第三話 魔王討伐の「荷物持ち」に選ばれたようです。
周辺地の領主たる存在であるアルマギア家から、私個人への『召集状』が届いたのは、何かの間違いであるとしか思えなかった。
用件も記されない、召集の旨だけを一方的に命ずる文に、血の引く汗が浮き出る不気味と、胸を搔き乱す不安を覚えたが……もしや私の立場を好転する何かしらが待っているのではないかと、そんな、淡い期待も抱いていた。
そして――その根拠のない期待は、とてつもなく広義に解釈したある意味で……間違いでは、なかった。
アルマギア邸で私を待っていたのは、アルマギア公ではなく、お前たちは誰なんだという、汚れた身なりの二人であった。
「こんにちは、ヴィオラ嬢。私たちは、『魔王討伐部隊』は『組織課』に属する、探索士です。私はサハル、こちらはガイル。どうぞよろしく」
砂っぽい布を外套のように纏った男は自身を指し示してから、隣の、傷だらけの顔に鉄のような無表情を湛えた若い黒髪の男を指した。
魔王討伐部隊の組織課……探索士?
そのような者が、私へ、何用で?
「さて、まずは順を追って話したいところですが、長ったらしく話しても、きっと貴方様の答えは変わるところがないでしょう。ので、用件だけ簡潔に伝えさせていただきますね」
敬意のイマイチ抜けた言葉遣いにイラっとくるこの男は、そうして、本当に単刀直入に、告げた。
「ヴィオラ・ヴァレンティア様。貴方様に、人類最後となる魔王討伐隊の一人として、魔王討伐の旅路へお加わりいただきたいとの願いがございます」
…………は?
聞き間違いでしょうか……? ……あり得ない文言が聞こえたけれど。
「精霊魔法のレオンハルト様も赴かれた、先の魔王討伐遠征については、ご存知のところでしょう。精霊魔法のレオンハルト、秘術のローゼリア、不壊盾のルイス、女神法術のエメリア、そして剣聖の獣人ルカル。あのメンバーは魔王討伐のパーティーとして最高水準でした」
私の気も慮らず、サハルは話を進め続けた。
「しかし……魔王討伐隊の一行は、予想外の要因から、壊滅してしまった……。魔王の支配域にある険しい土地を進み、度重なる攻勢を退けるうち、備蓄物資がもたなくなったのです。食糧や必要な物資は削られつづけ、そしてある時には、その多くを手放さざるを得ない場面もあったといいます。ですが、攻勢部隊の撃退には、まったく問題がなかった。戦力は十分だったんです。分かりますか? ――先の魔王討伐隊に足りなかったのは、戦う力ではない。必要だったのは旅荷を最後まで維持する力だった。もし、あの一行に一人でも、優秀な荷物持ちがいれば。そうであれば、最後まで戦い抜けたはずなんです。――荷物持ちのスペシャリストさえいれば。そして貴方様には、それができる。“収納魔法のヴィオラ様”」
はあああ???
「お上の意向としましては、次の討伐隊派遣以降、【魔王軍】とは和睦の方向で話を進めるそうです。つまりヴィオラ様、貴方様に頼みたいのは、人類最後となる魔王討伐隊の一人としての後方支援役。そうした白羽の矢が立った、そういうことです」
――――いやいやいやいやいや、はぁアァ!??
わ、私の『収納魔法』なんて、せいぜいが使用人に持たせる鞄一つぶんの容量を『収納』できる程度のものなのよ!? 馬車のほうがよほど多くの荷を運べるし――それに私が魔王討伐隊!? 考えられない……!!
「十分です。きっとお貴族様が使用人に持たせる鞄は、小さくはないでしょう? その容量が旅路で『確保』されていることが何より重要なのです。『収納魔法』なんて奇妙な魔法は希少だ、特にあなたの魔法は……いや失礼。つまりヴィオラ様、貴方様にしか頼めないことであるということです」
私が「ハイ」と頷くと思っているの!? 魔王討伐の旅路へ赴くことを……? 想像すらできないわよ……。
「レオンハルト様の無念を汲み取る意味でも、ぜひお願いしたい」
大変残念ながら、レオンハルト様の無念は遺憾ながらも、私が旅路へ赴く理由にはなり得ません。
「――失礼ながらヴィオラ様、貴方様は今現在、大変に窮した立場にあられると、話に聞き及びました」
…………ぐっ。
「もし――魔王討伐隊の一人として、功績をあげることが叶ったのなら。貴方様の立場は、窮した現状から、見果てぬ天上たるステージまで、一足飛びに――巨大なたった一歩で、駆け上がることが約束されるでしょう」
…………う、ぐっ、うぅ。
そ、そうは言っても! 私に……魔王討伐の旅など!!
「後方支援役です。あらかじめ伝えておきましょう、今回のパーティーは考えうる最強のメンバーで構成されている。そこでの貴方様の役目はたった一つ! 旅荷の保全を確保すること……! そのために必然、貴方様の立ち回りは“絶対に安全な場所で傷つくことなく無事であること”が何より求められる。故に、魔王討伐の旅路においては、守られるべくして死守される立場に収まるでしょう」
――――……うぐ、うぅう……。
「これはアルマギア公の願いであり、またその上からの願いでもあります。――天上にすら届く巨大な一歩が約束される。今の貴方様は窮して暗がりにある。決めるのは貴方様です」
言って、サハルは一枚の契約用紙を私に差し出した。
書面にはアルマギア公の名がある。署名すれば、もう撤回は利かない、社交界の力が及ぶ世界では生きてゆけない……。
…………。
現状、確かな事実として、堕ちた立場、私にここから再び駆け上がる手立ては一つもない……。窮して、暗がりにある……。
…………――私は。
私は、ヴィオラ・ヴァレンティア。
私の歩んだ道こそが、世のあるべき形
そう、私の世界に、 ヴィオラ・ヴァレンティアが不都合を背負わされるような筋書きなど、永遠――あってはならないのよ!!
「――ご英断に感謝いたします、ヴィオラ様。貴方様をお迎えできること、魔王討伐部隊一同、心より嬉しく思います」
決断をした。
あとは……なるように、なるわ。
私が望んだ道は、舗装して用意されるのよ……!
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