第四話 魔王討伐パーティーはたったこれだけのようです。
――――あンの、クソ組織課の探索士がァアアアアアアアアアア!!!!
私は……私は――騙された……、騙しやがった……――!
最後の魔王討伐隊としてアルマギア邸に召集された私が見たものは、魔王討伐の旅へ赴くという胸内を弄るような不安さえ一息に吹き飛ぶ、信じ難い――信じたくもない光景だった。
「よく来てくれた、ヴィオラ・ヴァレンティア嬢。貴殿の決意には感謝しかなく――」
――というアルマギア公爵の話を、私はあり得ざるかな、視線さえ合わさず表情引き攣らせて聞いていた。
魔王討伐隊。
考えうる最強のメンバーで構成されているという一団とは、どのような荘厳なのだろうと考えていた私であったが――アルマギア公爵から紹介されてみれば、魔王討伐隊は私を含めた、たった五名から成る、ゴマ粒のような一団であった。
五名。
聞き間違いだと信じたかった。
しかし事実、私の目に映っているのは、たった四人の旅連れ。
しかもその四人というのが、揃いもそろって奇妙奇天烈な奴らだった。
一人目。
「初めまして、こんにちは。今日はいい天気ですねー。出発の日もこのような天気だといいですね。あ、私は隣国エルゼヴァントの、第三王子ですー。名前? ああ失敬、ネアとお呼びください。なんだか、十中八九殉死してしまう旅であるようですが、確実に待ち構えているであろう地獄のようにツラい道中にも負けず、頑張りましょー!」
顔だけはいい男だった。
他は全部ダメ。
遠目でも目を惹く、淡い金色の髪すら、面と向かって話しているうちになんだかキノコヘッドみたいに見えてくるくらい駄目。
なんだコイツは? おちょくってんのか? それとも寝ながら話しかけてんのか? どっちだ?
しかしこの男は一貫して、屈託のないニコニコ笑顔だった。首を傾げた仕草が腹立たしい。
こいつと何十日も旅連れ共にするとか、無理だろ。
そのように茫然となった私だったが、更なる茫然の現実は、もうすでに目の前にあった。
二人目。
「はじめまして。私は神に順ずる『聖女』、アマリリスと申します。――アラ、うふふ、あなた……なんだかお顔が、干からびた椎茸のように醜いお様になっていますわよぉ? ウフフ、せっかくそんな、綺麗な顔立ち――を普通としての、いわゆる人間的な凡より劣っている、そんなお顔つきであられるのだから、ニッコリ笑ったほうがいいですわぁ、そのほうが素敵でしょう?」
殺す。
初対面で“殺す”と思った相手は数あれど、コイツに対する殺意の感情は比して次元が異なった。
なんだコイツ。
『聖女』というのに、背からなにか、黒いモヤのようなものが、ハッキリと幻覚できるんだけれど。
なんだコイツ以外の感想が、今のところ一つも浮かばない二人をあとにして。
三人目。
「フッ。ボクには触れないほうが……いいと思うよ……。それはあらゆる意味で、僕に近づかないほうがいい……って意味で、ね。【禁忌の左目】……聞いたことがある? ない――? あ、そう。私は……セレネ。――――クク、行く末は、どこへやら……。僕はどこにいても、同じだけどね……。まあ、お互いが、失われないように、ヨロシク……。――左目が疼く……」
なんだコイツ。
気鬱な言葉を呟き続けるのは、包帯で体中ぐるぐる巻きにした、一人称の破綻した背の低い女だった。
まるで、水面鏡のような――えも言えない色合いの、水色の左目は確かに妙ではあるけれど。
それ以前にコイツ。
ガキじゃないの……。
「――――ガキじゃねぇーよ! お前いくつッ!? ――私と二つしか違わねぇじゃねぇか!!!!」
それはそれでもっとヤバいだろ。
そして、最後の一人。
四人目。
「筋肉。そう、筋肉があるから、超えてゆける。筋肉があるから、人は歩いてゆける。貴殿の名を伺ってもよろしいだろうか。――そうか、私はアダムス。貴殿は――誇らしき筋肉……というわけではないな。だが大丈夫、私は筋肉だ。つまり、この旅路は、どこまでも超えてゆけるということだ。貴殿もいつか、誇り尊き筋肉になることを期待する、共に頑張ろう!」
山々のような筋肉の隆々を、鬱陶しいほどに聳えさせた騎士だった。
明らかに筋肉のほうが、人の脳髄を乗っ取って、喋っていた。
お前が荷物持ちをやれよ。家の一軒くらいは運べるだろ。
――以上、たったそれだけが、最後の魔王討伐隊とされる、私を含めた五名だった。
アルマギア公爵のほうを、おそらく人間の皮が剥けたような目で見やる。
「さあ、それでは選ばれし勇者たちよ! 最後の希望たちよ!! 行くがよい、長き旅路の果てに、必ずや輝かしい未来が待っていることを祈る。旅路に幸いあれ! 世界の命運は、汝らの双肩に託された――今こそ旅立ちの時!」
…………あの、クソ組織課の探索士が……。
どいつも、こいつも……絶対に許さない……。
こうなったら……。
逃げる……――いや、逃げ場など、どこにもない。
ならば――もう、道は一つしかない。
…………見ていろ。
必ず、魔王討伐とやらを見届けて、皆という皆を、この世の全ての人間を見返す。
私はヴィオラ・ヴァレンティア。
ヴィオラ・ヴァレンティアの歩んだ道こそが、世のあるべき形。
私は私であるから、腹はくくった。
ヴィオラ・ヴァレンティアであるから。
魔王討伐は必ず、やり遂げる。
魔王討伐隊、『特別倉庫番』のヴィオラとして、――認めよう、私は返り咲くために、この旅をゆく。
世界は私のために廻っている!
面白いと思って頂けましたら、是非評価の程お願い致します。<(_ _)>




