わたしたちにまかせるつもりじゃないだろうな? あの相手あいては……正直しょうじき、かなり厄介やっかいそうにえた。」

「うーん……それ、かなりありそう。」

そういながら、緹雅(ティア)まくらかかえたままおおきな欠伸あくびをした。

「もしかれらが本当ほんとうわたしたちの実力じつりょく理解りかいしているなら、きっと最初さいしょから、このけんわたしたちが片付かたづける前提ぜんていかんがえているはずよ。」

緹雅(ティア)口調くちょう相変あいかわらずだるげだったが、その分析ぶんせきはきわめてすじとおっていた。



「そうえば、あの神明かみたちの能力のうりょく、なかなかつよそうだったわね。戦力せんりょくとしてはそれほどたかくはないけれど、どこか厄介やっかいかんじるちからっているみたい。」

緹雅(ティア)のその言葉ことばき、わたしうなずいて同意どういした。六島之國ろくとうのくに神明かみたちが具体的ぐたいてきにどのような能力のうりょくっているのかはからない。

最初さいしょかれらの能力のうりょく観察かんさつしたとき数値すうちとしてのちからおもっていたほどたかくはないようにかんじられた。しかし、よくてみると、どうやらなに特別とくべつちからっているらしいことにづいた。

たしかに、わたしおなかんじをけた。かれらの能力のうりょく具体的ぐたいてきなになのかはからないが……まるでわたしたちのかんがえをっているようにかんじる。だが、精神魔法せいしんまほう使つかった形跡けいせきがあるわけでもなさそうだ。」



数日すうじつまえ 弗瑟勒斯(フセレス)第六神殿だいろくしんでん無知むち吊橋つりばし

精神魔法せいしんまほう直面ちょくめんしたとき自分じぶんがどのように対処たいしょすべきかをたしかめるため、わたしはわざわざ第六神殿だいろくしんでんまであしはこび、赫德斯特ヘデスト協力きょうりょくたのんで模擬実験もぎじっけんおこなうことにした。

かつてのゲームのなかでは、精神系せいしんけい魔法まほうつねにどこか抽象的ちゅうしょうてき分類ぶんるいだった。

説明文せつめいぶんには「行動不能こうどうふのう」「混乱こんらん」「恐怖きょうふ」などの状態じょうたいしるされていたものの、実際じっさいにそれをけても、特別とくべつ感覚かんかくともなうことはほとんどなかった。

しかしいま、この世界せかいくようになってからは、かつてゲームのなか抽象的ちゅうしょうてきだった概念がいねんが、すべて現実げんじつとしてかたちはじめている。

精神魔法せいしんまほうたんなる数値すうちではなく、現実げんじつ感覚かんかくとしておそいかかってくるとき、その体験たいけんは――けっして二度にどあじわいたいとおもえるものではなかった。

だからこそ、将来しょうらいこり危険きけんそなえるため、わたし自分じぶん精神魔法せいしんまほうにどれほどえられるのか、一度いちどたしかめておく必要ひつようがあると判断はんだんした。

もちろん、朵莉(ドリ)精神魔法せいしんまほう十分じゅうぶん強力きょうりょくではある。だが、赫德斯特ヘデストのそれとは、やはりどこか性質せいしつことなっていた。



第六神殿だいろくしんでん――無知むち吊橋つりばし

この場所ばしょ四方しほう灰色はいいろ魔力まりょく薄霧うすぎりつつまれており、空気くうきなかには異様いよう圧迫感あっぱくかんながれていた。まるで一歩いっぽすすむごとに、理性りせいすこしずつがれちていくかのような感覚かんかくだった。

「……凝里ギョウリさま本当ほんとうにこのような試験しけんおこなうおつもりですか?」

吊橋つりばしこうがわ赫德斯特ヘデストは、どこか躊躇ちゅうちょする様子ようすせていた。法杖ほうじょうにぎさえ、わずかにふるえている。

その口調くちょうから、わたしかれ不安ふあんをはっきりとかんることができた。

しかし、わたしとく心配しんぱいしていなかった。かるりながらこたえる。

安心あんしんしてくれ。わたし精神耐性せいしんたいせいは、かなりたかいから。」

「ですが……ここは第六神殿だいろくしんでんです。精神魔法せいしんまほうは、この神殿しんでんなかではきわめておおきな強化きょうかけます。しかも、神器しんきちからまで使つかうようにとおっしゃる――それは亞米アミさまから直々(じきじき)にさずけられた魔法まほうです。凝里ギョウリさまであっても、完全かんぜん抵抗ていこうできるとはかぎりません。」

赫德斯特ヘデストはなおもかえし、自分じぶん懸念けねん強調きょうちょうした。

亞米アミきずいた第六神殿だいろくしんでん――無知むち吊橋つりばし構造こうぞうこそ単純たんじゅん一本道いっぽんみちだが、それゆえにかる気持きもちでのぞむべき場所ばしょではない。

赫德斯特ヘデスト言葉ことばいたわたしは、おもわず満足まんぞくそうなみをかべた。

「そうってくれるなら、むしろ安心あんしんだ。きみほどのもの心配しんぱいするということは――今回こんかい模擬もぎが、それだけ意味いみのある試験しけんだということだろう?」



「それでは……失礼しつれいいたします。」

赫德斯特ヘデストわたしつよ意思いして、ついに提案ていあんれた。

わたしかれもとめたのは、神杖しんじょう天原軒海てんげんけんかい使つかうことだった。

その神杖しんじょう古朴こぼく外観がいかんをしており、深海夜鉄しんかいやてつ神木しんぼくによってげられている。杖身じょうしんには古代こだい呪文じゅもんがびっしりときざまれており、つえ先端せんたんには銀白色ぎんぱくしょくほそいと螺旋らせんえがくようにながれていた。まるでそこに、言葉ことばたない意志いし宿やどっているかのようだった。

それがまされた瞬間しゅんかん神殿しんでん全体ぜんたい空気くうきが、さらにおもしずんだようにかんじられた。

この神器しんきは、使用者しようしゃ精神魔法せいしんまほうおおきく強化きょうかするちからっている。たん術者じゅつしゃ制御力せいぎょりょくたかめるだけではなく、一定いってい条件じょうけんたした場合ばあいたましいそのものを破壊はかいすることさえ可能かのうだった。

ゲームのなかであれば、たましい破壊はかいとは、ただ生命値せいめいちがゼロになることを意味いみするだけであり、プレイヤーは即座そくざ復活地点ふっかつちてん転送てんそうされるだけだった。

しかし、この世界せかいでは事情じじょうちがう。もしわたしんだ場合ばあいなにこるのか――それはだれにもからない。

だからこそ、この実験じっけんはやはりすこしばかり危険きけんけでもあった。

このきわめて危険きけん能力のうりょくまえにして、緹雅(ティア)でさえおもわず表情ひょうじょうめていた。

万一まんいちそなえ、緹雅(ティア)はすぐちかくで待機たいきし、いつでも介入かいにゅうできるようかまえていた。



無知むち吊橋つりばしでは、侵入者しんにゅうしゃ場地魔法ばしょまほうによって、徐々(じょじょ)に感覚かんかくうばわれていく。そしてづかぬうちに、最後さいごには深淵しんえんへとちていくことになる。

しかし、精神魔法せいしんまほうへの耐性たいせい装備そうびけているか、あるいは本人ほんにん自身じしん精神魔法耐性せいしんまほうたいせいそなえていれば、この魔法まほう侵食しんしょくおおきくおくらせることができる。

だが、それらはすべて――ただの偽装ぎそうぎない。

本当ほんとう殺意さついは、場地魔法ばしょまほうとはまったくことなる体系たいけい攻撃こうげきからもたらされる。

赫德斯特ヘデスト精神魔法せいしんまほうと、場地魔法ばしょまほう精神攻撃せいしんこうげきは、完全かんぜん別系統べつけいとう魔法体系まほうたいけいである。

そのため、これを有効ゆうこうふせぐには、鑑定之眼かんていのめもちいて魔法術式まほうじゅつしき構造こうぞう解析かいせきする必要ひつようがある。

ゆえに、環境かんきょうからはっせられる精神魔法せいしんまほう意識いしきけて抵抗ていこうしているあいだに、つい油断ゆだんしょうじ、赫德斯特ヘデスト精神魔法せいしんまほうによる攻撃こうげきかえけてしまうことになるのだ。



それだけではない。

赫德斯特ヘデストじつ十種類じゅっしゅるいもの精神魔法せいしんまほうあやつることができる。さらに場地ばしょめる濃霧のうむ魔法まほう識別しきべつさまたげるため、術式じゅつしき見極みきわめは一層いっそう困難こんなんとなる。

これこそが、無知むち吊橋つりばし攻略こうりゃく困難こんなんとされる理由りゆうひとつだった。このしゅ魔法体系まほうたいけい習熟しゅうじゅくしていないものにとって、赫德斯特ヘデスト精神魔法せいしんまほう対抗たいこうすることは、ほぼ不可能ふかのうってよい。

――そして、もうひと理由りゆうがある。

その瞬間しゅんかん赫德斯特ヘデスト神杖しんじょう天原軒海てんげんけんかいるい、領域精神魔法りょういきせいしんまほう――地獄喪鐘じごくそうしょう発動はつどうさせた。

やみ一瞬いっしゅんにしてわたしつつむ。

この領域魔法りょういきまほう作用さようでは、精神魔法せいしんまほう構造こうぞうはさらに複雑ふくざつする。しかも、長時間ちょうじかんこれにあらがえなければ、対象者たいしょうしゃ精神魔法耐性せいしんまほうたいせいは徐々(じょじょ)に破壊はかいされ、やがてたましいそのものが虚無きょむへとかえされてしまうのだ。


赫德斯特ヘデスト領域魔法りょういきまほう発動はつどうさせたのと同時どうじに、わたしもまた自分じぶん領域魔法りょういきまほう――原初之息げんしょのいき展開てんかいした。

かねひびきはなく、わたし身体からだつつ防御障壁ぼうぎょしょうへきへとちつけられていた。しかし、それが容易よういやぶられる気配けはいえない。

さらに赫德斯特ヘデストは、同時どうじ五種類ごしゅるいものことなる精神魔法せいしんまほうわたしけてはなった。

だが、鑑定之眼かんていのめ解析かいせきした結果けっか、それらの魔法まほう構造こうぞうはすぐに見抜みぬくことができた。たとえ虚偽魔法きょぎまほうによって偽装ぎそうされていたとしても、わたしあざむくことはできない。

そのため、赫德斯特ヘデスト精神魔法せいしんまほうは、わたしたいしてほとんどなん効果こうか発揮はっきしなかった。

わたしがこれほど容易ようい魔法まほう構造こうぞう見抜みぬける理由りゆうは、どうやらべつにあるらしい。

この世界せかいわたってから、わたし鑑定之眼かんていのめ使つかううちに、ある変化へんかづいた。

魔法術式まほうじゅつしき構造こうぞうを、まるで本質ほんしつまで分解ぶんかいするかのように単純化たんじゅんかして認識にんしきできる、あらたな能力のうりょくまれていたのだ。

それは、あたかも進化しんかしたかのように、鑑定之眼かんていのめが――原初之眼げんしょのめへとわったかのようだった。

その理由りゆういまからない。

だが、すくなくともこの能力のうりょくがあるかぎり、わたしにとってはひとおおきな保険ほけんになることだけはたしかだった。




「どうやら、この程度ていど精神魔法せいしんまほうでは、わたし影響えいきょうあたえることはできないようだ。」

わたし赫德斯特ヘデスト攻撃こうげきふせぎながら、そうくちにした。

亞米アミさまみたいなきゅう魔法まほうでもないかぎり、あなたに影響えいきょうあたえられるひとなんていないんじゃない?」

緹雅(ティア)は、わたし余裕よゆうって対処たいしょしている様子ようすて、ようやく安心あんしんしたようだった。

「それはからない。この世界せかいには、わたしたちのらないちからがまだ数多かずおお存在そんざいしている。すべての情報じょうほうが、わたしたちの知識ちしきおなじとはかぎらない。」

たとえ赫德斯特ヘデスト攻撃こうげき容易よういふせげたとしても、わたしけっして油断ゆだんしなかった。

とりわけ、以前いぜん出会であったあの黒衣こくいおんなのことをおもす。

彼女かのじょ使つかっていた時間魔法じかんまほう。もしあのときわたし原初之息げんしょのいき防護ぼうごたよっていなければ――今頃いまごろわたしだれかのまないたうえさかなになっていたかもしれない。



現在げんざいもどる)

さきほど赫德斯特ヘデスト模擬戦もぎせんおこなった経験けいけんまえ、わたし六島之國ろくとうのくに神明かみたちが能力のうりょくについて、みっつの可能性かのうせい推測すいそくしていた。

ひとは、亞米アミ赫德斯特ヘデストとは完全かんぜんことなる体系たいけい精神魔法せいしんまほうである可能性かのうせい

ふたは、精神魔法せいしんまほうているものの、実際じっさいには精神魔法せいしんまほうとはべつ魔法まほうである可能性かのうせい

そしてみっは、亞米アミ同等どうとう、あるいはそれ以上いじょう強力きょうりょく精神魔法せいしんまほうっている可能性かのうせいだった。

もしまえふたつであれば、それぞれ対処たいしょ方法ほうほうおおきくことなるものの、けっして対応たいおうできないわけではない。

しかし、まんいちにもみっ可能性かのうせいだった場合ばあい――わたしたちのかれる状況じょうきょうは、きわめて危険きけんなものになる。

六島之國ろくとうのくに神明かみたちは、たしかにわたしたちにたいして非常ひじょう友好ゆうこうてきだった。

だが、それだけで警戒けいかいくわけにはいかなかった。



わたし自分じぶん分析ぶんせき緹雅(ティア)つたえ、彼女かのじょがどうかんがえているのかをいてみることにした。

しかし、緹雅(ティア)はそれほどおそれている様子ようすはなかった。というのも、彼女かのじょには精神魔法せいしんまほう対抗たいこうするためのかくされたふだがあるからだ。かつて亞米アミでさえ、そのわざによっていたたことがあるほどだった。

緹雅(ティア)わたしのように数値すうち論理ろんり重視じゅうしして判断はんだんするタイプではない。むしろ、経験けいけん直感ちょっかんたよりに結論けつろんみちびく。

方法ほうほうちがうが、不思議ふしぎなことに彼女かのじょ判断はんだんおどろくほど的確てきかくなことがおおかった。

わたしはね~、亞米アミよりつよ精神魔法せいしんまほうなんて、多分たぶん存在そんざいしないとおもうわ。」

緹雅(ティア)は、あまりにも気楽きらく口調くちょうでそう結論けつろんはなった。

その判断はんだんただしいかどうかはともかくとして――そのあまりにものんびりとした態度たいどには、わたしおもわずあたまかかえたくなってしまった。



夜幕よまくしずかにり、星辰せいしん高空こうくうあわまたたいていた。天際てんさいはまるですみませた絹布けんぷのようにひろがり、そのうえに点々(てんてん)と銀色ぎんいろひかりりばめられている。

だが、この静寂せいじゃく夜色やしょくしたで、まちはまるで目覚めざめたかのように活気かっきづいていた。とおりはあかるいあかりにらされ、ひとこえにぎわいがえることはない。

旅店りょてん窓辺まどべからそと見下みおろすと、街路がいろはまるで潮流ちょうりゅうのように人波ひとなみい、わらごええずひびいていた。いろとりどりのあかりとただよけむりからい、まるで神明かみのために用意よういされたよる祭礼さいれいのようだった。

街道かいどう両側りょうがわには、かぞえきれないほどの紙灯籠かみとうろうたかげられている。そのかたち装飾そうしょくじつ多彩たさいで、どこか異国いこくおもむきびていた。

ある灯籠とうろうには妖怪ようかいえがかれ、あるものには六島之國ろくとうのくに神明かみ紋章もんしょうしるされている。なかには子供こどもえがいたような守護霊しゅごれい符呪ふじゅもあり、すこ不器用ぶきようながらも、どこか愛嬌あいきょうのあるおもむきただよわせていた。

灯籠とうろうなからめくひかりは、まるで星火せいかのようにきらめき、夜風よかぜられてゆっくりと揺蕩たゆたう。そのあわ光斑こうはんとおりの石畳いしだたみへとち、街道かいどう全体ぜんたい夢幻むげん薄布うすぬのつつんでいるかのようだった。



屋台やたい途切とぎれることなくならび、かおりとおとが入りじりながら、まるでにぎやかな交響曲こうきょうきょくかなでているかのようだった。

炭火すみびうえでは牛肉串ぎゅうにくくしがじゅうじゅうとおとててかれ、らめくほのお肉汁にくじるつややかにらしている。

酒蒸さかむしの海鮮湯かいせんスープからは不思議ふしぎかおりがちのぼり、ちかくにいた冒険者ぼうけんしゃたちがおもわずつばむほどだった。

さらに、浮空章魚ふくうたこ使つかった団子だんごられている。油鍋あぶらなべなかでくるくるところがるそれは、がると鳳尾草粉ほうびそうふんりかけられ、たちまちあらがえないかおりをただよわせていた。

なかでもひときわくのは、「月影果凍つきかげゼリー」をちいさな屋台やたいだった。

店主てんしゅぎんさじ半透明はんとうめいのゼリーをすくいげる。そのなかには、蛍光藻けいこうそうつくられたちいさなはなと、きらきらとかがや晶片しょうへんめられている。

それをくちふくむと、ゼリーは舌先したさきでほのかにひかはじめる。

そのため子供こどもたちのあいだでは――「ほしべる魔法まほう甘味かんみ」とばれていた。



人声ひとごえ渦巻うずまなかちいさな遊戯ゆうぎ屋台やたいもまたおおいににぎわっていた。

ダーツげの布幕ぬのまくには、魔獣まじゅう神明かみ影絵かげええがかれており、特定とくてい図柄ずがら命中めいちゅうすれば、限定げんてい徽章きしょうちいさな魔法具まほうぐれることができた。

杭打くいうだい屋台やたいは、冒険者公会ぼうけんしゃこうかいちから測定そくていするために使つか魔道装置まどうそうち改良かいりょうしたものだった。

高得点こうとくてん区画くかくたたせば、賞品しょうひんれるだけでなく、装置そうち周囲しゅういならんだあかりが一斉いっせいかがやき、見物人けんぶつにんたちからおおきな歓声かんせいこる。

その一方いっぽうで、ひときわいていたのが「霊魚れいぎょすくい」の屋台やたいだった。

巨大きょだい水槽すいそうなかでは、じつ奇妙きみょう小型こがた水生生物すいせいせいぶつおよいでいる。

金色きんいろ双尾そうび夜魚やぎょ姿すがたすことができる銀皮浮鱗魚ぎんぴふりんぎょ、さらには微弱びじゃく魔力反応まりょくはんのう幻形魚げんけいぎょまでじっていた。

さかなをすくうための道具どうぐは、「霊紙れいし」とばれる特殊とくしゅなものだった。

それはうす水膜すいまく凝固ぎょうこさせてつくられており、ほとんど透明とうめいなほどに繊細せんさいで、ちかられすぎればすぐにやぶれてしまう。

もしうんよく希少きしょう魚種ぎょしゅをすくいげることができれば、挑戦者ちょうせんしゃ天狐神社てんこじんじゃによって加護かごあたえられた「霊印石れいいんせき」をれることができる。

それは子供こどもたちにとって、なによりもあこがれの収集品しゅうしゅうひんだった。



いくつかの屋台やたいには、この土地とちならではの特色とくしょく色濃いろこあらわれていた。

たとえば「六島祈福鏡ろくとうきふくきょうげ」の挑戦ちょうせんだ。参加者さんかしゃ制限時間せいげんじかんないに、銅貨どうか空中くうちゅうかぶ透明とうめい神鏡しんきょうなかれなければならない。

見事みごと命中めいちゅうすれば、神明かみから短時間たんじかん加護かごさずかるとわれており、旅人たびびとわか恋人こいびとたちに人気にんきあそびだった。

またべつ場所ばしょには、うらないと幻影占星げんえいせんせいおこな神秘しんぴ天幕てんまくっていた。

そのなかにはうす面紗めんしゃをかぶったうらなすわっており、ひくやわらかなこえかたりながら、水晶球すいしょうきゅうなかにぼんやりとした未来みらい断片だんぺんかびがらせるという。

天幕てんまくまえでは、一人ひとりちいさなおんな父親ちちおやきながら、すこまよった様子ようすまっていた。

「おとうさん……わたし将来しょうらい飛龍ひりゅうえるかどうかりたい……」

「そんなにたるならな……じゃあとうさんは、おまえかあさんがいつおれさけめなくなるのかりたいもんだ。」

父親ちちおや苦笑くしょうしながら、そうこたえた。



わたしむかし新春しんしゅん廟会びょうえ一人ひとりかけることもよくあった。にぎやかな雰囲気ふんいき花火はなびおとじりよる景色けしきながめながら、まつりの空気くうきあじわっていたものだ。

だが、どこか物足ものたりなさをかんじることもあった。

おそらく――そのよろこびをともかちえる相手あいてがいなかったからなのだろう。

いままどそとひろがるこの灯火ともしびちたまちしずかにながめていると、まるでまぼろしのようにはなやかな夜景やけいなかで、どこかなつかしい安心感あんしんかんむねひろがっていた。

「こんな世界せかいでも……またこういう雰囲気ふんいきあじわえるとはおもわなかったな……」

わたし小声こごえでそうつぶやきながら、視線しせん街道かいどうけたまま、れる灯籠とうろうう人々(ひとびと)をながつづけていた。

今朝けさ、あんなことがきたばかりだなんて……とてもしんじられない。」

くところによると、六島之國ろくとうのくにの人々(ひとびと)は神明かみをとてもふか信頼しんらいしているらしいわ。」

そういながら、緹雅(ティア)もこちらへあるり、わたしとなりならんで窓辺まどべった。彼女かのじょひとみには、そとあかりがきらめいてうつっている。

かれらにとって信仰しんこう生活せいかつ一部いちぶなの。だから、それは油断ゆだんでも怠慢たいまんでもないわ。むしろ――『しんじること』と『いまきること』を大切たいせつにしている姿勢しせいなのよ。」

彼女かのじょ言葉ことばき、わたしすこ意外いがいおもった。

まさか緹雅(ティア)が、この土地とちについてすでにここまで理解りかいしているとはおもっていなかったからだ。



そのときわたしはふとまどそと視線しせんけ、妲己ダッキ雅妮(ヤニー)、そして三姉妹さんしまいたちが一緒いっしょ街道かいどうあるいているのをつけた。

彼女かのじょたちは灯火ともしびじり屋台通やたいどおりを楽しげにめぐっており、どうやらそのにぎやかな雰囲気ふんいきせられたらしい。

妲己ダッキたちも、まったく……」

彼女かのじょたちの楽しそうな表情ひょうじょうていると、不思議ふしぎわたし口元くちもともわずかにゆるんでいた。

「いいじゃない。たまにはおもいきりばさせてあげるのも大切たいせつよ。」

緹雅(ティア)のその言葉ことばは、同時どうじわたしけた忠告ちゅうこくでもあった。あまり自分じぶんおも負担ふたんけすぎるな、とっているのだ。

「いや、そういう意味いみじゃないんだ……」

わたしかるくびりながら、もう一度いちどまちほうろした。

彼女かのじょたちがあんなふうにわらっているのは、あまりたことがなくてね。あの笑顔えがおていると……まるで自分じぶん子供こどもなに心配しんぱいせずあそんでいる姿すがた見守みまもっているみたいで、がつけばこちらまでいやされてしまうんだ。」

「ふうん……あなたらしいかたね。」

緹雅(ティア)ちいさくはならしながらそううと、くるりとひるがえしてベッドのふちこしろした。そのこえには、わずかなからかいのひびきがじっていた。

「やっぱり、あなたがいそうなことだわ。」



わたしわらいながらくびり、なにおうとした。だがそのとき緹雅(ティア)はふいにベッドのそばあるり、指先ゆびさきかる手招てまねきして、こちらへるよう合図あいずした。

わたしがベッドのそばまでちかづくと、彼女かのじょ両手りょうてでそっとわたしほおつつんだ。そして、ためらいもなくかるくちづけをとした。

そのかたあたたかくやわらかく、一瞬いっしゅんのうちに、わたしあたまにあった計画けいかく分析ぶんせきをすべてわすれさせてしまうほどだった。

「やっぱり……おやすみまえには、キスしないとねむれないわね。」

緹雅(ティア)小声こごえでそうささやいた。ほおはわずかにあかまり、そのこえにはすこしだけ悪戯いたずらっぽい満足感まんぞくかんじっている。

つぎ瞬間しゅんかん彼女かのじょはくるりとひるがえし、そのまま布団ふとんなかもぐんだ。まるでねこまるくなるようにせ、ほどなくしてよるしずけさにむようにねむりにちていった。

まどそとでは、なおも人声ひとごえひびき、灯火ともしびまばゆまちらしている。

わたしはただしずかにベッドのそばくし、さきほどのくちづけの余温よおんと、むねおくひろがるおだやかな安心あんしんやわらかな感情かんじょうを、しばらくのあいだしずかにあじわっていた。



わたし椅子いすこしろし、旅店りょてん受付うけつけれた黒糖檸檬冬瓜茶こくとうレモンとうがんちゃはいったカップった。

ひんやりとしたもののどすべち、ほのかな酸味さんみ甘味あまみじり余韻よいんのこしながら、すこしだけあたまえさせてくれる。

カップふちには、つめたい凝結ぎょうけつ水滴すいてきがいくつかのこっており、わたしゆびかるまわすたびに、しずかにすべちていった。

わたしつくえうえかれた一冊いっさつのノートへ視線しせんとす。

それは、この世界せかいてから整理せいりつづけている記録きろく帳面ちょうめんだった。

ここ最近さいきんわたし自分じぶん把握はあくできるかぎりの情報じょうほうを、そこにびっしりとめてきた。

もっとも、いまのところられている情報じょうほうは、まだ断片だんぺんてきりになっており、はっきりとした筋道すじみちえていない。

それでもわたしかっている。

この混沌こんとんなかから――やがてかならず、ひとつの明確めいかく輪郭りんかくかびがってくるはずだ。



「もしかすると……のち神明かみたちと会談かいだんすれば、いくつかの疑問ぎもんがはっきりするかもしれない……」

わたしはそうひとごとのようにつぶやいた。

だが、この「もしかすると」という言葉ことばは、まだあまりにも曖昧あいまいだった。結局けっきょくのところ、わたし自身じしんにも確信かくしんてない。

おおくのこと実験じっけんおなじだ。大胆だいたん仮説かせつて、そこからひとひと検証けんしょうしていくしかない。幾重いくえもの仮説かせつ試探したんかさねながら、すこしずつ真実しんじつちかづいていくのだ。

――もし、わたしたちの転移てんいが、黒棺神こくかんしん関係かんけいしているのだとしたら?

では、なぜわたしたちなのか。

このかんがえは、これがはじめてではない。何度なんどあたまかんではいるが、どうしても完全かんぜん整理せいりすることができない。

この世界せかいと、わたしがかつてあそんでいたあのゲームは、おそろしいほど似通にかよっている。

職業体系しょくぎょうたいけい能力設定のうりょくせってい、さらにはいくつかの武器ぶきいたるまで――どれもが、ゲームの内容ないよう不気味ぶきみなほどかさなっているのだ。

わたしは、それがたんなる偶然ぐうぜんだとは、とてもおもえなかった。




わたしなやませているものは、まだほかにもある――あのこえだ。

わたしがこの世界せかい転移てんいした瞬間しゅんかん耳元みみもとには途切とぎ途切とぎれのこえ何度なんどひびいていた。

「……かれらをまもれ。」

そのこえは、どこかとてもおぼえのあるひびきをっていた。

だが、どうしてもおもせない。それがだれこえだったのか、どこでいたのか――まったくつかめないのだ。

その曖昧あいまい既視感きしかんは、ひどく苛立いらだたしい。

まるでゆめなかつかみかけた手掛てがかりが、指先ゆびさきれる直前ちょくぜんで、するりとすべちていくような感覚かんかくだった。

この言葉ことば意味いみも、わたしにはどうしても理解りかいできない。

まるで――だれかが、わたしにそれをげることをのぞんでいるかのようだった。

だが、「かれら」とはだれなのか。

そして、その役目やくめわたしたくしたのは、いったいだれなのか。

それは、まるで記憶きおく断片だんぺんのようだった。

しかし、いまわたしには、その全体像ぜんたいぞうのぞむことすらできない。

このことは、まだだれにもはなしていない。

それでもわたしひそかに、そのこえ断片だんぺんをつなぎわせ、完全かんぜんかたちへともど方法ほうほうさがつづけていた。



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