第五話 旅立ちの儀は忘却の彼方へ消えたようです。
旅立ちの儀は盛大に行われたはずだが、よく覚えていない。
これから苦楽を共にするという旅連れの有り様が、どこの時間を切り取ってもあらゆる意味であまりに絶望的だったので、逃避的な生物機能が働き、出来うる限りの記憶が抹消されたのだろう……。
こいつら、今まで、どこで何してたんだ……?
絶対、上流の人間社会で生きていけなかっただろう……。
そんな疑問も、旅立ちの準備が始まると、不安に変わっていった。
低品質なものだったからではない。この世界の粋が尽くされた、最高品質の用意備えだったからこそ、挑むとされた事の大きさに気づかされたのだ。不安が、迫ってくる――。
「マントは僅かな風にも靡くようにしてくれ! 包帯の色は、できるのなら黒が良い……! そう、それっ……――フッ……ボクに馴染むモノも……あるものだね……。あっ、私の魔力抑制眼鏡の、つるのところに、こういう文字を刻んで――いや意味とかは……」
「私の装備は、ただ筋肉を仕上げるための装備を望む。それよりも、プロテインの準備は万全だろうか? そうか、筋肉!! それだけあれば、あとは何も必要ない。筋肉さえあればいい」
…………迫った不安がどっか行って、別の不安が、大津波のように襲ってくる。
当然、私は大人数の討伐隊を要請したが、嘆願は却下された。
その理由については――いけしゃあしゃあと再び私の前に顔を見せた、あの組織課の探索士、サハルとガイルから伝えられた。
「どうか、そんな、取って食うみたいな顔をしないでください。私は一つの嘘も吐いていませんよ。――本当ですとも、討伐隊がたった五名の理由は、一つです。大人数の討伐隊編成は不可能なんですよ。そう、不可能――それはあの四名についていける人材が、この世に無いからですね。ヘタに守るべき対象を増やすのは得策ではありません、あなたという荷物運びのスペシャリストがいるのなら、あなた一人を最大の力で守れるように、人数は極力絞ったほうがいいのです。この討伐隊の編成は、あなたを守るための理想形だと理解してください」
……なんだか、まだ騙されているような気がするが。
しかし超人数の編成がどうやら通りそうにない以上、まだサハルが言ったそちらの可能性に賭けるほうが良いのかもしれない……。
「あらー、お胸がちょっと苦しいかもしれません。ちょっとだけ調整をお願いできますか? ありがとうございます。――おやー、そこのあなた、目線が『人間を無理やり豚にしたような怪物が最後の餌を求めるような目』になっていますわよぉ、ふふ」
「いいですねー、これ以上の剣は見たことがありません。あはは、私たちが道中で死んだら、伝説の剣って感じの、貴重なアイテムとして誰かに拾われるかもしれませんねー。ふふふ、ちょっと愉快な想像ですねぇ」
間違えているのか? 私は間違えているのか?
いや――もう、やるしかない。
胸に何かが詰まったような息の苦しさを感じながらも、膝を砕くような無様などもちろん晒さず、顔を上げる。
準備は――整った。
いよいよ、出立の時。




