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鷲羽国物語 〜異世界救済2 救済されない世界の話  作者: たかなしコとり


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23/30

その23 覚悟

子供はどうした、と聞いたら、奥でお昼寝しています、と返事が来た。

ベッドを覗いてエシルは、目を丸くした。

「ちょっとの間に大きくなったな!」

うふふ、とタニアは笑った。その笑顔に絆される。

「目が離せなくて大変なんです。」

「そうか。元気そうで何よりだ。」


暖炉の前の椅子に座って、タニアを膝の上に乗せる。せめてこれぐらいは許されるだろう。

「タニア。」

「はい。」

「家を継ぐことになった。」

「はい。」

「ここで一緒に暮らすことは出来ない。」

「はい。そうだろうと思っていました。」


タニアはとっくに覚悟していた。

それを見て、エシルはため息をつく。

「せめてお前が領都にいるなら、俺も安心なんだが。」

「また大雪が降ったら、来られますわ。」


エシルは笑い出した。

このどこまで本気なんだか分からないところも、心をとらえて離さない。

「お前以外に俺の妻はいない。お前と離れているのは辛すぎる。毎日お前の事を考えている。」

「私も毎日、エシル様の事を考えていますわ。」

「本当に?」


ふふっとタニアは笑う。柔らかい尻が膝の上で揺れて、エシルは下腹に力を入れる。

このまま抱いてしまいたいが、一度理性が飛んだら、多分もう今日中には領都に帰れまい。


気を逸らそうと、部屋の方に目をやる。

元診療所だったこの家は、造りが若干変わっている。


通常、この規模の民家には暖炉は一つだが、おそらく診察室だったのだろう、入り口ドアがある方の小さい部屋に一つ、今いる奥の部屋の方にも一つある。

暖炉は、使わない時はしっかり塞いでおかないと、冬など超絶寒い。とても燃費が悪くなる。


キッチンなど生活のメインは奥の部屋にある。間にあったと思われるドアは取り払ってあるので、余計に寒く使いづらい。だからこそ借り手もなく、タダで住まわせてもらっているのだろう。


「誰か手伝いに寄越そうか?口の堅い女中を選んで。」

エシルが言い出すのを、タニアはきっぱり遮った。

「いけません。」

エルデム将軍家と繋がりがある事は、何一つしてはならない。


エシルはため息をついた。

「ここに一人で置いておきたくない。変な男が寄ってきそうで嫌だ。」

「エシル様に敵う男の人なんか、いません。」

彼女の頬が赤くなるのを、エシルは嬉しく見やる。

「でも女一人では、押し込まれた時に反撃出来ない。」

「大丈夫。昔、サディナ様と一緒に、剣術を習った事もあります。ほら。」

壁の隅に、おそらく相当長い間、放っておかれたであろう長剣が、灰掻き棒と一緒に置いてあった。


ふと目をやると、窓から雪が少し小止みになったのが見えた。

「雪が。」

「そうだな。」

時間はあまりない。剣の手入れはまた次回だ。


「きっとまた来る。でもいつとは約束出来ない。」

前に新月の夜に来ようとして、断念した事がある。

星明かりで来れるほど道に通じてはいなかったので、迷ったのだ。

「お待ちしています。」

もう一度タニアを抱き締めて、膝から降ろす。懐から、銀貨の入った袋を出した。


「これで美味い物でも食え。」

「あの、最近は繕い物のお仕事を頂いたりしていますし、前にお預かりしたお金もまだ」

「いいから。」

エシルは、タニアの手の中にそれを押し込む。


「お前と子供が腹一杯食えていると思わなくては、心配で気が気でない。いいか、次に会うまでに、もう一貫目ぐらいは太れよ。」

「そんなに太ったら、服が全部入らなくなってしまいます。」

タニアは楽しそうにふふっと笑った。


エシルは外套を羽織った。白ウサギの毛皮で出来ている。普通の鹿革や牛革の外套に比べて、手に入りにくく滅多に見ない。

メルトの手配で手に入れた。もちろん監視の目を眩ますためだ。


「信用出来る誰かを、連絡係にしても良いか?」

聞かれて、タニアは言葉に詰まる。

「近所のパン屋はどうだ。何かこちらから知らせがある時は言付ける。」

「それなら、町に住んでいるシオンというお医者様にして下さいませ。ここの大家さんなんです。」

「うむ。了解した。」


雪はまだ降り続いている。

軒下につないでいた馬を引き出して来た。

「次にいらっしゃるまでに、馬車小屋を直しておきますわね。」

タニアが裏手を指した。

雪と木でよく見えないが、何か建物があるらしい。


タニアを抱き寄せて口付ける。

「愛している。タニア。」

「私もですわ。」

タニアの囁くような声に、エシルは抱き寄せた手をなかなか離せない。


西の空が少し明るくなって来た。

「エシル様。」

「分かっている。」

やっと手を離すと、エシルは馬に跨った。


「なるべく早く戻る。」

「お気を付けて。」

「お前もな。」


一度救済しちゃったので、元々の筋から話が迷走しています。。どこへ行くんでしょうか…

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