第十一話 何かがおかしいようです。
この辺りまで来て、ようやく私たちは、先行部隊が壊滅した理由を目の当たりにした。
「食糧や必要な物資は削られつづけ、そしてある時には、その多くを手放さざるを得ない場面もあったといいます」――なるほど。
私たちの場合、少数精鋭で進んでいるからこそ何とかなっているが、もし大部隊であった場合は比較にならない苦難に直面していたことだろう。
道幅の狭さや険しい高低差の意図的、進む者を阻む、計算された地形が目の前に広がっていた。
外との交易を介さない地だからこそできる守り……――だけれど、じゃあ魔族は、いったいどのようにして暮らしているの?
往来の痕跡を見つけたここに至っても、まともに食べられる植物すら、ほとんど見当たらないというのに。
「魔物を食べられる、とか」
「奥には広大な都が広がっているのかもしれませんね」
「プロテインは摂取できているのだろうか」
「うふふ、食料を必要としないのかも」
そも、魔族とは、どういった人種の連中なのかしら?
「先遣隊の生存者である、サハルとガイル探索士の両名によれば、まるで魔物のような見目の人型であったということですね。当然、魔物と比べて高水準の知能を有していたとか」
……組織課の探索士の二人、あいつら、先の討伐隊における生き残りだったのか。
魔族とは、どういった人種だったのか。――それは出立の前にも、サハルに投げかけた質問であったが、しかしその時には感じなかった違和感を、ネアの述べた詳説に覚えた。
高水準の知能を有していた。
……なんだか、妙な言い方ね。
「言われてみれば、そうですねぇ……」
――あなたたちは、随分と腕が立つようだけれど。
今まで、魔族と遭遇したことはあったりするの? というか、そっちの一人称バグの魔術師は、魔族が何であるのか、例えば由来とかを解明していたりする?
「さあ、ボクにも何もが分からない。歴史の由来さえもが、全て曖昧だった」
「きっと私たちの誰も、会ったこともありませんわねぇ。東の果ての地の外では、誰もその姿すら、見たことがないということです」
……気味の悪さに、身震いする。
何かがおかしいような――奇妙な予感。
地の跡を見る。
先遣隊が食糧や必要な物資を手放さざるを得なかった理由の一つに、魔族の攻勢部隊と邂逅しないよう、荷を捨ててでも先を急がなければならない場面があったということだ。
地に残る、確かな足跡。……もう、いつ邂逅してもおかしくない。
邂逅するのが恐ろしいというわけではなく。
なぜだか、出会ってしまうのが恐ろしいと。そのように考えていた。
「しかし……フッ……本当に、フッ……フゥ……道が険しくなってきた、な……」
普通に息切れしてんじゃないの、ウケる。
つい言葉漏らすとモノスゴイ目で見てきたチビ魔術師に、手を差し出す。私が預かっていい荷物は受け取るから、貸しなさいな。
「あらぁ……もう『収納』に空きスペースができるほど、物資を消費してしまいましたかぁ?」
いえ、武器備品や食料類、回復薬管理にテント収納――『収納』を今までにない頻度で使っているうちに、収納容量が、なんか増していってるだけよ。
「増えていってるだけって……そんな、筋肉じゃないんですから」
「筋肉!!」
容量が拡張されることに問題なんて無いでしょ。
あんたらも、手渡して問題ない物があるなら預かっておくわよ。ああ、筋肉騎士、お前のプロテインは預からないからな。
「この女……もうずっと、アダムスの肩に乗って移動しているくせに……」
「あなた、なんだか繊細さが無くなってきましたわねぇ……」
お前らと一緒にいれば嫌でもそうなるでしょう。
繊細さと一番縁遠い場所がこの場所なんだから。
「皆さん、仲良くなってきましたねぇ」とノンデリ王子が戯けを口にしたその時――怪鳥の翼持つ、爬虫類に似た象形を備えた化物が、上空から私たちの元へ急降下してきた。
私が乗った肩と逆の腕が跳ね上がり、アダムスの拳が、私たちを喰い裂こうとした化物の頭部を的確に殴りつける。次の刹那、すでに抜剣し終えていたネアの剣が、未だ宙にあった翼をも細切れにした。
今の、ドラゴンじゃないの?
「違う、今のは違う。そういうことじゃない。アレは違う」
「ウフフ、ガキですねぇ」
「ガキじゃねーし! お前いくつ!?」
こいつら元気ねぇ……。
はたして、本当に同じ人間なのかしら。
――――例えばこいつらと魔族の違いとは、いったい何なのでしょう?
ふと、考えたことだった。
化物じみたこいつらと、魔族という人種の違いは、いったい何?
その答えが――この支配領土である国の意味が、私たちの行く手、目鼻の先に迫りつつあった。
それを知った時、温室育ちの令嬢は、認めざるを得ないだろう。
私は事態を甘く見ていたのだ。




