第47話 学校案内
石造りの廊下には大きな窓が並んでいる。
春の陽光が差し込み、床に長い影を落としていた。
すれ違う生徒たちが、興味深そうにこちらを見る。
彼女らの胸元につけられたネクタイピンがきらりと光った。
色は様々だ。
赤、青、緑、紫。
私たちと同じ制服でも、どこか雰囲気が違う。
しばらく歩くと、視界が開けた。
近くで双子の歓声が上がる。
「わぁ!きれい、きれい!」
「ねー。」
広場の中央には大きな噴水。
その周囲には色とりどりの花が咲き誇り、緑が生き生きと輝いている。
白い石畳の小道。
木製のベンチ。
「ここが中庭の中心、中央広場です。」
エレオノール先生がそう言う。
その場にはSクラスの面々以外に、上級生と思われる生徒が思い思いに過ごしていた。
本を読む者。
談笑する者。
木陰で昼寝する者。
「思ってたよりも普通、ね。」
ラヴィエンヌがつぶやく。
「そうですね・・・。もっと、魔法が飛び交ってる!って感じだと思ってました。」
マルグリットを振り向き、エレオノール先生は苦笑した。
「ここで魔法の使用は禁止です。魔法の訓練は訓練場で、お願いします。」
私は彼女らの会話を聞きながら、風に揺れる木々を見上げた。
葉が揺れる音。
噴水の水音。
花の香り。
自然と肩の力が抜ける。
ほうっと息を吐き出し、目を細めた。
次に向かったのは、図書館だった。
重厚な扉は見た目に反してわずかな力で開く。
中に足を踏み入れた瞬間、全員の足が自然と止まった。
「広・・・。」
図書館は3階まであり、見渡す限り本棚が並んでいる。
「奥には貸出カウンターと自習スペースがあります。各階に自習スペースはあるので、自由に利用してくださいね。」
エレオノールはそのまま言葉を続ける。
「蔵書数は100万冊近くですね。」
「すごい・・・。」
アルノーの呟きが聞こえる。
振り返ると、彼女は本棚へと完全に意識を奪われていた。
「アルノーさん?」
「置いてっちゃうよー。」
「置いてく、置いてく!」
「アルノーさん、本を読むのは放課後にしてくださいね。」
「はい。」
最後のエレオノール先生の言葉に素直に頷く。
素直なのは返事だけだったが。
図書館を後にし、私たちは再び校舎の外へ出た。
春の日差しが暖かい。
石畳の道を歩いていくと、次第に花の香りが強くなっていく。
図書館の裏手には、色とりどりの花々が広がっていた。
赤。
青。
黄色。
白。
様々な花が整然と植えられている。
花壇の間には小道が整備され、所々にベンチも置かれていた。
リュシエンヌが目を輝かせる。
「すごい、すごい!」
「きれーだね。」
ここでも、双子が小さな歓声を上げる。
「ここは庭園です。」
エレオノール先生が穏やかな声で説明する。
「生徒の憩いの場でもありますし、植物学の授業でも利用します。」
風が吹き、花びらがふわりと舞い上がった。
私は足を止め、その様子を見つめる。
花々はどれも生き生きとしていた。
「好きそうね。」
隣でラヴィエンヌが呟いた。
私は小さく頷く。
「・・・うん。」
その返事に、彼女は少しだけ笑った。
庭園の中には、ガラス張りの大きな建物があった。
一見異質なものに見えるそれは、陽光を反射して輝いている。
「こちらは温室です。」
中に入ると、外とは少し違う暖かな空気が肌を撫でた。
見たことのない植物が並んでいる。
蔓が天井近くまで伸びているもの。
青く光る花。
小さな果実を実らせている木。
「薬草や魔法植物を育てています。」
エレオノール先生が説明を続ける。
「授業でも頻繁に利用しますよ。」
アルノーが興味深そうに植物を見つめる。
マルグリットはクロエと楽し気に何かを話し込んでいた。
その一方で、キリアンは少し離れた場所で首を傾げた。
「全部草に見えるんだけどなぁ。」
「違います。」
「違うよぉ。」
即座にマルグリットとクロエが否定する。
「全然違います。」
「そんな真顔で言わなくてもよくね?」
キリアンが飄々としながら言う。
自然と笑いが広がった。
温室を出ると、その隣には小さな畑があった。
今はほとんど使われていないらしく、土が見えている区画も多い。
「昔は授業で使っていた畑ですね。」
エレオノール先生が懐かしそうに目を細める。
「今は温室の方を主に利用しているので、空いている場所が多いです。」
私はその畑をしばらく見つめた。
むき出しの茶色。
何かが足りない。
そう思った。
その後、自由にお茶会ができるというサロンや保健室、食堂へと案内された。
食堂に足を踏み入れ、エレオノール先生と別れる。
建物の中には大きな机が整然と並び、厨房からおいしそうなにおいが漂っている。
少し早い時間だからか、比較的すいていた。
「おいしそう、おいしそう!」
リュシエンヌがメニューを見てぴょんぴょんと跳ねる。
「それでは、まずは席を取りましょう。」
マルグリットが慣れた様子で言う。
「マルゴ、なんか慣れてるよねぇ。」
「女子会の成果ですよ。」
「なんで・・・。」
クロエが疑問をありありとその顔に浮かべながら席を取る。
結局、全員で同じ机を囲むことになった。
それぞれが好きなものを頼み、その場で受け取る。
私は一番上にあった魚のムニエルをもって席に座った。
午後は、実験棟を外から眺めたり、訓練場で上級生の訓練を見学したりした。
大講堂前で解散し、今、私はラヴィエンヌとともに寮へと向かっている。
「疲れた・・・。」
どんよりとした空気をまとった彼女に「お疲れ様。」と声をかける。
「ほんっと全員自由過ぎる・・・。」
どこかに行く度に誰かが消え、誰かが動かなくなる。
それを無理やり動かしていたのはマルグリットとラヴィエンヌだった。
「・・・お疲れ様。」
私はもう一度そう言い、空を見上げる。
わずかに橙色に染まった空に、一羽の鳥が飛んでいた。
6年間過ごす場所。
その全貌は、まだ見えなかった。




