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鷲羽国物語 〜異世界救済2 救済されない世界の話  作者: たかなしコとり


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20/30

その20 監視

国王から解放されて厩に回ると、会いたくない人物がいた。

黒髪の王太子。

陰気な青年だ。そもそもそんなに好きでもなかったが、タニアを取られたと思うから、余計に嫌いだ。顔を見ると怒りが腹の底から湧いてくる。


しかしまぁ、俺で上書きしてやったからな。ザマミロ。


一応、軍人として礼をして、通り過ぎるのを待つ。

しかし王太子はまっすぐにエシルに向かって来た。

「貴様は、タニアの居場所を知っているな?」

一瞬バレたかと思ったが、顔には出さない。どうせ当てずっぽうだ。


「知りません。」

「嘘つけ。ではあの荷物は何だ。」

ここまで引いて来た馬は、荷物を乗せたまま放って置かれて、不貞腐れていた。

「ああ。あれは」


エシルは、今朝一生懸命積んだ荷物を、全て捨てる決心をする。

「南の国境辺りをウロウロしていたら、熊に襲われたのです。そこに運よく狩人が通りかかって助けてもらったので、その礼です。」


「そんな都合のいい話を誰が信じる。」

翡翠の君という名前の元になった緑の瞳で、エシルを睨みつける。

誰が恐れ入ったりするものか。

エシルは鼻で笑いそうになる。


「信じなくても結構です。」

絶対に教えない。

並みの身長の王太子は、少なくとも頭一つは背の高いエシルに見下ろされて、やや怯む。

「証明しろ。」

「何をですか?」

「この荷物がタニアの物ではないということをだ。」


「いいですよ。」

エシルがあっさり言ったので、王太子はぐっと言葉に詰まった。そして

「いつ届けに行くんだ。今からか。」

「もう今日は無理ですから。明日、出直します。」

あの爺さんに、たっぷり贈り物をしてやる。さぞ喜ぶだろう。


「本当に、タニアじゃないんだな?」

「違います。」

エシルは言い切った後、小声で付け足した。

「他人んちの侍女を見初めて強引に連れて行ったくせに、二年そこそこで追い出すなんて、どうなってるんすかね。そのくせ、いまだにご執心とは。」


いつも顔色の悪い王太子の顔に、カッと血の色が昇る。

「私を侮辱するのか。」

「なんか聞こえましたか。空耳では?」

うそぶくエシルに、王太子は秀麗な顔をゆがめて舌打ちした。


「貴様には監視をつけるからな。」

それはちょっとやばい。

エシルの顔色がわずかに変わったのを、翡翠の君は見やった。

「なんだ、まずいことでもあるのか。」

「いいえ。面倒くせぇと思っただけで。」


でもまずい。

本当に監視をつけられては、タニアのところに行くことができない。

ちょっと煽りすぎたか。しかし言いたい事はまだまだある。相手が王太子でなけりゃ、胸ぐら掴んでぶっ飛ばしたいぐらいだ。


もう一度王太子が舌打ちして、去っていくと、エシルは不満そうな馬を、なだめながら引き起こした。

さて、どうするか。


翌朝、もう少し荷物を減らして、別の馬に積み込む。爺さんはどうせ一人暮らしだし、干し肉は売るほどある。

監視がつくとか言っていたが、それは本気のようだった。

屋敷を出たら、後ろからついてくる気配がある。


今日は荷物も少ないし、夜明け前に出立して、夜明けには城門を抜けた。

ああ。昨日あんなに欲張らなければ、今頃すんなりタニアの所に行けていたのに。


馬を速歩で走らせ、途中四泊して見覚えのある村に辿り着く。

その間、監視の者もつかず離れずついてくる。鬱陶しい。


懐かしいボロ小屋を訪ねると、今まさに老狩人が、井戸端で鹿の毛皮を剥いでいる所だった。

「爺さん。」


老狩人は驚いて立ち上がる。

「おお。お前さんか。」

「ちょっと助けてくれ。何も言わずにこれを貰ってくれ。」


馬の荷を指し示す。

老人は不思議そうな顔をしたが、すぐ頷いた。

「使っちまってもいいんだな?」

「無論だ。」

「ありがたく貰っとくよ。」


二度と来ないつもりだった小屋の中に、荷物を運び込む。

チーズや塩、マントなどの古着。鉈と砥石。弓弦と鏃。


鞍袋からガサガサと出して、老人に示した。

「しばらく周りを人がウロウロするかもしれないが、放っておけばいなくなるから。ちっと我慢してくれ。」

「なんかやったのか。」

「何もしてねぇよ。人を匿ってると疑われているだけだ。」


老人は戸口から顔を出して、少し離れた所に馬を立てている二人連れを見つけた。

「儂は普通にしていていいんだな?」

「頼む。」

「ちぃとあいつらをからかってやってもいいぞ。」

「好きにしてくれ。」


エシルが帰った後、監視は二手に分かれ、一人は老狩人をしばらく見張っていたが、山のような荷物を持った老人が山の中を徘徊するのを、死にものぐるいで追いかける羽目になった。

もう少しで遭難する所を、当の老狩人に助けられたということである。


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