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恋愛編 (1)

6


駅前にあるバーガー店の前で立っているはざまさんもなかなかカッコいい。わたしはたまに間さんと外で会って話をする。理由は間さんが話をしたがるからだ。間さんには八起やおき先生の話がよく分からないらしい。だからわたしに質問をしてくる。直接先生に聞けばいいのに恥ずかしいらしい。社会人男性が女子高生を誘うのはわりと問題だけど、うちらは職場の仲間だし、お互いにその気はないので問題はない。まあ、八起先生風に言うと、他人の気持ちは分からないから確かなことじゃないけど。

わたしにとっても利点はある。イケメンとのデート(違うけど)は、周りの目を気にするお年頃のわたしにとってはちょっと鼻高々。結構振り返ったり間さんをガン見する女の人を見掛ける。そういう時は気分がいい。

わたしは待ち合わせ場所に少し遅れていく。それは作戦のひとつで、間さんとわたしとの関係にちょっとした上下関係があることを間さんに知らしめるためだ。間さんがわたしに会いたがっていることを確認してもらうため。もちろん、彼が私の思いどおりに考えているとは思っていないけど、作戦を仕掛けることに意味がある。

「ごめんなさい。待ちました?」

わざと甘ったれた声を出したわたしに

「いや、そんなでもないよ」

と待っていたことを肯定する間さん。可愛い。

「今日何食べます?ここのハンバーガーでもいいですよ」

「いや」間さんが私を見つめてる。「パスタはどうかな?」イケメンだなあ。

「ああ、いいですね。パスタにしましょう」

頷いた間さんはスタスタ歩き出した。わたしはふざけて腕を組みたいのを必死にこらえて後に続いた。


店内は落ち着いた雰囲気でレストランと言うよりはビストロ的な感じだ。向かい側に座ってるはざまさんが私を見つめてる。

「谷口さんは八起先生の話が難しく感じないと言ってるよね」

「むるって呼んでください。仕事じゃないし、デートっぽくしたいんで」

「え?デート?」

間さんの両目が大きく見開かれた。

「っぽくって言いましたよ。女子は楽しみたいんです」

困った顔の間さん。おもろ。

「むるさんはどうして八起先生の話がわかるのかな?」

「呼び捨て!」

間さんをからかうのは楽しい。申し訳ないけど。

「えっ?!」

間さんには毎回のように呼び捨てにしてと要求してるのに滅多にそうしてくれない。

わたしが少し唇を尖らしてると

「むるはどうしてわかるのかな?」

と聞いてきた。よしよし。

「八起先生は普通のこと、当たり前のことしか言ってないんです。でも当たり前すぎて、みんな考えていないけど、とても自分にとって大切なことに気づいてないんですよ。わたしも先生に言われるまで全然気が付きませんでしたよ」

「人は自分の気持ちを大事にしてる。

人の気持ちは分からない。

善悪はない。

共通認識はない。

人は自分中心にしか考えられない。

思い込みを利用することで願望が実現する。

こんな感じだよね」

間さんが真剣なまなざしで私を見つめている。

「そうです。お客さんに話すときに、よくそういう言葉を使ってますね」

「先生はこういった言葉を使ってお客さんに何かを気づかせて問題を解決してるよね」

「んー。時間がかかる人も多いですけどね。でもみんな『 あーっ』とか言って気づいてちょっとスッキリしてますね」

「『 共通認識はない』んなら話をし辛いと思うんだけどな。お互いの認識が違うんだから、物事について相互に確認しながらでないと話が進まなくなるんじゃないかと思うんだけど、そんなこともないんだよね」

間さんが顔を曇らせている。

「人は主観でしか物事を見られないので、お互いの認識は違うはずで、結局照らし合わせても一致しないんですよね。思い込んだまま話すしかないんですよ。だから『 人の気持ちは分からない』んです」

間さんは細かく頷いた。

「むるは本当によく理解してるんだな」

「間さんもよく理解してるから先生の言葉を覚えてるんじゃ?」

違うと思ってるけど、可哀想だから嘘をついちゃった。

「おれは先生の言葉を、念仏やお題目みたいに唱えることは出来ても本当の意味が分かっていないよ。

さっきの話の続きだけど、人は主観でしか相手のことを見られない。共通認識はない。相手の気持ちは分からない。これではまともな話はできないよね」

「そうですね」

間さんの言いたいこともわかる気はする。

「でも、だから人と関わると面白いんですよ。共通認識がないから互いに発見がある。意外性を感じる。人との関わりで自分の思い込みや先入観もよく見えますしね。

人と同調したがったり、承認欲求が強かったりするのが人間で、それらをどう捉えるかで生き方も変わっていくって先生はいつも言ってますよね。

人を変えることは難しい。自分を変えることすら難しいのに。人を変えようとする行為は無意味だ。でも自分は変えられる。

人によく思われたいという欲求があって、その相手の望むことをしたとしても、他人が自分を良く思ってくれるかどうかは絶対に分からないわけで、意味がないんですよ。

社会には、相手に気にいられるように行動することを推奨する傾向がありますけど、難しいし、出来ませんよね、そんなこと。

本来、人は自己中心的にしか考えられないんです。相手のことはどう足掻いてもわからないんです。

先生は作戦と言ってますよね。相手の気持ちを操作する作戦。善悪とかは関係なく、作戦。行動したら相手にどう見えるかは作戦だって。ミッションです。

人は意識的にも無意識的にもこの作戦を積極的にとっている。無気力に見える人も、積極的に無気力さをアピールしているって。

相手に自分をどう見せるかは人にとってとても重要な作戦だって。それを意識しているか、無意識にやってしまってるかで自分を見つめられているかがわかるって」

「お待たせしました」

店員さんがパスタを運んできてくれたのでわたしは話をやめた。話し過ぎたことを後悔しながら。

「本当にむるは凄いなあ。ちゃんと理解してるんだね。勉強になるよ。ありがとう」

間さんがしみじみとした感じを与える演出でわたしに伝えた。本人は演出していることには気づいてなさそうだけど。

わたしと間さんはしばし無言でパスタを味わった。わたしはカルボナーラ。間さんはボロネーゼ。結局変な話に終始してデート気分も薄くなっちゃったな。


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