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蝶が舞い、花が咲き誇る庭園。
何故かツカサさんは庭園にはびこるモンスターを殲滅し、回復スポットに変えていた。
故に最近、『散歩』の途中、この庭園で休憩することが暗黙の了解になっていた。
休憩といってもゲームなので何か飲めたり食べられたりするわけではない。
ただ綺麗な風景を眺めて回復アイテムを使ったりレベルが上がった時にステータスの割り振りを考える場所にできるだけだ。
けれど時々、延々ボイスチャットだけをして過ごすこともあった。
「ねぇツカサさん、ツカサさんはオフ会とか行かないんですか?」
俺がそんなことを言い出したのは佐野から『ホムンクルス』の公式オフ会があるという話を聞いたからだ。
公式というだけあって参加賞やミニゲームもあり、ゲーム音楽の生演奏やプロプレイヤーによる新マップのお披露目なんかもあるらしい。
このゲームの古参であるツカサさんがその情報を知らないとは思えない。
だから参加しないことに何か理由があるのかもしれないと思いながらも訊いてみた次第だ。
「行かないかな……公式からは招待されるけどそういう場所は苦手でね」
「そうですかー……」
二ヶ月の間、接してわかったのはツカサさんが予想以上に控えめで優しい人であることだった。
攻略サイトに推奨されるような人気ダンジョンを運営している有名なプレイヤーなのにそれを鼻にかける様子なんてなく。
復活の腕輪などという、恐らくはゲーム内に十個もないようなアイテムを疑いなく貸してくれるところなどを見ると、過去に優しすぎて損をしたことがあるからそういう場所に近づかないのかもしれないと思った。
「直哉君は行きたい?」
「はい! 行きたいんです! でも佐野も林もそれぞれ用事があって行けないって……」
「そう……だったら……都合つくし……僕と、一緒に行く?」
予想外に一言に俺はばっと顔を上げて傍らのツカサさんを見つめた。
「え、え、オフ会、俺と行ってくれるってことですか!」
「ふふ……うん、僕は普通のサラリーマンだからがっかりするかもしれないけど……」
「そんなことないです、俺だって普通の大学生ですよ、え、嬉しいです!」
思わず詰め寄るとなんでかツカサさんはちょっと恥ずかしそうに眼を逸らす。
やっぱりその顔は綺麗なのに、仕草が可愛いなんて思ってしまう。
ボイスチャットで話しているのでツカサさんが男の人だということはよくわかっているし。自分より少なくとも三歳は年上のお兄さんだということもわかっているのに可愛いなんて思ってしまう。
それがなんでか恥ずかしいけれど、こんなに優しくて自分に良くしてくれる人なのだから好意的に考えてしまっても仕方がないとも思うわけで……
と、なんだか一気にまとまらなくなった思考に戸惑う。
なんで急に自分はツカサさんのことを考えたのだろう。
ひとりでもオフ会は行こうとしていたけれど、ツカサさんが一緒に来てくれることになって嬉しすぎて、頭が働いていなかったみたいだ。
「俺、学生だから時間あるんで、会場に近くて良さそうなお店、調べておきますね! お酒とか飲まれますか?」
「うん……そんなに強くないけど、好きではあるよ」
「はい、じゃあ美味しいところ探しておきます!」
嬉しすぎてツカサさんの腕をぶんぶん振ると、ツカサさんがあの、しょうがないなぁという顔で笑う。
その顔が一番好きだと気付いたのは最近で……また、変な方向に転がっている気がする思考に俺は首を傾げながら。ついつい緩んでしまう顔を持て余し、笑い返した。
大学の前期試験が八月上旬にあり、その開放感のまま長い夏休みに入った。
盆前までの居酒屋は年末年始や年度末ほどではないが、とんでもない忙しさだ。
特に大学が近く、大学生の多いこの街はサークルのコンパや合コンなどの予約で埋まる。
「そういや夏川、お前『ホムンクルス』のオフ会行くのか?」
思い出したように佐野にそう問いかけられたのはとんでもなく忙しかった夜が終わり、夜中の賄を食べている時だ。
「うん、行く!」
俺達を労うためだろう。
店長は山のように焼き鳥を用意してくれていて。
とても幸せな気持ちのまま俺は答えた。
もしも魔王様と行くと言ったら迷惑がかかるかもしれないので名前を出さないように注意しないとな、と思いながら串に刺さった肉にかぶりついているとビールを傾けた林がにやにやしながらこちらを見てくる。
「師匠と一緒にか?」
「あぁ!」
魔王、という単語に反応しないように気を付けていたのに。師匠、という単語に反応してしまった。
こういうひっかけに弱いと知っていて林は容赦なくひっかけてくるので油断ならない。
まんまと零してしまったが……このふたりなら悪いことにはならないと思って俺は白米を口に運ぶ。
塩もたれも米に合う。
キャベツに味噌もいいが鶏の味でキャベツが食べられるのがたまらない。
「おいおい、口止めしなくていいのか? あの有名な魔王様がオフ会に、とか俺がリークするかもしれねぇのに」
「林はそんなことしない!」
悪ぶってにやにやする林に俺は言葉を返した。
「お前……もうちょっと人を疑えよ。ていうか本当にオフで会って大丈夫なのかよ、その人」
「大丈夫! 俺は男だ!」
やっぱり林は心配してくれているだけだった、と満面の笑みを返すと林が言いづらそうに頭を掻く。
「でもその人、夏川を飼うって言ったんだよ?……もしかしてリアルで会った事ある人だったりして?」
佐野も同じように心配して声を掛けてくれるけれど。知り合いだとしたらなおさら大丈夫だと思った。
もしかすると真鍋さんのようにお店に来たことがある人なのかもしれないが。そうなったら、その時はより気軽に会えるということになる。
ツカサさんとオフ会に出かけるのは三日後に迫っていて。
もう店のリサーチも済んでいるし予約もしたし、待ち合わせ場所も決めた。
どうやらツカサさんは同じ県にいるようだから確かに佐野の言うようにリアルで会ったことのある人なのかもしれなかった。
ツカサさんはどんな顔をしているのだろう。
男性であることは間違いなさそうだが、楽しみだ。




