第31話 まさかの
扉がゆっくりと開いていく。
その先にあったのは、初めの広場よりも少し狭い無機質な空間。
その中央に、大量の魔石が散らばり、赤い髪が特徴的な女性がたたずんでいた。
「よくここまで来たな。」
全員がわずかに息をのみ、目を見開く。
「まさか・・・試験官・・・!」
ラヴィエンヌの言葉に、彼女はうっすらと笑う。
「そう、試験官だ。この学校の試験官ってのは、なかなかに退屈でな。受験者の安全を保障しなくちゃならないし、どの受験者も平々凡々。」
彼女は扉に体を向け、にやりと口角を上げた。
「だが、今年は豊作だ!これでやっと、元の場所に戻れる。」
彼女が右手を横に払う。
その瞬間、部屋が、空間が震えた。
「これが、私の最後の試験だ!ただし、命の保障は無し、だがな。」
ぴん、と空気が張りつめる。
それと同時に、揺れがさらに大きくなる。
彼女の足元に転がっていた魔石がふわりと浮かび、まがまがしい光を放つ。
わずかに揺れが収まり、その代わりにドクン、と空間全体が脈打つ。
「な、んで、こんなこと・・・。」
リリスの背後でそんな、小さな呟きがこぼれる。
「なんで?」
試験官はクツクツと笑いながら笑みを深める。
「人間と魔女が争う理由。それは何かわかるか?」
誰も答えない。
そんな中でも、彼女は愉しげに言葉を続けた。
「力の差だ。理解できないから、恐れる。恐れるから、排除する。」
一歩踏み出し、受験者たちとの距離を縮める。
「なら、埋めればいいじゃないか!」
その言葉と同時に、魔石がひときわ輝きを強くする。
「それは、共存じゃない。・・・支配だ。」
ラヴィエンヌが低く言う。
「違う。人間の、進化だ。」
その瞬間、魔石がはじけて黒い霧が生じた。
「君たちは優秀だ。だから、我らの実験材料になってもらおう!」
霧が形を成す。
ふっと風に吹かれるように霧が霧散した。
そこには、この場所に来るまで戦ってきた夜狼、擬態した人影、歪んだ巨体。
すべてが同時に現れた。
その姿を確認するのとほぼ同時に、マルグリットが声を上げる。
「総員、戦闘態勢!」
だが、その時だった。
「・・・っ!?」
エリーヌの身体が、ピクリと震える。
「エリーヌ、エリーヌ?どうしたの?」
リュシエンヌが不安そうに彼女の顔をのぞき込む。
「・・・呼んでる。」
エリーヌの瞳が、再び暗く濁った。
リュシエンヌは目を見開き、試験官を振り返る。
「エリーヌ、とか言ったか?来なさい。」
「やめて!!」
リュシエンヌが叫ぶ。
しかし、エリーヌの足が1歩前に出た。
「エリーヌ、ダメ!ダメだよ!」
その瞬間、一陣の風が、エリーヌと試験官を隔てるように吹き抜けた。
「だめよ。」
いつもよりも、ほんの少し低い声がその場に響く。
さらりと柔らかい茶の髪が揺れた。
「この子は、いかせない。」
エリーヌの腕をつかみ、引き寄せた。
試験官はわずかに目を細める。
「・・・君か。放しなさい!」
命令するような口調にも、リリスは表情を変えずに答える。
「いやよ。」
こどものような答え。
試験官は諭すように告げた。
「その子は、適合している。人間と魔女の力が同じになった時、力を見極めることができる。」
彼女は1歩近づく。
リリスはエリーヌをかばいながらも、無言でそれを見つめた。
「魔石の力を、その身に取り入れたら、な。」
「それは、この子を――エリーヌを利用しようってことかしら。」
「いや。その子が希少な成功例だってことを教えたくてね。」
その言葉に、リリスの瞳が初めてわずかに揺れた。
「素材として、実験材料として最高なんだ。」
その時、リリスの口が静かに開かれる。
「・・・違う。」
「なんだって?」
「この子は、ものじゃないわ。ただの子供。」
「ほう?」
空気が変わる。
周囲の戦闘音が遠のいて行くような感覚がした。
「怖がって、泣いて、喜んで。・・・それの、どこが素材なのかしら。」
リリスの言葉を聞き、試験官は愉し気な笑みをのぞかせる。
「感情論じゃないか。」
リリスの動きが、止まる。
しかし、次の瞬間口を開いた。
「そう、かもしれないわ。でも――」
エリーヌをかばうように前に出る。
「それでいいわ。」




