第48話 初授業
教室に光が差し込む。
全員が席に着いていた。
「それでは、授業を始めます。」
柔らかな声。
エレオノール先生が教卓に立った。
「授業名は、基礎魔法理論です。」
ふわり、とチョークが浮かび上がり、カツカツと黒板に文字を刻む。
「それでは、皆さんに質問です。」
チョークが動いたまま、エレオノール先生が全員を見渡す。
「魔法とは、何でしょう?」
その問いに、目の前に座っているマルグリットの頭が傾く。
「魔力を使って起こす現象、ですか?」
「半分正解です。」
キリアンが口を開く。
「属性を使う技術じゃね?」
「それも正解ですね。」
それにかぶせるように声を発したのは、アルノーだった。
「現象の書き換えじゃないかな?」
「あら・・・珍しい答えですね。」
エレオノール先生がわずかに目を丸くし、頷く。
「答えは、この世界の法則を一時的に書き換える技術、です。」
彼女が目の前に手をかざす。
火、水、土、風、光、闇、氷、植物、雷。
それらが次々に浮かぶ。
「魔法は便利。それは、みんな知っているでしょう。」
柔らかな声のまま続ける。
「だからこそ、危険です。よって、1年生が学ぶのは、強い魔法ではありません。」
エレオノール先生の手の中から雷がふっと消えた。
「魔力の制御。これが最も大切なことですからね。」
にこりと笑みを浮かべて続ける。
「Sクラスの皆さんなら大丈夫だと思いますが・・・。このなかで、魔力を暴走させたことがある人はいますか?」
「はい!」
元気よく手を挙げたのはリュシエンヌ。
続いてキリアンが軽く手を上げ、恥ずかしそうにおずおずと手を挙げたのがマルグリット。
無表情で手を挙げたのが私とアルノーだった。
「・・・半分、ですか。」
エレオノール先生の動きがピシリと止まる。
「大丈夫ですよぉ、先生!みんなここにいるんだし、今なら大丈夫!」
クロエがすかさずフォローを入れ、ラヴィエンヌが苦笑する。
エレオノール先生が再び笑みを浮かべ、口を開いた。
「一か月以内に、魔力を暴走させたことがある人は?」
「はい!」
再び元気よく手を挙げたのがリュシエンヌ。
その後に続いたのがアルノーだった。
彼女は楽し気に笑みを浮かべ、ぼんやりと宙を見つめている。
「・・・それでは、始めましょうか。」
今度は少しの間だけ。
空気を切り替えるように、手をパンパンと叩いた。
「皆さん、目を閉じて。体内で魔力を回してください。」
全員が目を閉じ、ぐるぐると魔力を回す。
魔力が高速で動き、みるみるその量が増えていく。
「目を開けて、魔力を止めてください。」
ずっと目をつぶっていたからか、わずかにぼやけた視界の端に双子が映る。
2人の瞳はわずかに発光しているようにきらめいていた。
「・・・?」
目を細めてじっと見つめる。
しかし、見えたのはいつも通りの瞳。
私はわずかに首を傾げ、視線を前に戻した。
「全員、素晴らしいですね。では最後に・・・全員、得意属性を見せてください。」
エレオノール先生が微笑みながら口を開く。
その場に、柔らかい光がはじける。
全員の手の上には先ほどエレオノール先生が見せたように、小さなものが浮かんでいた。
リュシエンヌは小さな火。
エリーヌは風の渦。
マルグリットは水球。
クロエは柔らかい光。
キリアンは、帯電した風の渦。
ラヴィエンヌは透き通った氷の結晶。
ミレルは黒い靄。
ノワールは小石。
そして、私は小さな若葉を生み出した。
その時に、
「きれいー。」
というエリーヌの呟きがこぼれる。
私が無言で周囲を見渡していると、エレオノール先生の声が聞こえた。
振り返ると、彼女はアルノーの前に立っている。
「アルノーさん。それは、何ですか?」
彼女の手の上に現れていたのは、透明な輪。
どの属性にも属していないものだった。
「知らないんだ。」
「知らない?」
ラヴィエンヌが眉をひそめる。
「昨日作ったんだよ。」
アルノーが肩をすくめながらちらりと後ろを振り返る。
「ノワールと一緒に、さ。」
ノワールは全く表情を変えず、小石を手のひらの上で転がしていた。
「・・・何。」
「いや、何って。」
ラヴィエンヌが思わず、といった調子で言葉を返す。
「新しい魔法を作ったって話なんだけど?」
「アルノーが、作った。」
即答だった。
「そうかなぁ?」
アルノーが楽しげに笑う。
「構築式の穴を埋めたの、ノワールじゃないかな?」
「覚えてない。」
「覚えてるんじゃないかい?」
「・・・忘れた。」
会話が成立しているかも怪しい。
エレオノール先生がじっと透明な輪を見つめていた。
「これは・・・無属性魔法でしょうか。」
「たぶん。」
「たぶん、で作れるんですね・・・。」
マルグリットが苦笑しながらつぶやく。
エレオノール先生が再度パンパンと手をたたく。
「今日の授業はここまでにしましょう。号令は・・・マルグリットさんにお願いしましょうか。」
「はい。起立!」
がたり、と音を立てて立ち上がる。
「礼!ありがとうございました!」




