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鷲羽国物語 〜異世界救済2 救済されない世界の話  作者: たかなしコとり


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その21 悪だくみ


雪が舞い始めた。

タニアと再会してから一ヶ月。監視の目をかいくぐる事が出来ないでいる。


その間に、エルデム軍に復帰の手続きが取られた。

元の小隊はもうイルスが隊長になっているし、違う隊の、また無役からの出発だ。


当然、詰め所への往復にも監視がついてくる。軍人なら、そんな所で何やってるんだと追い返す事も出来ただろうが、王太子の私兵なので、どうしようもない。


妹のサディナにも会いに行った。

親の勧めの通り何処かの将軍家の息子と結婚してりゃ、世話はなかったのに、と自分の事は棚に上げて、文句の一つも言ってやろうと思っていたが、実際に顔を合わせると、両親が渋々でも許したのが分かった。

妹は、二児の母になっていた。


「いや、二人?計算合わなくねぇ?」

庭を走り回る、どう見ても三歳か四歳の男の子に、まだハイハイも出来ない娘を抱っこしたサディナは、笑い出した。

「あの子は、うちの夫の兄の子よ。」


しかしその兄夫婦は、馬車の事故で亡くなった。遺された男の子を、サディナ夫妻が引き取り、実子として育てているらしい。

エシルは絶句した。

サディナはまだ十八だ。他に養子のあてはなかったのか。

「お前、本当にいいのか?それで。」


「いいに決まってるでしょ。とってもいい子なの。」

サディナは幸せそうに笑った。

この彼女の気風の良さと、懐の深さは、祖母譲りなのかも知れない。


「まぁ、お前がいいなら、いいか。」

そう言うしかない。


次に会いに行ったのは、幼馴染のメルトだった。

家はちょっと離れているが、小さい頃からよく行き来している。

武術も一緒に習った。


「大隊長かぁ。」

普段は、東の国境近くの城砦にいるメルトだが、年末になって王都に戻って来ている。

年始には、貴族三十六侯が全員顔を合わせて、新年の祝いを国王へ述べるという行事がある。余程の事がない限り、この時期の王都は貴族だらけだ。


「ま、あんなの半分ズルだって。」

ほとんど赤に見える濃いブロンドの髪の青年は、だんだん積もる雪を窓から見やった。

「箔をつけるのに、金を積んで負けてもらうんだよ。」

「えー。」


特に将軍家の子息は、一回戦負けでは面目が立たないので、そこそこ弱そうな相手と組むように操作して何回か戦い、ほど良き所で負ける、という仕組みになっているらしい。

ただ上位百人ほどになると、本気で強いらしい。彼らは昇進を目指しているので、金では動かない。


「で、お前はどうなんだ。」

「うちの兄貴にコテンパンにやられたよ。まあ、上から十六位には入った。」

その兄貴も、父親に負けたらしい。

「それで大隊長か。案外、楽勝だな。」

「参加してない奴が何を言う。」


メルトは、肩をそびやかした。

「それで?今度はどんな悪だくみだ。」

「人聞きの悪い。ちょっとした相談だって。」

「ふーん?」

焼き菓子を薄い果実酒で流し込む。そして、部屋の隅に控えている侍従を追っ払った。


「まあ、大体分かってる。あの娘を探しに行きたいんだな?それで翡翠の君の監視を振り切りたい。そんな所だろう。」

エシルはぽかんと口を開けた。

「なんで。すげぇ。」

「なんで、じゃない。お前が分かりやすすぎる。」


メルトは窓の外を指差した。

「あれな。王太子の近衛の服だ。ずっとあそこに立っている。お前の監視だろう。つまり翡翠の君はお前があの娘の居場所を知っていると思って、後を追けている。」

門の向こうに立っている男が見える。


「翡翠の君もバカだよな。見えないように尾行するならまだしも、あんな風にあからさまに監視したら、お前も動きようがないだろ。」

エシルはホッとして、肩の力を抜いた。全部説明しなくても、分かってくれている友がいるのは心強い。

「そうなんだ。どうしたらいい?」

「タニアの居場所は分かっているのか。」

「ああ。」

「お前は目立つからなぁ。直接動くのは難しい。あっちを連れてくる方が早いんだが。」


「それは・・出来ない。王都に戻るのを嫌がっているんだ。」

「ふうん。」

メルトはあごを触って考える。


監視は城門が閉まったら、いなくなる。

夜のうちに往復出来るかとメルトが聞いた。

「片道が馬で二刻半。替えの馬を用意できなきゃ四刻はかかる。」

「結構距離あるな。夜のうちに往復は苦しいか。」


うーん、とメルトは考える。

「せめてもう少し近くに連れてこられないのか。」

「だから、どうやって。俺が行けるなら苦労はない。他の者に居場所を明かしたら、タニアに怒られる。」

「あー。」

幼馴染のメルトは、タニアの事もよく知っている。エシルがどれぐらいタニアにべた惚れなのかも。


「難しいな。まぁ何とかならなくもない。」

「どうやって?」

「とにかく、出て行く所と、帰って来る所を見られなければ良いわけだ。」

メルトはにやりと笑った。


「あ、なるほど?」

エシルも思わずにっと笑う。

それは学問所時代、散々悪巧みを繰り返した二人組の、今も変わらない姿だった。


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