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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第三章 合い食む餓狼

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20344 二対三


「てめぇ……笛吹(うすい)

「久しぶりだな門浦さん。あんたが堀さん相手に数に頼って手も足も出なかった時以来かな」

「あぁン……ッ!?」


 門浦の額に青筋が浮かぶ。屈辱は忘れない男だ。門浦は『前回』笛吹に馬鹿にされたのを忘れていない。


「う、笛吹……すまねえ! 俺は……っ!」


 笛吹は蛮の惨状を一瞥(いちべつ)し、馬鹿にするように鼻を鳴らした。


「蛮、クレープ食ったことあるか?」

「…………は? あるけど?」

「オレはない。次の休みに外出許可証もらって食いに行くぞ、お前の奢りで」


 蛮は言葉をなくした。それは、ただの許しではない……え? あれ? もしかして……デートの約束をした!?


「何でもいいが、ひどい怪我だな? 血まみれじゃねーか? それで俺に勝てるつもりかよ?」

「マツに勝ってきたのに、あんたに負けるわけには行かないな」


 門浦と静が慄然とする。マツに……あの不屈の剣士に、勝ったというのか?

 笛吹は悠然と状況を楽しむイシスを一瞥(いちべつ)、鼻で笑う。


「余裕だな【ドラゴン】。オレはお前も殺しに来たぞ?」

「怖い顔しちゃって……でもお姉ちゃん、私はただの器、【(ドラゴン)】の力を、【王神(パルアー)】に【神権(ホル)】を与えるだけなの。弱くて無力な子供なのよ?」


 意味不明の専門用語を並べられ、しかし笛吹は鼻で笑った。イシスの言い分など聞く耳持たないとでも言うように。


「誰がお姉ちゃんだ?」

「え?」「え?」「…………笛吹、てめえ女か?」


 笛吹の男装は、ここまで完璧だった。特殊な目を持つ長月や、女への嗅覚に優れたテッサが見抜いたのみ。

 それを一目で見抜く存在は只者ではない。少なくとも、弱くて無力な子供ではない。


「というわけだ。抵抗しろ【ドラゴン】」

定命(じょうみょう)のクセにナマイキな【客人(ディシディアン)】ね、カドゥーラお兄ちゃん、やっちゃって!」


 実際に、戦う力は持たないのだろう。威嚇(いかく)こそすれ、身構えすらしないイシス。だが警戒心は笛吹に向いていた。

 笛吹は門浦と静を見比べた。門浦は明らかに腰が引けている。長月の言が正しければ門浦は笛吹より強い。しかし完全に気圧(けお)されていた。


 門浦は……純粋な戦士ではない。略奪者としては、暴君としては超一流だ。しかし戦士としては三流だった。

 それ故に、『前回』の戦場で見かけた『超一流』への畏怖(いふ)が彼の脳裏に刻まれている。


 堀と八角。あの二人には何人いても勝てる気がしない。

 え? 腕を飛ばしたモア? あれは油断。メスガキが強いはずないし。


 とにかく、眼の前に立ち皮肉な笑みを浮かべる笛吹は、この男だか女だかわからない美貌の剣士は、その八角と対等に打ち合った。

 棒と片手剣でだ。武器の長さ、身長も腕の長さもハンデにならない。


「静ぁ!! 確実に殺すぞ! 薙刀使えっ!!」

「えっ? は、はい!」


 困惑する静。彼女は笛吹の剣を見たことがない。今目の前にいるのは、明らかに出血多量で今にも倒れそうな、舌鋒(ぜっぽう)だけの小娘だ。

 支配の象徴として、あるいは反逆を許さない証として奪われたままだった【武器】を返すほどの敵なのか?


「クソが……巌野はどうしてやがる……」

「ん? うちのリーダーが足止めしてるんだ。来るわけがない」

「…………リーダー?」


 長月だ。笛吹は神埼から概要だけ聞いていた。長月の助言で、(こおり)の戦いがあって、マツを討ち取ったことも知っていた。

 そして、狂気の芸術家巌野によって、長月がどんな目に合わされるかも。


「これで二対二だな」

「はぁ? この足の折れたガキを数にふくめんのか?」


 蛮が目を見開く、腕は後ろ手に縛られ芋虫のようにしか這えないというのに。笛吹は。


「ああ、そちらさんを入れ忘れていた。二対三だ」

「…………」


 不機嫌そのものの顔で睨むイシス。話をしている間に、静は薙刀と羽織袴、女武者らしい鉢金入りの鉢巻や胴当てなどの【防具】を、門浦も海賊衣装にバスタードソードを装備していた。

 対して【武器】も【防具】も用意しない笛吹。【狩人】戦のセオリーを完全に無視。


「待て、あんた……『前回』二日目に、【鹿角(かづの)】の【ボス】と戦ったか?」

「…………?」


 笛吹が見咎めたのは静の武器である。


「何の話?」

「違うならいい、安心して殺せる」


 『前回』、長巻を持つ長良を目前で死なせた笛吹だ。目前に立つのが彼女ではないと聞いて安心した。

 笛吹が右手を振る。粒子が輝きレイピアが召喚される。ジリジリと距離を詰める静と門浦。



 銀星が尾を引き流れる!



 恐ろしく素早い踏み込み、門浦が反応する暇を与えず。

 切先は暴君の頸動脈を切断、『天空の間』を鮮血がまだらに染めた。



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