第35話 入学準備①
馬車がガタリと音を立てて止まる。
扉から外に出ると、風がさらりと髪を揺らした。
正面にあるのは、レンガ造りの大きな商会だ。
扉の上には、『デシャン商会』の文字。
「行くわよ、リリス。」
私はお母様に手を引かれ、店内に足を踏み入れた。
中はブラウンとホワイトで統一されている。
今、私たちが立っている一階部分にはいくつかのガラスケースが並び、二階へ続く階段が正面に見えた。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなものをお探しでしょうか?」
私の右に立つお母様のさらに向こう側から、まだ幼さが残る少女の声が聞こえる。
この声・・・。
お母様の影から顔をのぞかせる。
そこに立っていたのは――
「リリスさん!?」
灰色の髪の少女。
琥珀色の瞳を真ん丸にしている彼女に、私は声をかけた。
「マルグリット、お久しぶりね。」
マルグリットは嬉しそうに目を細め、首を傾げた。
「ところで、なんでここにいるんですか?」
「・・・買い物よ。」
彼女はハッとして、お母様を見上げる。
「えっと・・・何をお探しでしょうか?」
お母様は苦笑しながら、口を開く。
「魔法学校の入学準備よ。」
「それなら、こちらにどうぞ!」
私たちはマルグリットの後について歩き始めた。
通されたのは、二階にある一室。
私たちは、マルグリットとよく似た灰色の髪の女性に出迎えられた。
女性に促され、部屋の中央に設置されたソファに座る。
向かい側に女性とマルグリットが並んで座る。
「商品はこちらで見る形となりますが、よろしいでしょうか?」
「ええ。」
お母様が短く答える。
女性が私の方に視線を向けた。
「先日はありがとうございました、リリスさん。」
にこりと笑みが浮かぶ。
リリスは静かに頷き、言葉を返した。
「私も、彼女には助けられました。こちらこそ、ありがとうございました。」
女性は柔らかく目を細める。
「そう言っていただけると、こちらも救われます。この子はまだまだ未熟ですから・・・。」
隣に座るマルグリットの頭をなでながら続ける。
「あの日のこと、いつも話しているんです。」
マルグリットはぷくりとほおを膨らませ、わずかに肩をすくませる。
「むー。もーやめてください・・・。」
その様子に、お母様がクスリと笑みをこぼす。
「いい子ね。しっかりしているわ。」
「ありがとうございます。」
部屋が和やかな雰囲気に包まれる。
そんな時、扉をノックする音が響いた。
「入ってください。」
すると、扉の奥から数人の店員が箱やトレーを抱えて入ってきた。
ペンやインクなどの文房具から、着用必須な手袋まで――。
様々な品がテーブル上に並べられた。
「こちらが、入学する際に必要となるもの一式です。」
「やはり、多いわね。」
「色やデザインが数種類ございますので、お申しつけください。」
話を聞いている時、目の端で何かがきらりと輝いた。
「何かしら?」
私は1つのケースを手に取る。
手のひらよりも少し小さいそれを開く。
「・・・宝石――いや、魔石?」
中には、透明な魔石が収められていた。
じっと見つめると、わずかに魔力を感じた。
「それは魔力制御補助具に使用する魔石です。ご希望の形で注文していただく形ですね。」
「触れてもいいかしら?」
「もちろんです。」
私は透明な魔石にそっと触れる。
すると、それが緑に色づき、流れ出す魔力量が増加した。
部屋の空気がわずかに張り詰める。
そんな中、女性が静かに口を開く。
「反応がいいですね。かなり精度の高い魔力制御になると思います。」
マルグリットが身を乗り出し、私の手元をのぞき込んだ。
「すごいです!こんなにきれいに色づく人、初めて見ました。」
私は静かに手を離し、ケースを閉じる。
「ここにある全部、いただくわ。」
「ほかに必要な物はないの?」
お母様の問いに、私はこくりと頷く。
それからは、デザインの決定に移っていった。




