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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第三章 合い食む餓狼

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20342 もはやこの地に神など要らず


「ご……ごめ……足、ガクガクで……」

「誰か、神崎に着るものを!」


 戦いが終わってから震えが止まらない神崎。ひどいケガをした。下手したら殺されていた。そして、殺した。

 ヘラヘラと笑いながらポロポロと涙を流しているのも、精神を守るための反応だろう。


「む、む、むこうで殺しをした時は……こ、こんなにはなんなかったんだけど……」

「毒殺と殺し合いは違う。助かったよ神崎さん」


 全裸でガタガタ震える神崎に、兵士たちが駆け寄り、布を肩から被せる。

 笛吹(うすい)にとどめをさされたマツの顔にも、一人が布をかけた。


「客人、これを」

「あんた……門番の?」

「カドゥーラのやり方に疑問はあれど、逆らうのが恐ろしかった。特に、マツに怯えていた兵は多い」


 笛吹を通した門番の一人だ。渡された清潔な布で左腋から肩にかけての傷を縛る。笛吹は【防具】を解除していた。【超治癒】で、少しでも体力を回復させたかった。

 差し出された水袋もありがたく頂く。少し生臭い水だが無いよりマシだし、もしも毒が盛られていても【義体】には通用しない。


 失われた血液と体力の補充に、食べ物も欲しい所だが、贅沢は言えまい。

 笛吹の【ドラゴン】探知能力は、倒すべき【ドラゴン】が未だに二匹とも健在だと告げている。


「神崎さん、オレは【ドラゴン】を殺す」

「はぁ……はぁ……。笛吹さん、これ」


 トンファーを差し出す神崎、笛吹は(かぶり)を振った。


「オレたちが全滅したら後は頼む。さっきみたいにな」

「…………じゃあせめて、これを持っていって」


 長さ四寸、最低限の装飾のついたかんざしだ。


「それと、長月さんからの情報が…………」







 爆発が起きたのは門番だった男に案内を頼んだ直後だった。高い塔の一番上で火の手が上がり、煙が立ち上る。


「佐香か」

「て、『天空の間』です。『女王』陛下の居室が……!」


 笛吹は察した。不測の事態……例えば、宍戸の裏切りを見抜かれていて、偽情報を掴まされたとか。それによって(ばん)と佐香たちが分断されたのだ。

 戦力が不足していたとはいえ……配置ミスが悔やまれる。


 笛吹は、笛吹だけが【ドラゴン】の位置を探知できる。しかし笛吹以外ではマツの相手は難しかった。

 【ドラゴン】二匹、ほぼ同じ位置…………健在。


 佐香の自爆で、倒すことはできなかったようだ。どうする? 決まっている。

 笛吹は走り出した。それでも少からず傷は与えたと信じたい。佐香の代わりに、笛吹が引導を渡してやる。


 だだっ広い宮殿、左肩がひどく痛む。それ以外の両手や顔に負った無数の傷は、まあ我慢ができた。しかし、普通に考えると十分な大怪我だった。腋から肩を貫かれ、もはや腕は使い物にならない。


 マツの剣は素早かった。その剣は鋭かった。どれだけうまく捌いても、かわしても、細かい傷は無数にあった。

 …………ここでいう『細かい』は『致命傷ではない』という意味である。


 両腕に十箇所以上の防御創、首に二箇所、頬肉はえぐれて左耳は千切れかけ、額の血が止まったのは僥倖(ぎょうこう)だった。目に血が入ると戦いにならない。

 鏡がないからと言ってしまえばそれまでだが、実は笛吹自身が自分の傷の具合をよく分かっていた。


 満身創痍(そうい)である。


 左肩の血は止まる気配がなく、動かすこともままならない。右だったら何もできなかったな。笛吹は自分の幸運を喜んだ。

 そういう点で、忸怩(じくじ)たるものあれど門浦はガッツがある。


 『前回』彼は右腕を失った状態で走り回っていた。戦力としてはおまけ程度だったが、機を見るに敏だった。

 川魚と、名前は知らないがトゲトゲ棍棒の大男に命令し、自分の欲望を満たそうとしていた。


 奴の失敗は、復讐と欲望のために立つべき場所を間違えた点だろう。

 …………まあ、人のことは言えないか。笛吹は自嘲する。


 朝練の終わり、シャワーの最中に召喚され、山中で最初に(ばん)に遭遇し、パニックから彼を殺した。

 出会った人の好い少年を拒絶し、マツと決闘で命を奪い、一人で【ドラゴン】を殺そうと躍起になって……。


 何もかもうまく行かずに、共闘できそうな人たちを失って。

 すり寄ってきた略奪者を、八つ当たり気味に叩きのめして。


 思い直せば馬鹿なことばかりだった。

 そして今回も…………後悔してももう遅いが、それでも『もっとうまくやれた』という想いは消えない。


「ウスイさん!」

「……クフか」

「クフ様!?」


 『天空の間』の階下では一人の少年が、みすぼらしい服を着た……しかし内側からあふれる高貴さが隠しきれない美しい人物が何かを行っていた。

 …………壁に向かって集中し、石を抜いている?


 笛吹は薄く笑った。

 なんてことをしているんだ。


「佐香の指示か?」

「いいえ……サカさんは、僕を逃がして…………これはバンさんの指示です。僕に塔を崩すことを頼んで、上に行きました」


 状況は大体理解した。やはり分断され、そして……蛮は一人で足止めに行き、未だ【ドラゴン】は健在。


 ならぱ笛吹が取るべき行動は明白だった。


「クソ、完全に戦力の逐次投入による各個撃破のパターンだ。普通なら逃げるべきだ」

「…………はい」


「だが、蛮にしてはナイスアイデアだ。オレが時間を稼ぐ…………クフ、【ドラゴン】を、いや」


 クフが戦うべき相手は違う。笛吹は少年の肩を抱き寄せ、激励するように背中を叩いた。


「神がいるべきは地上ではない。神なき国を作ってやれ」



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