第29話 おかえり
「エリーヌ!エリーヌ!!」
リュシエンヌが叫び、腕の中で不気味な笑みを浮かべるエリーヌの身体を揺さぶる。
その瞬間――
リリスたちへと向いていた敵意が再び、双子へと戻る。
夜狼たちはその赤い眼をらんらんと光らせ、2人へと1歩を踏み出した。
「・・・っ!全員、結界展開!」
マルグリットが目を見開きながらも、反射的にそう叫ぶ。
それとほぼ同時に、全員が全力で結界を構築した。
ミシリ。
数瞬後――
結界に夜狼たちが突進した。
結界は次々に壊れ、何度も貼りなおされる。
「リリス!」
「ええ。」
太い蔦が敵を薙ぎ払い、氷が道を切り開く。
その間も、リュシエンヌは泣き叫び、エリーヌの身体をゆすっていた。
「戻って、戻ってきてよぉ。エリーヌ!!」
「・・・うるっさいなぁ。」
エリーヌが、静かに口を開く。
その瞳は黒く濁り、視線が定まっていない。
その言葉に、リュシエンヌの心臓はドキリ、と音を立てた。
しかし、唇を噛みしめ、キッとにらみつける。
「違う!違うもん!エリーヌじゃない!」
そう言いながら自らの妹の身体をぎゅっと抱きしめる。
彼女の金の瞳が燃え上がるように輝き、ふわふわと揺れた。
それに呼応するように、エリーヌの瞳がわずかに金に輝く。
しかし――
「うるさいって言ってるよねぇ?」
再び瞳は漆黒に染まった。
エリーヌ――エリーヌの中にある何かがリュシエンヌの身体を押しのけた。
リュシエンヌがしりもちをつく横で、何かは身体を起こす。
次の瞬間、彼女の周囲に風が巻き起こった。
誰も近づけないほど、強い風。
「だめ、だめだよ!死んじゃうよ、エリーヌ!」
リュシエンヌは両目に涙をためながら叫ぶ。
「うるさい、なぁ。」
風がより強く吹き付ける。
エリーヌの魔力が、その場にいた誰よりも強くなった。
その魔力を練ろうとした、その時。
「・・・おねぇ、ちゃ・・・。」
わずかにこぼれたその声を、リュシエンヌは逃さなかった。
「そう、そうだよ!戻ってきて、エリーヌ!」
リュシエンヌは暴風をものともせず、ゆっくりとエリーヌに歩み寄る。
彼女が1歩を刻むごとに、エリーヌは苦し気にうめき声をあげた。
リュシエンヌが5歩進んだとき、エリーヌは膝をついた。
目の前に立ち、リュシエンヌは彼女の顔をのぞき込むように見る。
そして、笑みをこぼした。
「おかえり、エリーヌ!」
「た、だい・・・ま・・・。」
エリーヌの身体からふっと力が抜ける。
そのまま前に倒れ、リュシエンヌにもたれかかった。
「よかった、よかったよぉ・・・!」
リュシエンヌが涙をこぼしながら、エリーヌの身体をぎゅっと抱きしめる。
その時――
今までにないほど、強い脈動が響く。
その場にいた全員が一瞬扉へと目を向けた。
「・・・近い。」
エリーヌがかすれた声で続ける。
「もうすぐで、中心、だよ・・・。」




