↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界謎作劇場  作者: k-9b
#2 気が付けば、チャラいロミオとクールなジュリエットに挟まれていた
PR
36/47

若さ故の過ち

第三章 悲劇の始まり、始まり

【若葉】くっさ……。



【恋司】何とでも言え。これが俺だ。ロミオだ。



【若葉】でも良いね—— 私は、そんな風に自分を割り切れない。中途半端。



【恋司】それが良いんだろ? 俺は、俺に足りていないものをジュリエット、お前に見出した。だからお前に視界を奪われたんだ。夜会に退屈して—— こっそりと抜け出して。夜空を見上げてるお前に。俺がお前だったら出来ない。そんな勇気、俺には無い。実際、こんな態度と言葉遣いも。外面気にして表には出して無いんだ。お前の前だけ。



 とことん相手をよいしょして自分を卑下する。女たらしの常套句だ。



【若葉】格好つけの見栄っ張りか—— サイコーにダサい。



【恋司】そりゃあ、惚れた女の前で格好つけて見栄張るのは、当たり前だろ。男の性だ。



【若葉】それならさ……。



【恋司】何だよ?



【若葉】私を此処から連れ出してよ……そんなに言うなら。



【恋司】出来ない—— と言いたいのは、山々だが。仕方が無い。やってやらあ。



【若葉】うそつき。



『ロミオは立ち上がり、ジュリエットへ腕を伸ばす』



【恋司】嘘から出た実って言葉もあるだろ? 瓢箪から駒と一緒だ。



【若葉】出来もしない癖に。



【恋司】やり方なら幾らでも考えられる。親父とお袋に頼み込んでも無駄ってのは、分かってる。なら、爺様と婆様に頼めば良い。何せ、孫にはとことん甘い。



【若葉】駄目って言われるかも。



【恋司】もうお互いがいがみ合う理由何て皆、忘れてる。残ってるのは、形骸化した慣習だけ。ちょっくら俺とお前でそれをひっくり返そうぜ。



【若葉】……。



 それが出来たのならどれだけ良かっただろう。もし、それが可能だったら。


 原作のロミオとジュリエットもちっぽけな幸せを手に入れられた。



【恋司】俺一人なら出来ない。でもお前と二人なら出来る。一緒に一歩、踏み出そうぜ。



【若葉】此処から一歩踏み出したら真っ逆さまに落ちる。



【恋司】笑わせんな。なら、俺が受け止めてやるよ。



『不敵に笑うロミオ。そんなロミオに思わず、ジュリエットの口元も緩んでしまう』



【若葉】なら、明日——。



【恋司】明日? 明日が何だ?



【若葉】明日、私と契りを結んで頂戴。



【恋司】一気に重たい女になったなあ。まあ、俺にはそれくらいが丁度良い。



【若葉】本当に—— 大口叩くのだけは、達者ね。



【恋司】褒めて貰えて光栄だ。



『束の間の甘いひと時も。直ぐに邪魔が入ってしまう』



 こんな合いの手で本当に良いのだろうか。


 月並みな僕の台詞が。二人の演じる逢瀬を汚していないだろうか。


 不安になる。



【若葉】誰かが私を捜しに来たみたい。逃げて。明日、使いを寄越すから。



【恋司】おうよ。明日だな? 明日だぞ。必ずだ。



【若葉】ええ、必ず。おやすみなさい、ロミオ。



【恋司】おやすみ、ジュリエット。



『惹かれ合う二人の心。互いの手に触れるまで。そう時間は、掛からなかった』



 僕の言葉で二つ目の演目は、締め括りを迎える。



「停止」



 録画が終わり、恋司さんが大きく伸びをする。



「お疲れさまでしたっ」



「—— 割と疲れんな。これ」



「体力よりも気力を持ってかれるっ!」



 目頭を押さえる恋司さんとバルコニーから叫ぶ若葉さんに僕は、苦笑いを一つ。


 疲れるのは、当たり前だ。


 寧ろ、疲れたと言う一言で終わらせられる二人の方が可笑しい。



「どうしましょう? 三つ目、行きますか?」



 正直に言えば。初日にしては、上出来だ。恐ろしい程、順調に進んでいる。


 僕は、もう少してこずると思っていた。



「もう、お昼は過ぎてるよねっ!」



「練習も含めての過密なスケジュールだからなっ! 時間も食うっ!」



「確か—— 次は、短いんだっけ?」



「二つ目よりは……ですが、練習の時間も含めると」



 場面の都合で三人共、大声で会話をしているのは実に滑稽だ。


 でも笑っている場合じゃない。



「確実に次の五つ目と六つ目の改変が遅れるな……」



「やはり、止めておきましょうっ! 順調な滑り出しを台無しにしたくないので」



「でも……今、勢いがあるからっ!」



「とは言ってもお前の足も限界だろ? さっきから小鹿の様に震えてるぞっ」



「とても自然なやり取りでしたっ! あの本の内容をそのままやるよりも素晴らしかったですっ! きっと、今の感覚と手応えがあれば……次も素晴らしいものが出来上がるでしょう。でも今日、三つ目を撮り終えても。まだ、残り四つが控えてますっ!」



「お前の考えてる事は、手に取る様に分かるっ! 俺も集中力が研ぎ澄まされて最高の状態だ。だが、長くは、持たん。これで一区切りつけるのも長期戦を見据えた英断だ」



「うん……」



 欲張れるなら欲張りたい。されど、後半の撮影に響く致命的な問題は避けたい。


 大きな怪我に繋がれば、撮影が遅れる。それでは、本末転倒だ。好い加減、大声で話すのにも疲れたので一先ず、僕と恋司さんは、バルコニーの部屋へ向かった。



「よし。そしたら帰って小休止。そんでもって俺とネモは、改変作業。若葉は、小道具の準備。準備が終わったら俺達を手伝え」



「小道具の準備は、良いけど—— 何で手伝い? それは、恋司の担当でしょ?」



「仲間外れは……よくないと思ったんだ。いいか? これは、決して道連れなんかじゃない。仲良く三人で苦楽を共にする。つまり俺なりの粋な計らいだ」



「そんなもん要るか」



 恋司さんの提案は、至極ごもっともだ。作成の段階から携わっていれば、情報の共有も早い。前日に台本を渡す工程が何度も続けば、若葉さんの負担になってしまう。



「遠慮すんな。楽しいぞ。後は、終わった後の疲労感で酒が最高に旨い」



「……」



「折角ですから。僕も若葉さんのアイデアとか、アドバイスを頂きたいです」



「ネモ君が言うなら——」



 若葉さんの考えもこの『ロミオとジュリエット』に反映させたい。恋司さんと僕だけでは限界がある。それに共同の作業を重ねれば、一体感も生まれる。


 幸い、僕の最後の一押しで若葉さんは、折れてくれた。



「決まりだな。よっこらしょっと」



「ちょっと! 何すんのっ——」



「もう歩けねーだろ? 俺が宿まで運んでやる」



「余計なお世話だっ。この馬鹿野郎っ」



 今後の予定が決まると恋司さんが若葉さんをおんぶした。


 いきなりの出来事に慌てふためく若葉さん。



「まあまあ。若葉さん、落ち着いて」



「ネモ君っ。この馬鹿、止めてっ」



「恥ずかしがんなよ。ほんと、素直じゃねーな」



「……思う所は、あるかもしれませんが。僕も若葉さんの体調を優先すべきだと」



「っ!」



 もし、恋司さんの立場だったら僕も同じ事をしただろう。


 無理をさせる訳には行かない。


 一方で恋司さんの負担も懸念しなければならないのだが。


 当の本人は、けろっとした顔で若葉さんを背負っている。



「人一人背中に背負って連れて行くのもかなりの労力です。幾ら、若葉さんが軽いとは言えども……恋司さん、無理しないで下さい」



「男は、意地張ってナンボだ。こんなもん、瘦せ我慢の内にも入らねー」



「左様ですか」



「——」



 快活な笑みを浮かべる恋司さんとむすっとした顔の若葉さん。


 二人の関係性は、謎が深まるばかり。


 階段を降りる恋司さんと若葉さんの背中を見つめながら。


 僕は、無言で肩を竦める事しか出来なかった。


*


 一仕事を終えた夕食後。僕と恋司さんは、旅館の中庭にいた。



「今日のログインボーナス……やっぱり可笑しいです」



「そう言うなよ。もしかすっとこれも因果関係があるかもしれん」



「一体、何の役に……」



 僕と恋司さんが中庭に居る理由は、単純明快だ。


 庭園の片隅で僕達は、ちょっとした催しの準備をしていた。



「花火、良いだろ。花火。後、煙草貰えたのもラッキーだ。マジで吸いたかった」



「気分転換には、ぴったりですけど……あまり悠長な事をやっている暇は」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。