第42話 大講堂にて
私たちは、大講堂に足を踏み入れた。
たくさんの大人と生徒たちが入り交じり、言葉を交わしている。
「しばらくの間、ここで自由に過ごしていてください。」
それだけ言い、エレオノール先生はどこかに立ち去っていった。
後ろからトンッと肩をたたかれる。
振り返り、目に入ったのは深紅の瞳。
「早く、リリス。捕まったら大変なことに――」
ラヴィエンヌが珍しく、少し焦った様子を見せる。
その時、
「ねぇ、お話、きかせてくれないかな?」
ラヴィエンヌだけでなく、私もぎこちないしぐさで背後を振り返る。
そこに立っていたのは、白いネクタイをつけた少女――アルノー・ブランだった。
リリスは先ほどの自己紹介を思い出す。
「アルノーさん、ごきげんよう。」
「やだなぁ、さっき自己紹介したばかりじゃないか。」
アルノーが穏やかな口調で話す。
ラヴィエンヌの顔がわずかに引きつっていた。
それとは対照的に、リリスは無表情だ。
そんな2人を見比べて、彼女は新しいおもちゃを見つけた、そんな楽し気な笑みをこぼす。
「早速だけど、あの魔法について――」
「リリス、リリス!」
「ラヴィエンヌー!」
アルノーによって質問攻めにあう直前、背中に軽い衝撃を感じた。
私は既視感を覚えつつ、背中をのぞき込む。
「2人のお母さんとお父さんに会ってみたいの!」
「みたいのー。」
双子は楽し気に目をキラキラとさせている。
私がどうすべきか考えていると、その隣でラヴィエンヌが即座にアルノーを振り返った。
「アルノー。申し訳ないけど、ちょっと行ってきてもいい?」
全く申し訳ない、と思っていない表情でラヴィエンヌが言う。
「もちろんだよ。というか、私――」
「ありがと!」
ラヴィエンヌがアルノーの言葉を遮るようにエリーヌを支え、私の腕を引くと、小走りで駆けだした。
「もー、また明日聞かせてもらうからね!」
そんな声を背中で受けながら、私はラヴィエンヌを見る。
「よかったのかしら。」
「どうせ、明日から毎日顔合わせるんだから、いいでしょ。それより、しばらく会えなくなる親に顔見世くらいはしなくちゃ。」
私は足をぶらぶらさせておろしてほしいと訴えるリュシエンヌを地面におろしながら、ラヴィエンヌを見上げた。
「・・・そうなの?」
「あんたねぇ。」
ラヴィエンヌが信じられない、という風に呆れた表情を浮かべる。
「そういうもん。ほら、行くよ。どうせおんなじとこにいるでしょ。」
2人は歩き始める。
その後ろを双子が楽し気に駆けながらついて行った。
「お母様。」
こちらに背を向けているお母様をみつけ、声をかける。
2人は私の女性と会話していた。
双子がさっと私とラヴィエンヌの後ろに隠れる。
「あらあら、こちらがご息女ですの?」
「ええ。娘のリリスです。」
「リリス・デュポワと申します。」
私は軽く淑女の礼をする。
女性はふっと二分の笑みを浮かべた。
「ご丁寧に、ありがとうございます。・・・わたくしはリエル・セルヴァンですわ。」
女性が名乗り、目を細める。
セルヴァン・・・確か・・・。
彼女が私の後ろをのぞき込む。
「娘たちと仲良くしてくださって、ありがとうございます。」
「・・・いえ。」
私は静かに女性を見上げた。
リエル・セルヴァンが見えた瞬間、双子が背後に隠れた理由が分からない。
そんな私のことを知ってか知らずか、彼女はお母様との話に戻っていく。
私はそっとリュシエンヌを隠すようにそろそろと移動した。
ある程度離れると、くるりと身体を反転させる。
「・・・リュシエンヌ、どうしたの?」
私は彼女に目線を合わせるようにかがんだ。
「な、なんでもないよ!」
リュシエンヌは、明らかに何かを隠している。
きかない方がいいわね。
私はそう判断し、追いついてきたラヴィエンヌとエリーヌと合流する。
「それじゃ、次は私の親でも探そうか。」
ラヴィエンヌがそう言った直後、背後から声を掛けられる。
「リリスじゃないか。」
振り返ると、そこに立っていたのはお父様とラヴィエンヌの父親だった。
「お父様。」
「父さん、母さんは?」
ラヴィエンヌに問いただされ、気まずそうに眼をそらす。
「いやー・・・話し込んでいたら、どこかに行ってしまって・・・。」
「それ、絶対怒ってるじゃない。」
ラヴィエンヌは呆れたように言葉をこぼす。
そんな彼女らを見て、双子はクスリ、と笑みをこぼした。
「何を、話していたんですか?」
リリスがそう尋ねる。
「ああ、私の研究についてね。」
お父様が嬉しそうに微笑む。
「そうなんだよ。私の研究テーマが――」
「あー、もうわかったから!」
ラヴィエンヌが、研究者特有の楽し気な顔をのぞかせた父親を制止する。
「それより、母さんを探さなくていいわけ?」
「まずい!行ってくるよ!」
ラヴィエンヌの父親からわずかに血の気が引き、どこかへ駆けだした。
「それじゃあ行くね、リリス。」
お父様が私の頭をなで、どこかへと歩き出した。
「まったく・・・。」
ラヴィエンヌがそう呟きながらも、わずかに頬を緩ませた。




