第十三話 最終決戦は間近であるようです。
さて、この旅もおそらく『転』の段階に踏み入ったわけだが、しかしそれを迎えて、何か展開が大きく変わるということもなかった。
緑色の瞳の人型。
人を象った肉体を持った生物が、眼にまったく意識の知を宿していないというのは、純粋に嫌な気持ちに陥り、精神を苛んだが、それぐらいだった。
魔族は怪物のような魔物を使役する能力を持ち、また自らも強力な魔法を行使して、今までとは段階の異なる攻勢で私たちを阻んだが――いかんせん、こいつら四人が強すぎた。
少数精鋭は正解だった。
守るのが私一人で済んでいるからこその、この破竹の快進だったのだろう。
また、託された役割である、自身の重要性にも気づく。
さすがにこいつらといえど、失うわけにはいかない多くの荷があれば、快進撃もここまでだっただろう。進軍速度がこの無双を成立させている、身軽であるからこそ、要所で難を躱してやり過ごす判断も自在に選べる。
休息さえも十分に確保することができた。……先遣隊は、それができずに、壊滅したのだろう。
七日……いや、八日目か。
そろそろ、あの瞳に生物の力なき魔族が暮らす、都なんかが見えてくるのかしら?
「もうその段階に来てても、おかしくないよね。フッ……魔王との邂逅も、あと僅か、か……」
「物資のほうは、まだ大丈夫そうですかぁ?」
ええ、まだ余裕があるわね。
ちゃんと計算されて用意されたのが、今となれば分かる。どうやら、最後まで持ちそうね。
……あら、また『収納』の容量が増えてる。
何か適当なモノでも入れておこうかしら。
「だから、そんな筋肉じゃないんですからぁ……。あなたは私たちを変人扱いしますけれど、あなたも大概、変ですからねぇ」
知らないわよ。
……魔王。どういった存在なのかしら。
「分かりませんけれど、なんだか強そうですよねー」
「偏見ではあるが……正しき筋肉がついていない者のように思えるな」
「フッ……ボクの左目以上に呪われていそうな存在だ……」
「癒して、救済してさしあげたいですわねぇ」
――まあ、なるようになるか。
私、休むわね……っと、今日は私が番だったかしら。
「いえ、ヴィオラさんはいてもいなくても同じなので、番は私がやっておきますよ!」
ノンデリ王子、お前、最近ずっとそうやって休んでないんじゃないの?
「まあ、正直、この中で誰が一番いらないかといえば、私ですからね。私が請け負ったほうが状況がよくなると思います」
…………。
辺りは暗くなり、周囲から生の気配が気薄になって、起きていれば悪戯に感覚が袁敏になる時間が訪れたけれど。
しばらく、なんとなし、ノンデリ王子の見張り番に付き合った。
「正直、ここまで来れるとは、思っていませんでした。先遣隊が、どうやらこのポイント以前で壊滅してしまったことを考えると、信じ難いことです。本当に正直な話をいえば、実は私は夢を見ているんじゃないかと疑ってしまう瞬間すらあるくらいです」
やけに、過ぎて現実主義的なことを言うのね。
理由があるの?
「それは、言った通り、先遣隊すら壊滅の憂き目に遭っていたからですね。――そう、知り合いがいました。剣聖の獣人ルカルです。彼はこの極東の地から落ち延びた獣人であり、先の話に挙げた難民の逃亡に手を貸した者であり、そして、私の剣の師でした。彼はどのように生まれ、彼がどのような経緯でこの地から落ち延びたのかは存じませんが、剣の腕については深く知っています。彼で駄目なら私でも駄目だろうと考えていましたが、まさか、ここまで来れるとは。あなたのおかげでしょう。ありがとう、ヴィオラさん」
……あなたも少しは休みなさい、私はもう休むわ。
「はい、ごゆっくりー」
ねえ。
「はい?」
お前にあるのは、もしかして敵討ちを果たしたい、みたいな熱意なわけ?
「いえ全然。師が亡くなってしまったのは心から残念ですが、それは運命の道筋において仕方のないことなのでしょう。ありがとう、というのは、未だ私が生きていることにおける感謝の言葉です」
……だと思った。そんなテンションであるようには思えなかったし。
おやすみ。
「はい、おやすみなさい」
……『収納』の容量が、また増幅していた。
まるで、要の戦いに向かうにおいて、研ぎ澄まされるように。
私ですらこのように感じている。きっと、他の四人も、それを感じ取っていることだろう。
最終決戦は、きっと、すぐそこ。
結末を今から予想している馬鹿は、きっと、このパーティーの中で一人もいない。
それぞれの事情を持って。私たちは、挑む。




