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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第三章 合い食む餓狼

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20343 やりたいから


 後世の歴史家にいわせれば、クフ王は矛盾した存在である。

 ヘロドトスの『歴史』によれぱ、彼は邪悪で利己的な暴君であり、しかしエジプトの伝承によれば苛烈ながら慈悲も持ち合わせた名君である。


 こんな逸話がある。


 ある時、クフ王の前に魔法使いが招かれた。魔法使いは『斬首された首を元に戻す魔法』が使えると聞き、クフ王は罪人の首を斬るので元に戻してみよと命令する。

 しかし、魔法使いはどうかやめてくださいと懇願(こんがん)した。


 罪人とはいえども、その命を弄ぶのは王として間違ってはしないか?

 魔法使いごときに王道とは何たるかを(さと)され……しかしクフ王は命令を撤回した。


 この時代の王神では、逸話の残っている者の方が少ない。

 それはつまりクフ王は確かな理知を持ち、道徳観と慈悲の心を兼ね備えていたという証左である。

 

 逆に言うと、ギリシアの歴史家たちから蛇蝎(だかつ)のように嫌われている点からは、何らかの作為を感じざるをえない。

 例えばクフ王がギリシアにとって何らかなの不利益な事実を有しており、意図的に貶めたような……。


 もちろん、すべては遠い過去の話。

 現代の人間にはその理由など想像するより他はなく…………。





「ぐあぁぁぁぁッッ!!!!」


 焼け焦げた『天空の間』に響く苦痛の悲鳴、【女王(イシス)】は心地よい音楽のように満足そうに耳を澄ました。


「もう一本いっとくか? あぁ?」

「ぐうぅぅぅぅ〜ッッ!!?」

「門浦様、やりすぎですよ……あなた、早く喋らないと」


 門浦と巴静の拷問はシンプルなものだった。敗北し【武器】を奪われた(ばん)は、自らの武器で片足を折られた。

 【防具】が無ければ切断されていた。腕を拘束され、門浦は蛮の折れた足を狙って暴行を加えていた。


「反逆者どもはあと何人だ? 【武器】は? 早く言えよ、そしたらこれを刺してやる」

「ぐ、うぐぐ……誰が、言うかよバーカ」


 かんざし……神崎の【武器】をプラプラさせる門浦。毒塗りのかんざしを傷の近くに刺して、麻酔の代わりにしようというのだ。

 そして、暴力を振るう門浦とたしなめる静という飴と鞭。痛みから逃れるために、蛮はいずれ静を頼るだろう。と思われていたが。


「ったく、こいつは痛みで喋らねえタイプだな? 仕方ねえ……おいクソガキ、財布持ってるか?」

「…………は?」

「身分証なら何でもいいぜ、生徒証とか」


 蛮は無意識で胸元に手を当てた。生徒証ならいつも胸ポケットに……。


「てめえは喋らない。マジで敬服するぜ。よく我慢しやがる。……俺の負けだ。もう聞かん」


 門浦は肩をすくめた。蛮は警戒する。安心させて? それで何を言うつもりだ。


「だがムカつく。このムカつきはテメエの家族で晴らしてやるよ。現代でも俺は王様でなあ? 好きに使える女もたくさんいる」


 蛮は戦慄した。顔を向けると静も心なしか青ざめている。


「父親は痴漢冤罪と未成年淫行とどっちがいい? なんにせよ人生おしまいだ。姉妹はいるか? 母親は? 全部俺様の女にして、風俗に沈めてやんよ」

「てめぇ……」


 突然、現実とこちら側が地続きになった…………だが、もしもここで蛮が口を割ったとして、脅迫されない理由がどこにある?


「か、門浦様……」

「ぐへへ、安心しやがれよ静ぁ。お前は見ない振りをしてるだけでいい。そしたら手は出さないでやる」

「…………ッ」


 やはりこの女性も脅されているのだ。蛮は痛みに耐えながら考えた。


「お姉さん、脅されてるんならまだ間に合うだろ! 『こっち』に来い! 【ドラゴン】を殺す側に!」

「そ、そ、そんなことできるかぁ!」


 静が警棒を振り下ろす。目から火花が出る。頭が割れそうに痛い。というか割れた。血が噴き出る。

 蛮は考える。今必要なのは耐えることだ。耐えて、我慢して、時間を稼ぐことだ。


 ここに門浦を釘付けにしてある限り、クフがこの塔を崩せば蛮たちの勝ちだ。


「お前はこの方の恐ろしさを分かっていない! 逆らったらどんな目に遭わされるか!!」


 顔面を殴られ、口が切れる。先程までなだめ役だった彼女の錯乱(さくらん)に、その恐怖が染み付いたものだと(うかが)える。


「ならお姉さんは、自分と愛する人の人生が、このデブの気まぐれ一つで左右するのを許すつもりかよ!!」

「黙れ黙れ黙れ!!」


 鼻をぶん殴られて鼻血が吹き出す。目の上が腫れ上がり片目が塞がる。


「愛なぁ? ガキらしい青臭くて無意味な言葉だぜ。もしかしてお前、自分が正義の味方のつもりか? 誰かと仲良くやれるつもりか?」


 髪を掴まれ、門浦のニヤけた笑いが向けられた。反吐が出る。蛮は血の混じった唾を吐きかけた。


「あたりめーだろタコ」

「んな訳がねーんだよ……俺も、お前も、『殺し奪うだけの魂』なんだぜ? 同じ穴のムジナだ。相手を殺して奪うしかできねーんだよ!」


 門浦の頬に張り付いた唾は静がぬぐった。逆に唾を吐きかけられ、頬に伝う不愉快さに蛮は眉をひそめた。


「違う」

「何が違う」

「俺たちは『殺し奪うだけの才能』があるかもしれない。だが違え!」


 例えば、蛮は子供が欲しい。自分の遺伝子を分け合い、愛する人との子供が欲しい。

 女の子には少しもモテないけれど。それとこれとは話が違う。子供と、モテは、無関係だ。


「やりたいことと出来ることが同じなら楽だろうよ! 俺は愛することを諦めないし、正義の味方になれるもんならなってやる! 『できるから』じゃねーだろ!! 『やりたいから』だ!

 てめーは違うのかよ!! 『できるから』国を奪って無茶苦茶やらかしてんのか!? 『やりたいから』だろうが!!」


 門浦が反論を呑み込む。違うはずがない。女を食い物にしているのも、暴君として君臨しているのも、全部『やりたいから』だ。


「…………ぐっ」


 二の句を継げない門浦。こんな脳まで筋肉でできてそうなガキに言いくるめられるとは……!


「くっ、くくく……いやはや、全く……」


 飛び込んできた笑い声に、その場の全員の視線が入り口に向く。

 血まみれのグレーのブレザー、麗しいかんばせ、剃刀(かみそり)のような瞳。


 笛吹(うすい)冷火(れいか)が、『天空の間』に到達した。


「時々、お前には驚かされるよ。蛮」



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