戦闘後、侯爵城での夜の前に
帝国軍との激戦から、赤炎島には勝利の歓声と、安堵の空気が満ちていた。侯爵城では、キラ、ティア、ゼノン、カイルが侯爵に招かれ、労いの席が設けられた。
侯爵城につくと、ティアはソフィアに連れられ、ヴェスタの部屋へと案内された。
「さあ、ティアさん、こちらへ」
そう優しく声をかけてくれたのは、ゼノンの妻、ソフィアだった。
侯爵夫人はヴェスタが幼い頃に亡くなっている。ティアが侯爵城で萎縮しないようにとの配慮もあってソフィアがティアとソフィアの手伝いをしに一緒に来ていたのだった。
ヴェスタの部屋に案内されたティアは、そこに並べられた豪華な衣装に目を丸くする。
「ティア、これを着てくれ」
ヴェスタが差し出したのは、白から水色へとグラデーションになった、柔らかな素材を前で合わせて帯を巻いて固定するスタイルのドレスで、赤炎島の身分の高い女性が晩餐で着るドレスだった。
ティアは戸惑い、遠慮するように首を振る。
「いいから、遠慮するな。私はあまり着ないし、もらってくれると嬉しい」
ヴェスタが少しだけ顔をしかめ、真剣な眼差しでティアを見つめた。
「あの遺跡で、ティアの力を疑ってしまった。むしろ、みんなを危険にさらしたのは私だったのに。あの時の詫びの品だと思って、受け取ってほしい」
「でも、そのことはちゃんと謝ってもらったじゃないですか…!」
ティアがそう言うと、ヴェスタは困ったように微笑んで言った。
「じゃあ、足りないが、島を守ったお礼にしてくれ」
その言葉に、ティアはこれ以上断ることができず、そっとドレスを受け取った。
ヴェスタのドレスを借りるティア。
ヴェスタはあまり着ないから、今後のためにティアにくれると言う。
こんな素敵なドレスもらえないと慌てるティアだけれど、ヴェスタは遺跡でのお詫びの品にして欲しいと言う。
「あの時ちゃんと謝ってもらったじゃないですか!」
「じゃあ、足りないが、お礼にしてくれ。」
ソフィアが声をかけ、ヴェスタを優しく諭す。
「ヴェスタ様。素敵なドレスを、一度も袖を通さずにクローゼットにしまいこんでいてはいけませんわ。訓練だけでなく、淑女としても学ぶことはたくさんありますのよ」
「はい…」
ソフィアの言葉に、ヴェスタは申し訳なさそうに力無く笑う。
カイルの幼馴染でもあるヴェスタは、侯爵夫人が亡くなってからソフィアを母親のように慕ってきた。ソフィアもできる限りの愛情を与え、理解しようと努めてきた。
こうしてみると、戦闘では勇ましかったヴェスタも、普通の女の子なのだとティアは思った。赤いドレスに身を包んだヴェスタは、どこか窮屈そうだった。
ソフィアがそっと声をかける。
「ヴェスタ様、今夜はお父様とゆっくりお話ししてください」
「…あぁ、そうする」
ヴェスタは、静かに頷いた。彼女の表情には、少しの不安と父親の愛情への少しの期待がこもっているように見えた。
「さぁ二人とも、今夜はとっても素敵ですよ!今日は気楽に楽しんでいらっしゃいね。」




