第八話:感覚が麻痺してきたようです。
「アダムス・ハンマー!!!!」
……『美人は三日で見飽きる』なんていうふざけた言葉があるが、現象としては、それに近いことだろうか。
こいつらの滅茶苦茶な強さも、三日も見れば、だいぶに慣れてきた。
認識できないほど過ぎたモノを隣にすると、どうやら人間、感覚が麻痺して感じるものも少なくなってくるようだ。もう最近では『太陽を覆うヒクイドリ』やら、『ゾウの肉体を持つ首長狼』やら、いま目の前にいる、『岩に覆われた身体持つ巨大ゴリラ』にも、恐怖心が働かなくなっていた。崖から見下ろした地の一面にとぐろを巻く、鰐の口持つ巨大蛇を目にした時が、ピークだったな。
「おわっ……! 殴られて、思いきり岩壁に叩きつけられてるのに……無傷、だよね、アレ」
「凄いですよねー。アダムスさん、生まれてこのかた、怪我というものを負ったことがないんですって。擦り傷とかも負ってませんねー、筋肉って凄いんですね」
「あらぁ、私の出る幕がなくなってしまいますわねぇ」
ああそうですか。
心の内でのツッコミも、もうそこそこに済ませるようになった。肉体隆々の建造物みたいな度し難い見目の巨体ゴリラと、ゴリラを濃縮したようなゴリラの人間を横目にしながら、『収納』から取り出した地図を確かめる。
「アダムス・インパクト!!!!」
魔族の支配下に置かれる前の地形地図ではあるが、道の景観が変わることはあっても、距離が変わることがないだろう。見るに、東の地への【境界】は一日目の時点でとうに超えていたが、そも所在も不明である目的の地は、それでもまだ明らかに遠くであることが分かる。
まだまだ旅は序盤。
まあ、しかし、危険への不安は今のところほとんど無いし、食料の心配も問題ない。真っ先に憂慮すべき難点がストレスフリーであるという意味では順調である、私にもまだ、余裕があった。……それにしても、三日目にして、もう野外での生活に順応し始めている自分がいることは、恐ろしい話でもあったが……。
「アダムス――――ビックバン!!!!」
人間、『諦めた』ときに『慣れる』ものだ。
こいつらといると、一日で現状に慣れてしまう。
「ラァアア――!!!!」
岩石の砕け散る凄まじい轟音が響き渡った。
「――いや、すまなかった、待たせてしまったな。筋肉の試練が足りていなかった、バルクの機会を与えてくれたことに、感謝する。――失礼、プロテインを頂こう」
「アダムスさんは、決してカタボリックを起こさない特異体質なのでしょぉ? プロテインの摂取に意味はあるのですかぁ?」
「筋肉の『進化』のためには必要なことだ! 筋肉は、日進月歩しなければならない、それが宿命なのだ」
アレを私が運ぶことにならずによかった。
渡すたびに、額に青筋が浮いていたことだろう。
地図を『収納』空間に仕舞う。
――すると、それを視界の端にして見ていたアマリリスが、意味ありげな視線を向けてきた。……なによ?
「――いいえぇ、べつに」
腹黒の笑みを浮かべて、それだけ。
フンと鼻息をついて、休憩椅子にしていた岩から腰を上げて、また道路を歩き出す。
先ほどのアマリリスの視線。
私は歩きながら、崖から見下ろした地の一面にとぐろを巻く、鰐の口持つ巨大蛇と遭遇した、その時のことを思っていた。




