表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/59

第55話 報告

 食堂で過ごすこと1時間。

エレオノール先生だけではない。

教官は、誰も戻ってきていなかった。


「怖いねぇ・・・。」


クロエが椅子に座りながら外の様子をうかがう。


「外、見に行けないもんかねぇ。」


「だめですよ。先生方を待ちましょう。」


そわそわと落ち着きがないキリアンをマルグリットが制止する。

双子は私と同じ席に座ってお互いの手を握っていた。


もし、昨日の女だったら、私は見逃したことになる。


私は進んでいく時計の針を眺める。

時間は容赦なく進み、さらに30分の時間が経った。


その時だった。

食堂の扉が勢いよく開く。

全員が、反射的に顔を上げた。


「エレオノール先生!」


リュシエンヌの表情がぱぁっと明るくなり、彼女に駆け寄る。

エレオノール先生は服の裾が少し破れ、髪に土や葉がついている。

肩で息をしており、その顔にはいつもの穏やかな微笑みではなく、安堵が浮かんでいた。


「皆さん、お待たせしました。侵入者は取り逃がしましたが、現在は軍が追跡中です。」


その言葉に、食堂の空気が張りつめる。


「侵入者って、誰だったんですか・・・?」


マルグリットが椅子に座りながら問いかける。


「詳細は分かっていません。ですが、境界融和派の可能性が高いとのことです。」


やっぱり、そうだった。


私はわずかに視線を下に向ける。

なぜか、エレオノール先生の顔がまっすぐにみれなかった。


「本日の授業は中止です。皆さんは寮から出ないようにしてくださいね。」


そう言い、足早に扉を出ていこうとしたエレオノール先生の背中に呼びかける。


「先生。」


全員の視線が私に向いたのを感じた。

エレオノール先生が足を止めて振り返る。

彼女の瞳が、一瞬だけ、大きく開かれた。


「・・・隣の部屋へ。」


先生はそれだけ言い、私に背中を向けて歩き出す。

私もそれに続こうと足を踏み出した。


「リリス?」


ラヴィエンヌが私の腕をつかむ。

声が、少しだけ震えている気がした。


「大丈夫。」


私は頷き、彼女の手を解いた。


食堂の扉を閉める寸前、ラヴィエンヌと目が合う。

彼女の顔は影になっていてよく見えない。

けれど、私をじっと見つめている、そんな気がした。






 隣室に入ると、エレオノール先生が静かに扉を閉める。

そこには、私とエレオノール先生の2人だけ。

先生は私へ向き直ると、ゆっくりと口を開いた。


「・・・何か、あったのですね?」


「昨夜。」


私は、深く息を吸い込んだ。


「寮の裏手にある森で、境界融和派と接触しました。」


先生の動きが、一瞬止まる。


「勧誘、されました。」


「・・・。」


エレオノール先生は何も言わず、続きを促すように頷く。


私は昨日の出来事を順番に話した。

森で光を見たこと。

女と出会ったこと。

彼女が、境界融和派と名乗ったこと。

そして――


「『学校が教える正義だけが真実ではない』と言われました。」


そこまで話し終えると、部屋の中に静寂が満ちる。


「・・・そうですか。」


息と共に落とされたその呟きには、安堵と緊張が入り交じっていた。


「怖くはなかったですか?」


「強い人だ、と思いました。」


先生は静かに頷く。


「ほかに、何か言われませんでしたか?」


「仲間にならないかと。」


「答えは?」


「断りました。」


ふっとエレオノール先生の肩から緊張が抜ける。


「・・・ありがとうございます。」


そう言ってほほ笑む先生は、いつも通りだった。


「この件は、私から校長先生に報告しておきますね。」


私は頷く。


「ですが、リリスさん。」


エレオノール先生の微笑みが少しだけ真剣なものに変わった。


「今後、一人で対応しないように、お願いしますね。」


「・・・はい。」


私は静かに頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ