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恋愛編 (2)


7



翌日の月曜日、学校で昼休みに同じクラスの坂東由香里が声をかけてきた。

坂東由香里はかなりの美形で背も高い。特に目が特徴的でこぼれそうなほど大きな瞳を輝かせて聞いてきた。

「きのう素敵な人とイタリアンのお店から出てくるところ見かけちゃったんだけど、あの人むるの彼氏?」

ほう、ようやく効果があったな。羨ましかろうよ。

「うーん。残念ながらバイト先の人」

ここは面倒を避けて正直に申告しとこう。

「バイトって、人生相談のとこだよね」

由香里は覚えていたようだね。

「うん、まあね。はざまさんは経理担当。商学部卒で公認会計士の資格もあるよ」

うわー個人情報大放出だ。ヤベ。

「え、頭いいのね。でもなんでその資格もっていて人生相談所に勤めてるの?」

いやー、そこは説明がいろいろ難しいな。

「なんでだろうね?」

質問に質問で返して誤魔化す最低の作戦。

「むる仲良さそうだよね?」

「んー。仲が良いというか、んー。ただお話してたんだけどね」

「でも、職場で話せないことだよね」

「んー」

由香里は頭がいいんだよね。鋭すぎてこっちの頭が回らない。

「まあ、いいじゃん」

また、誤魔化した。八起先生、自分は見つめていますよ、相手に上手く対応はできてませんが…

「うちがそこに相談に行ったらそのはざまさんに相談にのってもらえるの?」

由香里のでかい目が怖い。

「いやー、まだ見習いにもなってないと思うし、さっき言ったけど経理担当だからさ」

「だめかな?」

圧が凄いよ。

「まずさ、何でそういう展開になったのか教えてよ」

わたしは前に突き出した両手を広げて由香里の侵入を防ぐように圧をかけた。

「うちさあ、気になっちゃったんだよね。そのはざまさんて人。ちょっと話してみたい」

一目惚れか?マジか?

「んじゃーさ、今日バイト行くから八起先生に、これこれこういう子がいるって聞いてみるよ」

まあ、仕方なかろう。聞くよマジで。

「本当!お願い!よろしくね」

坂東由香里はくるりと髪をなびかせて振り向き、素敵な残り香を後に去って行った。

後に残されたわたしはちょっとだけ思案に暮れた。


「へえ」

八起先生の反応はいつもそんなところ。

「多分目的もお悩み相談かどうかもわからないんです」

わたしは正直に伝えた。

「いいんじゃね」

「え?」

絶対遊ぶ気だな。

「あの…」

間さんも慌ててる。

「マジンも本当は相談受けたかったんじゃねーの?」

八起先生はとても軽い。

「いえ。そんなことはまだ考えていません」

間さん硬いなあ。

「まだってことは、いずれはしてみたいという含みが読み取れるぞ」

八起先生完全に遊んでるな。

「花の女子高生だろ?」

「まあ、わたしのクラスメイトですから」

「3000円でいいよ」

八起先生がのたまわった。1/3以下かよ。でも、そんなもんか。

「わかりました。ありがとうございます」

わたしは一応頭を下げた。まあ、下げる必要はないよね、ほんとは。下げるなら由香里じゃん。

「そうだな」

えっ?顔を上げると八起先生がにやついて頷いていた。

「その子に貸しができたと思いな」

「あ、はい」

マジで怖いよこのおっさん。ぜってえわたしの心読んだわ今。


翌日学校で待ち構えていた由香里にその旨を伝えると、小躍りせんばかりに喜んだ。LINEで伝えても良かったんだけど、直接会って注意もしとこうと思ったまで。

「3000円で何回でも行っていいのね。凄いね」

由香里の目はこぼれ落ちたかもしれない。

「うん。一応そうだけど毎日来る人とかはまずいないよ。その辺は節度を持ってね」

良い香りを辺りに振りまきながら坂東由香里は何度も頷いた。


『お気持ち相談室』にはパーテーションで区切られた3つのブースがある。お客さんの気持ちが安定しない時は休んでもらって八起やおき先生は別のブースで相談にのる。ブースには簡易ベットが置いてあるから横になって休んでもらうことも出来る。

今日は50代の女性が八起先生と話していてさめざめと泣いて気持ちはスッキリしたんだけど、体から力が抜けたのでベッドで横になって休んでもらっていた。

もう一つのブースで八起先生がこれまた50代の女性の話を聞いている時に、坂東由香里が訪れた。予め演劇部の部活終わりに来ると言っていたのではざまさんには夜7時に来ると伝えてあった。

「こんばんは」

登場するだけで空気を変える雰囲気をもつ坂東由香里がドアを開けて入って来た。相変わらず綺麗だなあ。

間仁はざまじんです。坂東由香里さんですね。お待ちしていました」

間さんが由香里を出迎えると、由香里の目がきらきらと昔の少女マンガの主人公のように煌めいた。

「はじめまして、間仁さん。坂東由香里です。よろしくお願いします」

間さんは由香里を一つだけ空いているブースに誘って少しクッションの付いた丸椅子に座らせると、自分も同じく椅子に腰を落ち着けた。

わたしは2人の視界に入らない位置からこっそり覗いた。

「今日はどうしました?」

初めての割には間さん落ち着いてるな。

「最近あまり眠れなくて困っています」

「お悩みが?」

「はい。ちょっと言いにくいんですけど、誰かに見張られてるような気がして」

「誰かが由香里さんを監視していた?」

由香里は困ったような顔で俯いた。

「はっきり顔を確認できてはいないんです」

「男性ですか?」

「たぶん」

「もし何かをされていたら警察に相談した方が良いかもしれませんね」

間さん。それはまさしくその通りだけどね、由香里はわざわざここに相談に来たんだよ。

「変なものが届くとか電話があるとかはないんです。部活の帰り途中までは2人で帰宅してるんですけど、途中からは1人で、その時につけられているというか、視線のようなものを感じるんです」

間さんが右手の人差し指を顎にあてた。

「今日、ここに来るときはどうでした?」

由香里はまっすぐ間さんを見た。

「今日も感じたんです。足音も聞こえました」

間さんは指で顎をゆっくりなぞってる。

「なるほど。それは怖いですね」

由香里は大きな瞳で間さんを見つめ続けてる。あんな美人に見つめられて動じない間さんはちょっと凄いというか、鈍いのかな。

「警察は実害が生じないと動きません。明日わたしが下校時間に学校に行ってみてもいいですか?」

「えっ!いいんですか!?」

坂東由香里の顔がぱっと明るくなり、より可愛く綺麗に見えた。いいよな美人は。

「ちょっと八起先生に話をしてきます」

間さんがそう言って立ち上がろうとしたところへ、

「いいよ。行ってこい」

と八起先生の声が隣のブースから聞こえた。

「わかりました」

間さんが先生に向けて返事をした。

いやあ、これは凄いことになったなあ。当然わたしも行くぞ!


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