第1巻・第1章「幼少期」
第1章・第1部
目を開けた瞬間、まぶしい光が目に飛び込んできた。
うわっ、眩しっ! どうやら、まだ生きているらしい。……ちょっと残念だけど。
数秒後、ようやく目が慣れてきた。目の前には血まみれのマスクをつけた医者と……もう二人の人物が立っていた。残念ながら、名前はまだ分からない。一人は筋肉質で、頬骨が目立つ、黒髪に無精ひげを生やした男。そして、もう一人は……なんと言えばいいのか……明るい銅色の髪をした、とても魅力的な女性だった。それに……とても大きな目をしている。
だが、問題はまだ解決していない。いったいこの人たちは誰なんだ?
もしかして、あの女の子の両親だろうか? でも、あの子は金髪だったし、この二人は見たところ二十歳を少し過ぎたくらいだ。血のつながった親じゃないのかもしれない。
まあ、何にせよ、報酬はもらえるんだよな? こっちは命懸けだったんだから。
周囲を見回してみると、建物全体が木でできていた。光源といえば、蝋燭と妙なランプくらいだ。いくら無料の病院だとしても、これはひどすぎないか! どうやら、電気すら通っていないらしい!
いや、むしろ神に見捨てられたような田舎の村にある民家にしか見えない……。こんな建物、俺の住んでいた街では一度も見たことがない。そもそも、どうして普通の病院じゃなくて、こんなところに運ばれたんだ?
もしかして、あの人たち、お金がないのか? それなら報酬なんて夢のまた夢だな。
医者が何やら聞き取れないことを口にすると、みんな心配そうに俺を見つめ始めた。女性は泣くのを必死にこらえているようで、男のほうは申し訳なさそうな顔で彼女を見ていた。
……これは、どういう意味だ?
待てよ。まさか……俺が死んだと思われているのか!?
このままじゃ生き埋めにされるぞ!!
「おい! 俺はまだ生きてるぞ!」と伝えようとしたが、口から出たのは甲高い叫び声だけだった。
デジャヴを感じた。
この叫び声、腕の骨を折ったときに出した声とよく似ている。
すると、彼らの表情が一変し、安堵の色に変わった。女性は嬉しさのあまり泣き出し、男は俺を軽々と抱き上げて何やら叫び始めた。
心配してくれたのは嬉しいけど……俺たち、そもそも知り合いですらないよな!?
逃げ出そうとしたが、体は思うように動かなかった。まあ、トラックに轢かれたんだから当然か。とりあえず、自分の体を確認しないと……。
幸い、部屋には鏡があった。どうやら、そこまで貧乏というわけでもないらしい……。
鏡を覗き込むと、そこには誰かに抱きかかえられた子供の姿が映っていた。
恐る恐る自分の手を見てみる。ぷくぷくとしていて、信じられないほど小さい。……でも、どうして?
待てよ。まさか、俺が考えている通りなのか?
彼らの会話を聞き取ろうとしたが、何も分からなかった。知らない言語だったのだ……。
もしかして、これは全部夢なのか? 死ぬ間際に見る夢とか、あるいは今もまだ昏睡状態なのかもしれない。
試しに自分の頬をつねってみた。
痛かった……。
なら、夢じゃないとしたら、これはいったい何なんだ?
答えは自然と浮かび上がってきた。ただ、俺はそれを認めたくなかっただけだ。
まさか、本当に俺は……。
第1章・第2部
あれから約三か月が経った。
あの……小さな女の子を助けて、巨大なトラックに轢かれたあの日から。おかげで、なぜか分からないが、どこか別の場所に転生してしまったらしい……。
だが、嬉しい知らせもある。覚えているだろうか? あの二人の男女のことだ。どうやら、彼らは俺の両親だったらしい。そして、ようやく二人の名前も分かった。
これがなかなか大変だった。というのも、二人はよく「愛しい人」とか「あなた」とか、若いカップルが互いに使うような、聞いているこっちが恥ずかしくなる甘ったるい言葉を口にしていたからだ。最初は、それが二人の名前なのかと思っていた。……少し恥ずかしい。
だが、口論しているときに何度も同じ言葉を繰り返していることに気づき、それが名前なのではないかと考えた。そうして、二人の名前はロイとアンナだと判断した。まあ、実際は違う名前かもしれないけどな。
そして、今でも彼らが何語を話しているのか分からない。日本語と英語を混ぜ合わせたような言語に聞こえる。
だから、俺の最初の目標は、この言語を理解して、彼らが何を話しているのか知ることだ。
今のところ、あまり上手くいっていないけど……それでも頑張るつもりだ!
とはいえ、一日の大半はベビーベッドで寝転がっているだけなんだけどな。
アンナはいつも家にいるが、ロイはというと、森や沼地をあちこちうろついていて、何をしているのかさっぱり分からない。いったい、あそこで何をしているんだろう?
ロイは帰ってくるたびに、いろんな種類の硬貨を山ほどテーブルに置いていく。アンナは少しロイに文句を言うものの、結局そのお金は受け取る。そして、俺も一緒にそのお金を使うのを手伝っている。
アンナはよく俺を連れて街へ出かける。村から歩いて二時間ほどのところにある街だ。そこで食料品や化粧品など、いろいろな女性用品を買っている。
そのおかげで、この世界のお金についても分かってきた。
石貨一枚が一円、銅貨が十円ほど、鉄貨が百円、銀貨が千円、白金貨が一万円、そして金貨が十万円だ。
金貨についてはあまり自信がない。見たのは一度だけで、犯罪者が衛兵に賄賂を渡していたときだった。そのとき、アンナが俺の耳元で何かを囁いた。
おそらく、「あんな人たちみたいになっちゃ駄目よ。悪い人たちなんだから」とか、子供が盗賊や犯罪者にならないように親が言い聞かせるようなことだろう。
まあ、それはともかく……俺はこの世界の言葉を理解するより先に、経済事情を知ってしまったらしい。面白い話だ。
え? どうやってここが異世界だと分かったのかって?
考えてみれば、俺が思っているほど難しいことじゃなかった。
まず一つ目。ここには電気がない。もちろん、ものすごく辺鄙な村だからという可能性もある。だが、車すら一台も見当たらない。
二つ目は、当然ながら通貨だ。それに、見たこともない植物や道具。
そして三つ目。これが一番分かりやすいのだが、この世界にはエルフや獣人、ドワーフなど、さまざまな種族がそこら中にいる。俺の両親は、どうやらごく普通の人間らしいけどな。
まあ、今の俺にとって、それよりも気になることがある。
この世界には魔法があるのか?
そう、俺が気になっているのはそれだけだ。だって、そうでもなければ、どうして俺が前世の記憶を保ったまま転生できたのか説明がつかない。
そういえば、ロイがよく森に出かけると言ったのを覚えているだろうか?
言い忘れていたが、彼はいつも血まみれで、深い切り傷を負って帰ってくる。ところが、翌日になると傷はすっかり消えていて、傷跡すら残っていない。
だから、俺には二つの可能性があると思っている。一つは、この世界の人間の体にはそういう特性があるということ。もう一つは……魔法だ。
ちなみに、俺はロイとアンナに、自分が異世界人だということを話さないと決めている。そんなことを言ったら、二人を悲しませてしまうかもしれない。俺はそれが嫌なのだ。
二人は俺を大切にしてくれるし、前世の両親と比べれば、ずっと良い親だと思う……。
とはいえ、二人にも欠点はある。
アンナだ。
彼女はいつも自分の胸で俺に授乳しようとして、俺の顔に押しつけてくる。だが、十分ほど経つと諦めて、哺乳瓶を渡してくれる。毎日これの繰り返しだ。
正直に言うと、この女性には少しイライラさせられている。
そして、当然ながら授乳に失敗すると、アンナはロイを呼んで、俺のことを愚痴っているらしい。
「もう! うちの子ったら、また私のおっぱいを飲んでくれないの! どうしたらいいのかしら! せっかく二十歳で産んだのに、もう、ああだこうだ……」
正直、ちょっと鬱陶しい。
まあ、二人がどうしてそんな反応をするのかは分かる。まだ若いから、子供との接し方が分からないのだろう。
でも、二人を手伝ってくれる人はいないのだろうか?
俺としては、おばあちゃんやおじいちゃん、おじさん、あるいは家族ぐるみの友人に会ってみたい。例えば、誰かが俺と一緒に遊んでくれたりしたら嬉しいんだけどな。
そうすれば、俺も退屈せずに済むし、二人もようやく休めるだろう。
まあ、きっと誰かは顔を見せに来てくれるはずだ。
第1章・第3部
さらに三か月が経った。
この世界に来てから、もう半年ほどになる。なかなか順調に成長できていると思う。少しずつ彼らの言葉も理解できるようになってきたし、ついにハイハイもできるようになった。
そして、ハイハイを覚えた途端、わずか三日ほどで家中をひっくり返してしまった。そのせいで、アンナはいつも俺を探し回る羽目になっていた。
ちなみに、どうやら俺の名前はヴィックらしい。あまり独創的な名前ではないけど、文句はない。もっとひどい名前だった可能性だってあるからな。
あ、それから……神様たちに感謝だ! ついに俺の祈りが通じたらしい。ようやく両親以外の人間に会えたのだ!
二人のことはもちろん好きだ。俺を大切にしてくれるし、一日に三回も食事を与えてくれる。だが、毎日同じ顔ばかり見ていると、さすがに退屈になってくる。俺はこう見えて、かなり好奇心旺盛な人間なのだ!
さて、今日、ロイと一緒に見知らぬ口ひげのおじさんがやって来た。身長はだいたい百五十五から百六十センチくらいだろうか。
興味はあったが、正直、最初は少し警戒していた。新しい人に会えて嬉しいとはいえ、あまり信用できそうな雰囲気ではなかったのだ。
見た目は三十歳くらいで、少なくともロイよりは年上に見えた。そして、どうやらこの人は俺のおじさんらしい。
ただ……ロイとはまったく似ていない。
いや、本当に冗談じゃない。外見も性格も、何一つ似ていないのだ。もしかして血のつながりがないのか? それとも、父親か母親が違うのだろうか?
よく分からない。
とはいえ、このおじさんは意外にも優しい人だった。ただ、かなり不器用ではある。
あるとき、俺を上に放り投げてから受け止めようとしたのだが、少し失敗してしまい、俺は額から床に激突した。
アンナはその後、四十分ほど彼を叱り続けていた。
まあ、悪気があったわけではないのは分かっていたので、俺は怒っていない。
それから、おじさんはロイと一緒に、俺の部屋へベッドやタンスなどの家具を運び込んでくれた。
二人が作業を終えると、俺はすぐさま専門家としての検査を開始し、家具を一つ一つ調べてみた。……まあ、すぐに見つかってベビーベッドに戻されてしまったけどな。
ただ、気になっただけなのに……。
とにかく、その口ひげの知らないおじさんの名前はガレンというらしい。俺はどうにも人の名前を覚えるのが苦手だ。
彼は騎士団に所属していて、どうやらロイも以前はそこに所属していたらしい。
騎士団とは何なのか、気になるだろう?
簡単に言えば、汗臭い男たちが、そそり立つ剣を持ち寄る場所らしい……と説明された。
なるほど。どうやら仲間内だけのゲイクラブのようだ。
もちろん、ロイとガレンの好みや、男同士の熱い友情を否定するつもりはない。
それはともかく、結局、彼が何のために訪ねてきたのかは分からなかった。まあ、ロイとアンナに子供が生まれたことを祝うためだけに来たのだろう、と推測している。
実際、そのお祝いに宴まで開かれた。
だが、残念なことに、彼は六日ほど滞在した後、帰ってしまった。
第1章・第4部
おじさんが帰ってから二週間が経った。
最初は警戒していたけど、今では彼がいなくなって寂しい。
俺は人に懐くのが早い。もしかすると、かなり早いほうなのかもしれない。まあ、単純に退屈なだけという可能性もあるけど……。
外で何か面白いことでも起きていないだろうか?
どうにかしてテーブルによじ登り、窓の外を覗いてみた。
見えたのは森と、家の庭、それから近くにある数軒の家だけだった。
何か面白いものがないかと外を眺めていると、森の中からロイが姿を現した。
彼は全身血まみれで、数人の男たちに担がれるようにして家まで運ばれてきた。アンナはすぐに彼らのもとへ駆け寄った。
こういうことは以前にもあった。だが、今回は腕がほとんど食いちぎられたような状態で戻ってきた。
男たちはロイを家の中へ運び込み、アンナは何やら祈りのような言葉を唱え始めた。
「慈悲の女神よ、私に御加護を授け、この子を再び立ち上がらせてください。ヒーリング!」
俺は半信半疑で彼女を見ていた。
本当に、そんなことで治ると思っているのだろうか……。
次の瞬間、まばゆい光が部屋全体を照らした。
その光は、俺が転生したときに見たものとよく似ていた。反射的に目を細める。数秒後、光は消えた。
恐る恐る目を開けてみると、ロイの腕は完全に治っていた。血もすっかり消えていて、まるで傷口に吸い込まれていったかのようだった。そして、食いちぎられた部分にも、少しずつ肉が戻り始め、傷が塞がっていった。
正直、見ていて気持ちのいいものではなかった。
だが、これはいったい……まさか……まさか!?
「魔法だああああ!」
この世界に魔法が存在する可能性は考えていた。そうでなければ、どうして俺が前世の記憶を保ったまま転生できたのか説明できないからだ。
それでも、実際に目の当たりにすると、やはり嬉しくなる!
これは絶対に勉強しなければ!
そのとき、俺はもう一つ奇妙なことに気づいた。
自分でもどうしてなのか分からないが、俺は初めて言葉を口にしていたのだ。
以前から何度か話そうとしていたものの、出せるのはほんの数音節だけだった。どうやら、あの頃はまだ声帯が十分に発達していなかったらしい。
その場にいた全員が一斉に俺を見た。
アンナは、今のロイがどんな状態なのかも忘れたように、彼の体を揺さぶりながら言った。
「あなた、聞いた!? ヴィックが喋ったのよ! まだ一歳にもなっていないのに、もう話せるなんて!」
ロイはまだ痛そうだった。
忘れてはいけない。ついさっきまで、彼の腕は食いちぎられかけていたのだ。傷もまだ完全には治っていない。
彼は少し苛立ったような声で言った。
「たった一言だろ。そんなに大騒ぎするな」
そう言いながらも、その顔には得意げな笑みが浮かんでいた。
まるで、こう言っているかのように。
『みんな見たか? これが俺の息子だ!』
まあ、その気持ちは分かる。何しろ、俺自身も誇らしい気分だったのだから。
この世界での、俺の初めての言葉だ!
俺は何度も何度もその言葉を繰り返した。だが、さすがにそれが続くとみんなも少しうんざりしてきたらしく、アンナは俺に別の言葉を教え始めた。
実際、話そうと思えば話せたのだが、俺は何も言わないことにした。
なぜなら、俺はまだ胸の件を根に持っていたからだ。
そう、これは一種の仕返しである。
ところで、胸といえば……。
アンナの胸に、何か奇妙なものがあることに気づいた。
これは……タトゥーだろうか?
彼女はそれを恥ずかしがっているのか、いつも隠している。だが、俺からすれば、なかなか格好いいデザインだった。
剣がドラゴンの頭を貫いている……。
ドラゴンか……。
どうやら、この世界にはドラゴンがいるらしい。あるいは、こちらの世界でも神話上の生き物なのだろうか。
とにかく、俺はそれから数か月間、アンナの前では一言も話さなかった。
もっとも、誰にも知られないように、こっそり新しい言葉を覚えたり、発音を練習したりはしていたけどな。
第1章・第5部
さらに二年が経った!
俺はようやく歩けるようになり、普通に会話もできるようになった。まだよく転んでしまうけど、それでも俺にとっては大きな進歩だった。
一方、アンナにとっては大きな問題だったらしい。
というのも、俺はいつも彼女の後をついて回り、魔法を教えてほしいとせがんでいたからだ。
「ヴィック、いい子だから。あなたはまだ小さいでしょう? もう少し大きくなったら教えてあげるわ。約束よ?」
「嫌だ! 今すぐ教えて!」
「分かってちょうだい。私だって喜んで教えてあげたいけど、あなたのマナはまだ少なすぎるし、体もまだ準備ができていないのよ」
俺たちの会話は、だいたいいつもこんな感じだった。
自分がまだ、人生というものをろくに経験していない小さなガキだということは分かっている。
でも、子供に魔法を教えるくらい、そんなに難しいことなのだろうか?
いや……まあ、仮に俺の二歳の子供が魔法を教えてくれと頼んできたら、俺ならおそらく祓魔師を呼ぶだろうけど。
そんなことを考えながら、またしても魔法を教えてほしいと頼んだとき、俺はこう言ってみた。
「分かった。じゃあ、文字を教えてよ」
ふんっ。二歳児に読み書きを教えるなんて不可能だろう。だから、きっと断られるに違いない……。
「魔法のことで私に付きまとうのをやめてくれるなら、いいわよ」
正直、これは予想外だった。
ただ俺を黙らせるために言っただけだと思っていたのだが、違ったらしい。
アンナは約束を守り、俺にアルファベットを教え始めた。
正直、家に文字の一覧表があることすら知らなかった。
それから三週間、アンナは俺に読み書きと算数を教えてくれた。
正直、俺に必要だったのはアルファベットだけだったのだが。
それに、この言語自体がかなり簡単で分かりやすかった。文字は覚えやすいし、単語も難しくない。
むしろ、今まで見てきた中で一番簡単な言語だ。
この世界の人間の大半が読み書きできないということに、俺はとても驚いている。
まあ、これならすぐに覚えられるだろう。
そうしたら、またアンナに魔法を教えてほしいと頼むことにしよう。




